第1話「選ばれし子」




 ─ 神竜貴史しんりゅうたかしの誕生 ──





 今日は10月27日。

 世界的に起きた大災害で沢山の人が命を落とした日。そして沢山の人の命を繋ぐ新しい資源が発見された日。


 世界共通の祝日『命の日』


 世界史に刻まれた29年前と同月同日。


 愛しい我が子の顔を早く見たいが為に、最後の大仕事に勤しむ母の姿が。


「はぁ、はぁ、うっっっっあーーっ!」


「頑張れ、里見さとみ! あともう少しだぞ!」


 ここは産婦人科の分娩室。

 分娩台に横になって荒い声を上げているのは神竜里見しんりゅうさとみ

 そして、その横で里見を励ましているのが神竜巌上しんりゅうがんじょうだ。


「ママさん、あと少しですよ。呼吸法を教えたでしょ? はい、ひっひっふー、ひっひっふー」


 助産師さんが里見に、事前に教えていた呼吸法をするように促している。


「は、はい、ひっひっふー、ひっひっふー」


「さあ! いきんで!」


「は、はい! んんっっ……はあーー!」


「はい! もう一度!」


「はいー! んーーい゛ーんあーー!」


 巌上がんじょうは、分娩室の中を左に右に行ったり来たり。


「お父さん、もう少し落ち着いて下さい。──そうだ、赤ちゃんの名前はもう考えてるんですか?」


 助産師さんの言葉に巌上がんじょうが立ち止まった。


「は、はい! お、男の子だと聞いているので……貴史たかし神竜貴史しんりゅうたかしです!」


神竜貴史しんりゅうたかし君……いい名前ですね〜。──あっ! 貴史たかし君、出てきましたよ〜」


 新しい命の誕生だ。


「──おんぎゃ〜、おんぎゃ〜!」


 助産師さんの声と同じくして、元気のいい赤ちゃんが産声を上げた。


「で、でかしたぞ、里見!!」


 助産師さんが赤ちゃんを抱き上げ。


「ママさん、パパさ〜ん、元気な男の子でちゅよ〜」


 助産師さんも嬉しいのか、里見と巌上に赤ちゃん言葉を使っているのが可笑しい。


「か、看護師さん! あ、ありがとうございます。看護師さんのお陰で、里見も安心して出産できたと思います!」


「いえいえ〜。そんなことより……あ〜、きましたよ〜。さあ、ステータスが浮かび上がりますよ〜」


 産まれて間もなくすると、赤ちゃんの体がプルプルと震えだす。


 ステータスが浮かび上がるサインだ。


「こ、これは……」

「えっ?」


 浮かび上がった貴史たかしのステータスを見た巌上と里見は、口を開き固まってしまった。


 ついでに看護師さんまでもが……。


 ━━━━━━━━━━━


 名前  ─ 神竜貴史しんりゅうたかし

 価値  ─ 0円

 ランク ─ ━

 職業  ─ ━

 状態  ─ 良


 総合力 ─ ━


 スキル ─ 最強


 ━━━━━━━━━━━


 スクリーンに映写するように浮かび上がったステータスには価値が0円と表示され、文字が表示される筈のないスキル欄には『最強』の文字が……。

 そして、文字の色が通常の白ではなく、赤色で表示されていた。


 口を開いたまま動きが止まっている三人だったが、時を経て動き出す。


「──価値が0円だと? しかも文字が真っ赤じゃないか!」


「あなた……この子、もうスキルを保有してるわ。しかも『最強』だって!」


 生唾を飲み込んでいる巌上がんじょう


「ああ、俺も見てるよ。──正直驚いたが、この子は選ばれし子なのかもしれないぞ。──さ、里見? まだ起き上がっちゃ駄目だろ!」


「だって、興奮しちゃって寝転んでなんていられないもの!」


 出産直後だというのに、二人は踊り出し狂喜乱舞していた。


「駄目ですよ、ママさん。パパさんも、ママさんを興奮させないで下さい!」


 助産師に怒られる巌上がんじょうと里見。


 巌上がんじょうも里見も一瞬戸惑っていたが、余りにも見たことの無いステータスに、「選ばれた子」だと何度も言う。


 価値が0円なのも化ける前触れかもしれないと、笑顔が絶えない2人。


 巌上に至っては。


「これは、6歳の定期検診と、10歳の誕生日に行う儀式が楽しみだな! 10歳の儀式で全てのステータスが構築された貴史たかしを想像すると……ああ、いかんいかん、今産まれてきたばかりなのに、親馬鹿も程々にせんとな。──っ駄目だ、顔がニヤつく。

貴史たかしは10歳の儀式で職業が決まると、化け物のようなステータスが構築されるぞ! あ〜、早く大きくなってくれ〜」


 などと喚いている。最早もはや、親馬鹿を通り越し、ただの妄想バカだ。


 巌上がんじょうは立ったまま、里見はベッドに横になって頷き合っている。


 巌上はまだ「この子は他とは違う、必ず大物になるぞ!」と、叫んでいる始末……。


「あの〜、お静かにしてもらえます?」


 助産師さんが当たり前の言葉を発すると、巌上は頭を下げて反省の意を表した。


「それでは、出産前に同意して頂いていました通り、ステータスロックを今から施しますね」


「お騒がせして申し訳ない。──ステータスロックですね、確かに同意しました。──お願いします!」


 巌上が今度は深々と頭を下げた。




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