第7話「変わらない価値」
✡
時は過ぎ、ついにやって来た俺の6歳の誕生日。
父が沢山の人を家に呼んだ。
盛大に
パーティー会場は神竜家のリビング。広さは約15坪あるので、知り合いを何人か呼んでも然程窮屈ではない。
そこに集まったのは13人、その誰もが俺の価値に興味津々なのだろう。
そして、その時はやってきた……。
「さあ、お集まりの皆さん! 本日のメインイベントを始めます!」
日本UAFの桂隊員が大きな声でそう言い放ち俺の前に立つと、この場にいる全ての人が大声を上げグラスを掲げた。
「待ってました!」
「超越者の誕生に立ち会えるとは感激だ!」
皆の注目を浴び、緊張のせいか脚が震える。
桂隊員が笑顔を作り、目の前の空間に手を
『鑑定眼』
俺の緊張は最高潮にまで高まり、意図せず目を固く閉じた。
浮かび上がっているであろう俺のステータスに、大歓声が巻き起こった……となるはずだったが……。
誰の声も聞こえない。
静寂の中脈打つ速度が上がり、自分の心臓の動きで全身が揺らいでいるような感覚に陥った。
「なんでみんな声を出さないの?」
目を閉じたままそう口にした。
俺は胸が張り裂けそうな程不安に駆られている。
誰も声を発しない中、閉じていた目をゆっくりと開けて浮かび上がった自分のステータスを確認してみると。
「──価値が0円のままだ……」
目にした自分のステータスに、頭の中が真っ白になった。
そして、止まっていた時が動き出す。
「──な、なんだこのステータスは、この子は選ばれし子の筈じゃ……」
戸惑う父の声。
「あ、あなた……。こ、この子は、この子は……」
母も混乱しているようだ。
父も母も、今まで見たことがないような顔をしている。
悲しみや怒り、戸惑いや絶望などの色んな感情を一度に表情に表しているかのように。
「嘘よ! 嘘だと言ってちょうだい!」
母は泣き喚きだす。
「うそだろ? 俺の弟がこんなカスみたいなステータスだなんて……友達に聞かれたらなんて言えばいいんだよ」
兄の
「ほんっと。私も友達になんて言おうかしら? 私の弟はカスなの……なんて言えないし。ふんっ、笑っちゃうわ」
姉の
その刹那、家の揺れを感じた。
「ゆ、揺れてる……」
その揺れが次第に強くなり、やがて激震へと変わる。
「きゃー!」
「なんだこの揺れは!」
「わわわわっ、ゆ〜れ〜る〜……」
程なくして止まる揺れ。
「なんだったんだ今の揺れは? ──これは、
まさかの父の言葉。
その時、俺の横にそっと寄り添うように誰かが立った。
見上げると、そこにいたのは世話係の佐山だ。
佐山が俺の肩を強く抱きしめてくれる。
「大人が勝手に期待しただけですから。坊っちゃんは気にしなくていいですよ」
その言葉と大きくて暖かい手に、胸の締め付けがほんの少し治まった。
パーティー会場は揺れのせいなのか、俺のステータスを見てなのか分からないが、ザワついていた。
そのザワつきも次第に収まり、皆がため息を付きながら会場から出て行く。
噓のようだが、俺の価値は産まれた時のまま0円。スキル『最強』は消えていないが、文字の色は青く変わっている。
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名前 ─
価値 ─ 0円
ランク ─ ━
職業 ─ ━
状態 ─ 良
総合力 ─ ━
スキル ─ 最強
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青は抑制のイメージ。
このまま大人になっても、価値は0円のままかもしれない……。
ステータスを開示した日本UAFの桂隊員が呟いた。
「哀れなり、最強ではなく最悪の文字間違いか……。まあ、10歳まで待つのもこれまた一興」
その言葉の意味が分からなかったので、佐山に訊いてみた。
「──う〜ん、えっとですね……あぁ駄目だ、私は坊ちゃんに嘘はつけない……。本当のことを言いますので、気を落とさないで聞いて下さい。──坊ちゃんのステータスにあるスキル『最強』は表示間違いで、本当は『最悪』じゃないかと。そして、6歳はあくまでも定期検診にて価値の確認をするのみ。職業が決まる10歳まで待てば何かが変わるかも、という意味です」
子供ながらに、酷いことを言うオジサンだと思う。俺は桂隊員が嫌いになった。
10歳の誕生日がくると、価値は1,000円、素質がある人は1,500円まで上がった人がいるらしい。
6歳での俺の価値は0円。
10歳になれば、せめて普通くらいにはなるのだろうか?
なんなら、100円でもいいから上がってほしいと願う。
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