第34話「一番不人気のスキル」



 ✡京子視点



 ─ 京子10歳の誕生日 ──






「私、くノ一になりたい!」


 私は、日本UAFの桂隊員に自分のなりたい職業を伝えた。


「ほぉ〜、くノ一ですか。私は『儀式』を任されるようになってまだ日が浅いですが、くノ一になりたいと言われたのは初めてです」


 お父さんとお母さんには相談済み。

 2人とも「京子がなりたい職業にしなさい」って言ってくれたの。


 もし、お爺ちゃんとお婆ちゃんが生きていたら、同じことを言ってくれた筈。


「分かりました。それでは、まずステータスを開示し、その後に『儀式』にて職業を決定しますね」


 桂隊員がそう説明し、一連の流れ通りに事を進めた。


 滞り無く『儀式』が終わって私の職業がくノ一に決定し、全てのステータスが構築されていく。


「桂さん、ありがとうございます!」


「いえいえ、どういたしまして。京子さんの職業がくノ一に決定してので、スキルが1つ付与されています。『情報漏洩』ですね。これは珍しいスキルですよ。私は『鑑定眼』を保有してますが、それよりもレアなスキルです。羨ましいですね〜。頑張って使いこなして下さいね」


 桂隊員はそう言った後、お父さんとお母さんとお話をしている。


「ふふっ、私もやっと大人の仲間入り! でも、もう1つスキルを保有出来るのよね? 大人は皆2つ保有してるし……私も早く2つ目のスキル欲しいなぁ……。──そうだ! お爺ちゃんがスキル玉を持ってたって前にお父さんが話してたような……。なんのスキルか知らないけど、持って遊ぶくらいいいよね?」


 私はステータスが構築されたことがあまりにも嬉しくて、気分がハイになったていた。

 その嬉しさとは裏腹に保有スキルに空きがあることが、子供のようでなんだか凄く嫌だった。


 いつもは悪い事はしないんだけど、凄く気分が良く……いや、気分が良すぎて、もう居ないお爺ちゃんの部屋に忍び込んで、スキル玉をちょっと拝借しようと思っちゃったの。


「──なんか泥棒みたいで緊張しちゃう。えっと……スキル玉はどこかな〜……あっ! 赤い玉! これね、スキル玉。見ただけでは何のスキルなのかは分からないって聞いてたけど、本当に只の真っ赤な玉なのね。スキル玉を握って集中すればいいんだっけ。──ん〜、このスキルが欲しい〜! ──えっ? スキル玉が消えちゃった……。あれ? やり方が違ったのかな? 発動すればいいの? 発動! ──あれ? なにも起こらないわ……」


 いきなりスキル玉が消えてパニックになった私は、慌ててお父さんとお母さんの元へ走った。


「お父さ〜ん、お母さ〜ん」


「ん? どうしたんだい? そんなに慌てて」


「京子、お客様がいるのになんですか、女の子がはしたないですよ」


 いつも優しいお父さんに、少し口うるさいお母さん。でも今は、はしたないとか気にしていられなかった。


「スキル玉が消えちゃった……」


「何を言ってるんだ?」


 お父さんが首を傾げた。


 そこへ、まだ家にいた桂隊員が話に割って入る。


「ちょっと待って下さい。スキル玉が家にあったんですか?」


 桂隊員の質問に、自分が悪い事をしたのが分かっていたから、たどたどしくも頑張って声を出した。


「──はい。お爺ちゃんがスキル玉を持ってたって、前にお父さんが話してたのを

思い出して……。だがら、ちょっと遊ぼうと思って……」


 私の話を聞いたお母さんが怒りだす。


「いくらお爺ちゃんがもう居ないからって、人の物を勝手に触るんじゃありません!」


 怒るお母さんの横で、お父さんはずっと笑っている。


「はっはっはっ、まあまあ、そう怒るな母さん。──京子、人の物を勝手に触るのは良くない事だぞ? それくらい京子なら分かるな?」


「うん。ごめんなさい……」


「よし。──スキル玉が消えたということは、そのスキルを保有した証拠だ。なんのスキルだったんだい?」


「なんか難しくて分からないの」


 桂隊員が話し掛けてきた。


「スキルは入れ替えが可能なので、そんなに気にすることはないですよ。私が何のスキルか見てあげましょう」


 桂隊員がスキルを発動する。


『鑑定眼』


「──あれ? 可怪しいですね……」


 儀式の時はスッと浮かび上がった私のステータスが、今は全く見えない。


『鑑定眼』


 桂隊員がもう一度スキルを発動したけど、全く反応がない。


「ステータスが浮かび上がらない……まさか! い、いや、まさかでもない、か……『隠滅』……だな。発動してしまったんだね」


 明らかに同様している桂隊員。


 お父さんもお母さんも顔が真っ青だ。


「え? なになに? なんか悪いスキルなの?」


 お父さんが片手で顔を覆い、言葉した。


「ステータスが開示出来ないスキルといえば……桂さんのおっしゃる通りそれしかないですね。間違いであってほしいが、願っても無駄か。──京子、『隠滅』というスキルは一番不人気のスキルなんだよ。良いことが何一つ無いスキルだ。そして、保持してしまうと解除出来ない……」


「解除出来ないって、違うスキルと入れ替えられないってことなの?」


 私の質問に、桂隊員がお父さんに変わって説明してくれた。


「そういう事です。発動さえしなければ、スキルを1つ無駄にしたと考えればいいのですが……発動するとステータスの開示ができなくなってしまうんですよ。解除出来ないのがまた癖が悪い……。まあ、女の子ですし、冒険者になりたい訳でもないでしょうし……。『情報漏洩』も凄いスキルですしね、1つのスキルでも大丈夫です……よ」


「そ、そうよね。栗山町に住んでる人は皆生活に便利なスキルを保有してるから、『情報漏洩』ならスキルが一つでも問題ないわよ」


 お母さんがそう言って励ましてくれた。


 項垂うなだれている私。



 ── 私、動揺してて発動って確かに言っちゃった……。ステータスが開示出来ないって事は、人とは違うって事よね……。 



「どうしたんですか? 解除出来ないものはしょうがありませんから、気持ちを切り替えないと」


 私は桂隊員の話しに被せ気味で言った。


「お父さん、ステータスが開示出来ないだけのスキルなの?」


「いや……あのな……言い難いんだが……仲間になった人のステータスも開示出来なくなるんだよ……」


 口篭りながら話すお父さん。私のことを心配してるのは分かるんだけど……。


「仲間になった人のステータスも見れなくなるなんて、私からみんな離れてっちゃう……。イジメられちゃうかも……。が、学校行くのやだ〜!」


 私の言葉に頭を抱え込む両親。



 ── やっぱり、悪い事なんてするんじゃなかった……え〜ん。


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