第44話
「……え?」
条件を出して良いとは言ったけど、流石に予想の遥か斜めをつくようなその発言は、想定していない。
恋人、とは。もしかしたら伶奈の事だし、何か勘違いしてるのかもしれない。
「その……どういう意味?」
「恋人。血の繋がらない他者と恋愛関係にある人間のこと、ですね」
「いや、そんな辞書じみた返事は期待してなかったんだけど?!」
「わたしはトオルの恋人になりたいです……だめ、でしょうか」
そう言って、伶奈は彼女なりに悲しそうに目を伏せた。
ダメかどうか。ダメ……なんじゃないの?
まだ会ってひと月も経ってないし、同性だし……でも、伶奈がこんな事を言うっていうことは、なにかしらの理由があるはず。そこを聞いてからでも判断は遅くない、よね?
「条件なんて話をしたのは私だけどさ……なんで、恋人なの?」
「……わたしは、トオルのそばに居たいのです。本来なら、他の関係性もある、とは理解しています」
「他の関係性、か」
その先は考えない。考えたら、また伶奈に迷惑をかけそう。
「トオルはそれを、苦しく思うのではないかと考えました。ですが、そばにいるにあたり、何か関係性に名前が欲しかったのです」
「あぁ……それで、恋人か」
たしかに、その先ならともかく、恋人という関係は『誰かにとって1番近くて、そして最も離れやすい存在』だと思う。伶奈はそう考えて、『恋人』という言葉を使ったんだろう。
そうなると、断りづらい。
ある意味私から言い出した事だし、伶奈の気持ちは十分に理解できるし。……まぁ、それくらいなら良いか。
私の稼業を考えれば、この先誰かとそう言う関係になることはあまり考えられない。薫子さんだって、特定の誰か、というのは居ないはずだし。
「いいよ、恋人で。伶奈がそれで許してくれるっていうなら、恋人になろ」
「……本当、ですか」
「本当、ほんと。けどまぁ、だからといって何するわけじゃないけど」
「それでも、それでも……嬉しいです。ありがとうございます、トオル」
「これで許してくれる?」
「はいっ。もう許してます」
そう言って、伶奈は少しだけまた口角を上げて、にっこりと笑う。いつか、彼女の満面の笑みというものも見てみたい。きっと、すごく似合うんだろうな。
改めて恋人になった伶奈は、またあの祈る様な仕草で、静かに目を伏せた。
……そもそも。なんで、この子はこんなに私に、親しみを向けてくれるんだろう。
「ね、伶奈。前から気になってたんだけど、なんでそんなに、私に……えぇと、好意を向けてくれるの?」
「好意。……そう、ですね。わたしは、トオルに会う前から、ずっと会いたいと思った居ました。
そして、伶奈はぽつり、ぽつりとその理由を語り出してくれた。
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