第31話.士官学校へようこそ。3

(´・ω・`)エイプリルフール投稿。



朝日の昇る前に起きてしまう。

騎兵だから仕方が無い。

既に厩では馬達が嘶いている。

当番らしき下士官服を着た生徒が集まって来ている。

どうやら馬の扱いに慣れていない生徒が多い…。

口を出したいが我慢する。

今日から授業が始まる日だ。

入学式は無い様子で、一人一人が辞令を既に受け取っている様子だ。

ようやく第三軍の所属章が取れて学校の徽章が付いた。

書類上の軍籍は第三軍のままだ。

実際に俸給は第三軍の経理から出ている。

予備役編入で、従軍の手当てが付かないので俸給は激安になった。

これまでの授業の無い日は連隊の生活と同じなので特に戸惑いは無かった。

校舎に向かう生徒の列、メガロニクス課程がある士官学校なので女生徒が多い。

伍長が珍しいのか朝食を受け取る学校食堂でジロジロ見られた。

男子生徒も居るが…。

皆、階級章無しの士官服だ。

階級章付き生徒は珍しいのだろう。(候補生徒はオッサンが多いので階級&功労章付きの子供は胡散臭い。)

既に俺一人だと聞いている、気にも留めない。

一般士官課程の教室に入る。

固定された長机に疎らに散らばる士官服の男子生徒たち。

年齢的に僕よりちょっと2,3歳上だろうか?

適当な椅子に座る。

謎の沈黙が室内に広がっている。

カバンから筆記用具とノートを出す。

講師が入室したので全員が席を立つ。

年配の講師で…。

多分歩兵将校だ。

顔の古傷が歴戦の将兵である威厳を示す。

教壇に立ったので全員が敬礼する。

返礼で返す講師。

「すわり給え。」

「はっ!」

思わず声を上げるが椅子に座る音にかき消される。

僕だけ返事をしてしまう。

背筋を伸ばして講師に注目…。

他の生徒はだれている。

「右手最前列より自己紹介を。」

順番に席を立つ男子生徒。

どこぞの貴族の子弟が多い。

聞いた事も無い地名だ。

メモして後で調べよう。

僕の番に成ったので席を立ち敬礼姿勢で話す。

「第三軍団オーウェンドルフ連隊所属。ガリル・イエーガー伍長です。候補生徒としてこの学校に入学しました。」

部隊を離れ、安くなったが俸給は出ているので元は付かない。

ホフマン大尉(今は退役少佐)も万年中尉と言われた時期に無理して軍大学に通ったそうだ。

当時を聞けば、未だお子さんが小さいのに、奥様もやりくりが大変だっただろう…。

おかげで、退役時に少佐昇進出来たのだ。

軍人は家族の協力が無いと仕事ができない。

クルーガー騎兵少尉が万年少尉なのもその為だ。(結婚しない為。)

「うむ、昨今珍しい戦時騎兵少尉だな。」

敬礼の仕方で判るらしい。

「はい、残念ながら戦争が終わってしまったので学校に通う事と成りました。」

「うむ、うむ。」

頷く講師。

「あの…。よろしいでしょうか?」

後ろの生徒が手を挙げる。

「なんだ?生徒。」

「戦時騎兵少尉とは、何でしょうか?」

生徒に講師が説明する。

「昔から有った制度だ。帝国の連隊が諸侯の独立編成だった時代、士官は(諸侯の)連隊内で教育した。本来の意味での士官候補生だ。士官学校ができると卒業生学生が連隊に配属される事と成ったが騎兵科は特殊な技能を必要とする。なので残っている。その為、連隊で見習士官のまま戦時昇進した士官は戦時騎兵少尉と言われる。」

馬の扱いが特殊技能だった為の運用だ。

「はあ?士官学校を出なくても少尉になれるのですか?」

経験則から出来た制度なので経験していない者には理解不可能だろう。

「昔はそうだった。帝国創生より続く本物の騎士だ。今は所属する連隊によって扱いが違うので部隊に入隊した時に教えて貰え。全て少尉に成れば今は違いは無い。昔は”歳を取っている騎兵少尉は連隊上がり…。”と言われた。」

常識を説明する講師に経験則を補足する。

「今は遊び惚ける騎兵少尉が多いのでソレも聞かないですね。」

「ほう、イエーガー伍長よく知っているな。」

笑う講師。

「中隊でさんざん言われました。」

どや顔で答える。

そうだ、俺が騎兵騎士力¨ン夕¨ムだ!!

「うむ、うむ。そうだろうとも。」

個人の体験経験を共有し合う事は時空ニュータイプを超える。

「あの…。イエーガー伍長殿。」

別の生徒が手を挙げる。

「同じ生徒でお互い待遇は伍長の生徒だ、殿はいらないぞ?」

「はっ!イエーガー候補生徒殿は…。実戦を経験されたのですか?」

殿を消さない年上士官生徒。

「ああ、北方の山岳地帯で王国軍と国境際のいざこざで数度の殴り合いをした。結論として我が連隊は侵入してきた王国軍部隊を国境まで押し返して睨み合いで終戦となった。」

簡潔な戦歴を話す。

圧縮した情報は展開側の自由な創造と理解を試す。

「ほう、それは凄いな今度、時間を作ろう。課題に使いたい。」

直ぐに理解してこうふんする講師。

「非常に地味な戦いでした。」

おそらく新しい戦史に飢えているのだろう。

帝都の喫茶に誘った年配の士官達もそうだった。

戦況報告を個人の体験で語ると相手も疑問が残る。

「うむ、戦争とは本来、そう言った物だ。」

自己の体験を思い出す退役将校。

だから、歴戦の士官達は、僕の話に真面目に答えてくれたのだ。(見合い話付き。)

「では、次の生徒。」

「あの…。もう一つよろしいでしょうか。候補生徒殿。」

「うん?何だ?詳しくは授業まで取っておけ。」

「メガロニクス撃破徽章はソコで獲ったのですか?」

拘る生徒に明瞭簡潔に答える。


「ああ、そうだ。交戦の結果、敵メガロニクスを撃破鹵獲した。搭乗員は殺傷した。」


教室内が凍結した。

教師と僕しか納得した顔はなかった。

どうやら最悪の返答だったらしい。

士官を目指すのに童貞非人殺しばかりで同級生から空気扱いに成った。

血に濡れるのが軍人の仕事なのに…。

まあ、その内、嫌でも解るだろう。

理解できなければ死ぬだけだ。

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