第8話
授業開始の予冷が鳴って、私は机に突っ伏していた顔を上げる。
この時間までの休み時間は、まぁ酷かった。隣の席になった伶奈・エリツィナの周りには、これでもかとクラスメイトの女子が集まって、彼女についてあれこれ尋ねていた。
ロシアのどこ生まれとか聞いたってわからないだろうに、好奇心旺盛な彼女らは思いつくまま質問をぶつける。
何人かはエリツィナと私をチラチラ見比べて『確かにクールな雰囲気がちょっと似てるかもー』とか間の抜けた感想を漏らしている。
似てるわけない。容姿なんかはエリツィナはアンティークドールみたいな見た目で、私はそれと比べると市松人形みたいなもんだ。
そしてエリツィナはその質問の多さに少しだけ困った様に眉を下げて、でも丁寧に答えていた。その流暢さはやはり、私の目線では不自然なほど自然で、彼女の存在の不気味さをその容姿とあわせて引き立てている。
ちなみにひまりもエリツィナを囲む女子の中に混じっていて、朝と変わらず瞳をビッカビカに輝かせてエリツィナの話を聞いていた。
ひまりは洋楽好きだし、外国文化に興味があるのかもしれない。けど、親友(ひまり曰く)の私をほっぽっとくなんて、あんまりじゃないのか。
現代社会担当のヒラセン——チンピラみたいな見た目の平林先生。流石に私もこのあだ名はどうかと思う——が入ってきて、委員長が号令をかけるいつもの流れ。ヒラセンの手には紙束が抱えられており、男子の何人かはそれを見て頭を抱えた。
「うっし、じゃあ今日はまずこの間の小テストを返却して、それから転校生もいる事だし内容のおさらいをしていくぞー」
慣れた様子でそう告げる先生の言葉を聞いて、頭を抱えていた生徒が悲鳴を上げた。小テストなんだからそう悲観することもない様な気がする。
けど、この鈴乃宮は『生徒に自由と責任を』が校訓であり、服装や学外活動などは節度を持ってさえいればかなりの自由が認められる反面、勉学の成績が悪い生徒は部活などの制限を受けることになる。
だから、小テストひとつとっても油断すれば命取りであって、ゆえに彼らは頭を抱え悲鳴を上げたわけだ。
ヒラセンが教壇の上でテスト用紙を整えて、そして最初の生徒の名前が呼ばれる。
「テストが、あったんですね」
隣に座るエリツィナが、大きくも小さくもない凪いだ声の調子で私に話しかけてきている。正直、聞かなかったことにしたい。
こいつに関わりすぎるのは、私の人生をさらに大きく歪める可能性があると、私の第六感は警鐘をけたたましく鳴り響かせている。けど無視なんてするのは、分別のつかない子供のすることだ。
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