出会い
第21話「黒い山?」
─
何もしない訳にはいかないんだという思いに至り、出した答えは
モンスターになんかビビッてちゃ駄目なんだと。
「目標があった方がやり甲斐があるだろうなぁ……。──よし、町外れの山に住んでるだろうモンスターを全て討ち取ることを最終目標にしよう! すぐには到底無理だけど、何年掛かってもいいや。これを目標に頑張るんだ! って、俺凄い事言ってるな……」
自分でも驚いてしまう程の目標を口走った。兄や姉に虐められて、「やめて!」っと言っていた10歳の誕生日以前の自分からは、全く想像もつかない成長ぶりだ。
纏まった考えは、もし助けが来れば体を鍛えて、強く大きくなってからモンスターを倒しに帰ってくること。助けがこなければ、この町で鍛えながらモンスターを少しずつ倒していくこと。
もちろん考え方が安易だということも理解している。
すぐにモンスターに殺されるかもしれないし、寂しさに勝てないかもしれない。
だからといって、この家にずっと隠れていても餓死するだけだ。
そんなことを改めて考えていると、佐山に常々言われていた言葉を思い出した。
─『坊っちゃんの良いところは、前向きなところです。何があっても諦めず、やると言ったらやり続けられる強い心を持っています。言うだけなら誰でも出来ますが、坊っちゃんのように実行出来る人は中々いませんよ……。だから、価値が0円だからといって諦めてはいけません。他人など当てにせずに、自分で道を切り開くのです』
今となっては懐かしい言葉だ。
俺は決心した。
誰も助けに来ない場合は、この町を出れるくらい大きく強くなっても、山に蔓延るモンスターを一掃するまでこの町を離れないと。
「よし、やってやるぞ! この最強の矛があれば、子供の俺だって一人でも生きていける……筈だ。鍛えまくって倒しまくって強くなって、俺が呪われてると思っている奴らを見返してやる!」
目指すは磯良支部へと続く道をひたすら進むこと。
持てるだけの食料とサバイバルの道具をリュックやバッグに詰め込んだ。
「もう十二時半か……。あれこれ考えてたら時間なんかあっという間だな」
さっき朝ご飯を食べたと思っていたが、時計の針は正しいと言わんばかりにお腹の虫が鳴りだした。
何かの本に書いてあった、腹が減っては戦はできぬと。
「この家での最後のご飯を食べてから出ようかな……」
❑ ❑ ❑
食事を済ませ、ズボンのベルトに最強の矛を差して家を出た。
「ちょっと刀が大きいな……。でも、紐で縛って背中に背負うといざという時困るし……まぁいっか。──よし、頼れる人は誰もいない、もう頑張るしかないんだ。何年掛かろうがやってやる!」
言葉に出すことで、自分を奮い立たせた。
自転車の籠に荷物を積み、籠に入らないバッグを後の荷台にロープで括り付ける。
準備は万端、いざ磯良支部へと続く道を突き進ことに。
前に進みながら、「もうこの家には、荷物を取りに帰るくらいかもな……」と呟き、踏み出していた足を止め、一度振り返って皆が眠る家に向かって手を合わせた。
外で運動をすること自体が久しぶりなので、始めはゆっくりと進むことに。
「やっぱりどこも無茶苦茶だ……」
ゆっくりと体の動きを確かめながら車の走っていない道路を自転車で走っていると、家が崩壊していたり焼け落ちていたり……倒れている人もあちらこちらに見える。
── ホラー映画を見てるようだ……。
「誰かいませんか〜!」
この間のようにいきなりモンスターが飛び出てきそうな雰囲気の中、恐怖心を抑える為に出来るだけ大声を出しながら自転車を漕いだ。もし人がいれば助け合えるから。
すると空から音が聞こえてくる。
「何の音だろう?」
空を見上げてみると、その音の正体が視界に入りそれが段々と大きく見えてくる。
「ヘリコプターだ! UAFのマークが入ってるぞ! おーい! 助けてー! ここだよー!」
自転車を降りて必死に手を振り、これでもかというくらいに大声を張り上げた。
「ここだってばー! たーすーけーてー!」
俺の叫びも虚しく、ヘリコプターが山の向こうへと飛び去って行く。
「──行っちゃった……。俺が小さ過ぎて見えなかったのかな?」
意図せず涙が流れた。
「駄目だ駄目だ……泣いちゃ駄目だ。──栗山支部と連絡がつかないからヘリコプターで様子を見にきたんだな、きっと。ということは、やっぱり町全体が崩壊したのか……。この町の有様を見たんだから、次は大勢で来てくれる筈だ」
俺は涙を拭った。
── 希望は捨てないけど、期待はしないでおこう。今まで期待してもろくなことが無かったし……。頑張っていれば必ずいい事がある筈だ……うん、目標に向かって突き進んでいれば必ず良いことがある!
気持ちを切り替えて自転車に跨り、予定通り先を急ぐ。
❑ ❑ ❑
ヘリコプターを見た後は、何事もなく進んでここまで来たが人にも会わなかった。
閑散とした道路に表示されている標識を見ると、そろそろ山の麓に着いてもいい頃だ。
── こんな所まで一人で来たのは初めてだな。
辺りを見回しながら自転車を漕いでいると、路地の奥にあるグラウンドが目に入った。
「こんな所に大きなグラウンドがあったんだ……。車で通り過ぎると分からないもんだなぁ。──あの黒い山はなんだろう? ん? 焼けた木が立ってるのかな?」
何故か凄く気になったので、路地に入りグラウンド近くまで自転車を走らせた。
金網に囲まれたグラウンドの外に敷地があり、その敷地の周りを鉄の低い柵がぐるりと覆っている。出入口が数箇所あるその敷地は公園のようになっており、遊具がちらほらと設置されていた。
鉄柵まで来るとここからは自転車を降りて、遊具を避けながらグラウンドまで歩いた。
すると、金網に囲まれたグラウンドの中にある、その黒い山の全容が見えてきた。
「──え? 焼けた木の下の黒い塊は人じゃないか! モンスターに囲まれて逃げる所がなくて、真ん中に集まったところを俺が殺られたような火の攻撃で殺られたのか? 本当にこの町は終わってる……」
手を合わせて心で祈りを捧げながらその場を去った。
家を出てから2時間くらい自転車を漕いだだろうか、山へと繋がる道の前までやって来た。
「結局誰にも会わなかった……。ヘリコプターが去って行った後も救助にはこないし。寝泊まり出来そうな所も無かった……。──よし、自転車はここに置いて、とにかく体を鍛えよう!」
自転車を降りてバッグをその場に置き、リュックだけを背負って歩いて山道に入ろうとした。
──その時……。
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