第23話「二戦目は惨敗」


 ゴブリンを倒して調子に乗った俺は、体力をつける為にとにかく走りまくった。

 お腹が空けばキノコや山菜をつまみながら、家から持って来た食料を少し食べる……また走っては食べる。


 川を見つけると、サバイバル用に開発されたフィルター付水筒に水を入れた。

 この水筒に川の水や雨水をいれると、フィルターを通して飲めるくらい綺麗な水になる。もちろん泥水にも対応している。


「よし、これで水分は困らないぞ」


 家にはネラルウォーターが箱で置いてある。母が健康志向だったから。


 だが、それだけではいずれ底をつく。そこで先程の水筒が役に立つ訳だ。

 水筒に川の水を入れて蓋を閉めていると、イノシシを発見した。



 ── イノシシだ。キノコや山菜ばかりじゃ筋肉もつかなさそうだし、今日の晩御飯にしようかな……。ゴブリンに勝てたんだから、イノシシくらい余裕だろ。



 そう決めた俺は、イノシシに気付かれないように木に隠れながら近づいた。


「やー!」


 イノシシが即反応する。俺は素早く愛刀を振り下ろしたつもりだったが、愛刀の刃の下を潜るようにイノシシが突進してきた。


「ブモーッ!」


「うわっ!」


 愛刀を振り下ろした勢いのまま柄を握る手がイノシシの頭に当たり、偶然跳び箱を飛ぶようにイノシシを飛び越えた。


「あっぶない!」



 ── なんでバレたんだ? ──あっ! そうか、また声を出しちゃったからだ!



 イノシシが俺の股の下を通り抜けると、突撃してきた勢いを殺し振り返って俺を見る。イノシシの目が光っているように見えた。


「ブモーッ!」


 振り返り態勢を整えたイノシシが、また突撃してくる。


 その姿は、正に猪突猛進。


「ぎゃー! 恐いー!」


 さっきは偶然突撃を避けられたが、ぶつかれば痛いだろうと恐怖心が先行する。

 俺は為す術なくただ追い掛けられる羽目に。


 想定外の事態に、涙を流しながら逃げた。


 それはもう必死に逃げまくった。


「た、たすけて〜!」


 誰もいないことは分かっているが、怖すぎて助けを求めてしまう。


 一目散に木を縫うように駆け回っていると大きな岩が目に入り、走っている勢いを借りて何とかその大きな岩によじ登り、イノシシノの追従を逃れることに成功した。


「ハァハァ、殺されるかと思った……。2戦目は惨敗だな……」


 ゴブリンを倒せたのはまぐれだったようだ。


「──それにしても、愛刀を振り下ろした手がイノシシの頭に当たって偶然だけど飛び越えられたなんて……。俺ってこんなに運動神経良かったかな?」


 自分の体の動きに違和感を覚えたが、悪いことではないのでそれ以上は考えなかった。


 俺を追い掛けてきたイノシシが、大きな岩の周りを鼻息を荒めながらグルグルと周っている。


 その様子を上から眺めながら。

 

「──ここで引いたら男じゃないよな」


 大きな岩からその時を窺う。今度はバレないように無言のまま。


「……!」


 愛刀の切っ先を下に向け、イノシシの背中目掛けて飛び下りる。


「ブモオォォーー……」


 飛び下りた勢いと愛刀の凄まじい斬れ味とで、イノシシを串刺しに。


「やったか?」


 その場に倒れ息をしなくなったイノシシに向かって。


「ごめんなイノシシ……」


 有難い命に感謝だ。

 これで何日分かの食料をゲットできた。


 ダンジョンが現れモンスターなるものが生息している時代なので、学校で月に一度はサバイバルの授業がある。


 その授業で色々と習った。

 勉強も運動も得意ではなかったが、このサバイバルの授業だけはとても好きで、熱心に聞いていたんだ。


 その時に習った一つが動物の血抜き。


 喉のけい動脈を切って、血を流し出さないといけないらしい。 内臓類もなるべく早く出さないと腐敗してしまうと習った。


 血抜きの後に肉を捌くのだが、捌き方は習っていない。台所にも立ったことなどないので、全く分からない。


 大雑把に肉の塊が取れる部位を切り取り、持ってきていた金串に刺して全部焼いた。


 リュックにはサバイバル道具を入れてあるので、火を起こすことは簡単だ。


 焼けた肉は大事な食料なので、ビニールの袋に入れる。


「必死で逃げてたらこんなに上まで来てたんだな……暗くなってもまずいから、一旦麓まで下りよう」


 生より軽いだろうが、大雑把に切ったといっても量がある。

 大事な食料を置いていく訳にもいかないので、重たい肉を担いで山の麓の自転車を停めてある所まで下りた。




「だぁー、疲れた……。重さで肩がヤバい。休憩してもう少し鍛えようかと思ったけど……」


 リュックを降ろし、そう呟いたものの……山を見上げてゴブリンとの戦いを思い返す。


 もしも殺られていたらと思うと背中に悪寒が走った。

 顔を左右に何度も振って、いらない妄想を吹き飛ばす。


「やっぱり止めておこう……。初日だし、体が結構疲れてる。俺は弱いんだから焦っちゃ駄目だ。一日でどうこうはならないもんな。山にいるモンスターを一掃するなんて最終目標なんだ。だから今焦ってもしょうがない。コツコツと頑張らないと……」



 ── まぁ何事も臨機応変が大事だよな。死んだら元も子もないんだから。止めようと思った時は素直に止めておこう。


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