第28話「もはや運命」


 京子が「それは……」と言って俯いてしまった。


「京子が言うように、体の調子が悪くなった時って普通はステータスにある状態を見るだろ? でも俺は不調の原因を調べる為に、自分のステータスを開示してほしいなんて誰にも頼まないんだよな。ステータスを見られて何か言われるのはもう嫌なんだ。だから、開示出来なくなるのは逆に嬉しいしよ。──どうせ俺には仲間なんか出来ないって思ってたから、って言うか仲間のなの字も考えたことないかも? まぁ、足を引っ張るとかは置いといて、京子が仲間になってくれるんだったら、それは俺にとっては願ってもないことなんだ。京子の『隠滅いんめつ』ってスキルは、俺には得があっても損は無い。仲間になってなんて、俺がお願いしたいくらいだよ」


 俺の話を聞いていた京子の目から、涙が溢れた。


「ぐすっ。──私は、この『隠滅いんめつ』ってスキルの詳細を教えてもらった時に、絶望感に襲われたの。ぐすっ……スキルは交換出来る筈なのに、この『隠滅』は手放す事が出来ないって言われて……。だから、一生仲間なんて出来ないんだろうなって。ううっ、ひんっ。──町がこんな惨状になるなんて有り得ない事も起こるし、もう死んだ方がいいがもって思っでだ……のっ。まさか仲間になってもいいって言ってくれる人が現れるなんて、ぐずっ……夢にも、思って、なかったわ……え〜ん」


 泣いている京子の肩に手を置いた。


「死んでどうするんだよ。京子はまだ仲間を作れる可能性があるけど、俺なんか価値が0円なんだぞ。誰が無価値の人を相手にすると思う? こんな俺でも前向きに生きてるんだから、腐っちゃ駄目だろ。だいたい6年生が4年生の俺に励まされてどうするんだよ……全く」


 俺達にとってこの出会いは、奇跡的と言っていい。


 今日ここで俺が京子に出会う確率は、天文学的な数字だと思う。


 あの時こうしていたから、あの時あんなことを考えたから……今まで起きた全てのことが必要で、どれを除いてもこの出会いは生まれなかっただろう。


 奇跡的な出会い……だが、もし二人が出会えたことがではなくなら……。


 いや、これはもはや運命かもしれない。


 それを確かめる術はないが、出会えたという事実、お互いに出来ないと思っていた仲間が同時に出来た事実。


 その事実だけで、俺は十分運命だと思える。今迄に起こった事がこの出会いに必要だったのではなく、この出会いの為に今迄があったんだと。



 ── そう考えてみると、愛刀に出会えたのも運命を感じるなぁ。あの日、あの場所でお父さんの話を聞いてなかったら、家宝の刀を探す事もなかったんだよな。こうなってくると、まだ運命的な出会いがあるかもしれないぞ。



 そんな事ことを考えながら、京子の肩から手を離し。


「はい、手を出して」


 握手を求めた。


「俺達は今日、いや、今から仲間だ! お互いに支え合い協力して頑張ろう! 京子、よろしく!」


 京子が涙を拭い、俺の差し出した手を両手で握る。


「ええ、ありがとう。私、嬉しい……。──私達は今から仲間ね! 貴史たっくん、ヨロシク」


 すると、京子の手から熱気が伝わり、体の芯から温かくなってきたというか、心地の良いものが体の中に届き、力が溢れてくる。


 瞬間、一度だけ心臓が大きく脈を打った。


「え? なんだこの感覚は……。なんか、ゴブリンを倒した時と似た感覚だ。京子の手から何かが伝わってきた感じがしたんだけど……気のせいかな?」


 京子が笑顔で答える。


「ふふっ。気のせいじゃないわよ。──あのね、仲間にならないと言えない事があってね……だから隠していた訳じゃないんだけど……。貴史たっくんとはもう仲間だから、私のスキルの詳細を教えてあげる。でも、その前に家に入らない?」


 確かに、そろそろ辺りは暗くなりそうだ。


「京子の家に入ってもいいの?」


「誰もいないもん。それとも貴史たっくんの家に行く?」


「俺の家は、ここから自転車で小一時間くらい掛かるんだ……。それに、中はヤバいよ?」


 色んな意味で俺の家に行くのは止めておこうという事になり、今後は京子の家を2人の拠点にすることになった。


「さあ、入って」


 京子に背中を押され少し緊張気味に頭を下げる。


「おじゃましま〜す」


 俺の家と比べると狭いが、綺麗に片付いている。家に入るなり、前を歩いていた京子が立ったまま動かなくなった。


 突然振り返り、神妙な面持ちで話し出す。


「ん? ちょっと待って……。貴史たっくんの名字って神竜しんりゅうって言ったわよね……。もしかして、日本UAF栗山支部の支部長がお父さん?」


「そうだけど、それがどうしたんだよ」


 京子が大袈裟に仰け反り、驚きを表現している。


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