第31話 依頼開始
「……ポイントまで残り1km。うわ、あれボウリング場ってやつ? まだ生き残ってたんだ……でっけー」
『了解です。では、師匠』
『あぁ、到着次第、依頼開始だ』
ブリーフィングから3週間程が経過した今日、4月30日。
いよいよ『牛田四郎の暗殺』が遂行される。私は地点近くの適当な駅で降りてから、裏路地から裏路地をつなぐ様に歩いてここまで来ている。お陰で良い感じに足元はあったまってきた。
格好は前回と同じく制服姿に黒いマスクとグローブ、足元はハイテクスニーカー。この格好なら電車に乗ってても違和感ないし、何よりバカな男相手なら恩恵がある。それから当然、愛銃を収めたギターケース。そこに、ツールを入れたサブバッグを備えている。
あれからエリツィナは師匠手ずからオペレーターとしての基礎指導を受け、今日は師匠をサブ
色んな感情があったけど、オペレーターが増えるのは本来いい事だ。師匠が超人的すぎて気にすることも少ないけど、情報収集、情報分析、作戦立案、現場指示は本来それぞれに違う人物が賄って余りある仕事だ。
『不可触地帯』が遠くに見えるこの場所は、道は暗くて人通りもないけれど、決してゴーストタウンという訳ではない。離れた所にある居酒屋やアングラなクラブは看板を光らせて、人類がまだ滅亡したわけではない事を教えてくれる。
ただ、狙撃地点近くの建物には人の気配がなくって、なんとなくその空気を吸い込むと自分の居場所はこちらなんだと再認識できる。
「あと150mで狙撃地点のビルに到着。ドローン飛ばすよ」
『お願いします、弟子。地点手前の路地でドローンを展開、確認までそのまま待機してください」
「あいよー……しかし、あんたに弟子って言われるの、不思議な感じ。そうでしょ、姫」
『わたしも、姫と呼ばれるのは、まだ慣れませんね』
『似合ってて良いじゃないか、姫』
「でっしょー?」
ARグラスから聞こえる鈴の音は指示を聞き取りやすくて良い。あの日はどうなることかと思ったけど、師匠のバックアップがあれば問題はなさそうだ。
依頼中は私は『弟子』、
けど、どっかの桃色のお姫様みたいに、しょっちゅう攫われるなんてことにはならないで欲しいとは思う。
私はただの通行人を装いながら、さりとて素早く裏路地に入り、『ギターケース』の横に装着されたサブバッグから、ぱっと見には野球ボールといくつかのピンポン球の様なものを取り出す。
『スポッタードローン』の親機と子機だ。これが実戦投入されるまでは、二人一組のバディが主流だったと言うから、個人的には結構驚いた。
取り出した親機についているボタンを二秒長押しすると、全ての球から四方へプロペラが展開され、目の前の中空へ浮かび上がった。
「展開したよ」
『了解です。目標建造物は接触後、ソナー起動します。確認まで20秒』
スポッタードローンはその名の通り、本来狙撃手と対を成して任務に当たるスポッターの役割を担うもので、こうしてオペレーターが操作してくれる。
これがある事で、兵站問題、現場へ投入される人員の人数削減、より高精度な情報分析などなど、様々なリスク解消や作戦の質の向上に役立っている。
特性上どうしても小型になりがちな為、『狙撃手の掩護』や『超長期間での任務』などに対し不得手な点はある。
それらは旧来のバディを組む事で対応するけど、それにしたってその仕事量が半減するんだから、ドローンの恩恵は偉大だ。
ほんと、七柱さまさまってかんじ。まぁ使ってるのはジョセフお手製のハードに、師匠がソフトウェアをぶち込んだコピー品だけど。
オペレーターの二人とはこのドローンと、私が装着するARグラスのカメラ越しに共有を行うことになっている。
『……確認完了、屋内に反応5。2階に2人、4階に2人。もうひとりは、上下の階を行き来している様です』
『ふむ。PMCの連中に相違ないな。行き来している一人は、分隊の中での連絡要員だろう』
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます