第7話 人形のような、妖精のような、お姫様のような少女
からり、と教室前方のドアが開いた次の瞬間、目を奪われた。
静かに姿を現した彼女は、御伽噺のお姫様のようだった。
歩くたびにふわりと空間へ流れるプラチナブロンドの長い髪。少し重た目の前髪の奥には、鋭く見える目に薄く光る空色の瞳。
それでいて全体的に線が細く、儚げな雰囲気を纏っている。背丈は、私より頭半分ほど低いくらい、140cm代後半程だろうか。
私と同じ上下ネイビーの学生服を着ているはずなのに、白いストッキングとセーターをあわせて彼女が着る事で、まるで一等良いドレスのように見えた。
男子は声を上げ、女子は息を呑んだ。およそ教室という場に相応しくないような、どこか違う世界から来たといっても不思議ではない少女が黒板の前に立った。
「こら男子、気持ちはわかるけど静かに! それじゃ、自己紹介してくれるかな?」
「はい」
たった一言の返事すら、鈴の音のように響いた。誰も彼も、私ですら彼女が二の句を告げる時を待ってしまう。
「
当たり障りのない挨拶。だけれど、透き通る様な声質から放たれれば、それだけで充分な破壊力を持って、思春期の少年少女の心を鷲掴んだ。
しかしまぁ、日本語が上手すぎる。先生が黒板に書き記した通り、おそらく日本とロシアのハーフなんだろうけど、それにしたって外国語話者特有の拭いきれない癖が見受けられない。私の直感が、きな臭さを感じ始めた。
「自己紹介ありがとっ! エリツィナさんは、実は氷高さんの遠縁の親戚だそうで、そのツテでこの学校を選ばれたそうです!」
は?
「日本語は今みんながお聞きのとーり、すっごく上手だから心配いらないと思うけど、困ったことがあったら助けてあげてね」
いや、ゆかちゃん。現在進行形で私が困ってます。あまりの衝撃的な事実に、声を出さなかった事を誰かに褒めてほしい。私に親戚なんか存在しない、存在するはずがないんだから。
さっきまでエリツィナに目線を向けていたみんなが、揃って私に目を向けていて、ひまりなんかはもう目がビッカビカに輝いている。こっちみんな、前見てろ。
「席はちょうど、氷高さんの隣が空いてるからそこにします。教科書もまだ届いてないものもあるそうなので、氷高さん、ちょっとの間見せてあげてね!」
しかも、え、隣? 私の?
顔に出さないまま——いや、もしかしたら出てたかもしれないけど——呆然とする私の隣に向かって、これまた静かに伶奈・エリツィナが歩みを寄せる。
私が見上げると、その妖精のような容姿のまま表情もなく、こちらを見下ろしている。いや、少しだけ、ほんの少しだけ口角が上がってる、様にも見える。
「会いたかったです、トオル」
「……うん、私もだよ、伶奈」
いや、初めましてなんですが?
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