第17話.軍隊にようこそ。3

春も終わりつつある駐屯地内。

兵舎の前で整列する真新しい装備の兵達。

僕も一応士官の内らしいので一番後ろに整列する。

到着した指揮官が中隊長殿と挨拶を交わし、何かの儀式が終わると中隊長から兵に訓示が在った。

「ようこそ、第25駐屯地へココは恐らく帝国国内でも一番過酷な戦場だ。無論、ココでの敵は寒さだ、飢えだ、雪だ。フルードゥ王国の兵隊なぞ大した物ではない。君たちは知恵と忍耐でこの環境を生き抜かなければならない。幸い…。」

頷くのは中隊の兵だけで新しく来た兵はポカンとした顔だ。

話が長いので増援に来た兵士を観察する。

今年の増援は装備を改め、此方の戦訓を取り入れた物らしい。

一応、総員、革のコートと厚手の毛布。

革手袋に水筒を装備している。

訓示が終わると、増援の兵は新しい宿舎(元倉庫)へと吸い込まれていった。

一気に駐屯地内の兵が増えた…。

コートの数が足りるだろうか?

解散になり馬房に向おうとすると…。

「おい!見習。司令部に来い。」

工兵少尉に呼ばれる。

「はっ!」

敬礼して後に続く。

工兵士官殿は全ての作業駐屯地完成により顔色が良くなっている。

向った先は士官建屋で一部が増設されている。

玄関先で工兵少尉は椅子に座ると当番兵が飛んできてブーツを研く。

僕は騎兵ブーツの泥を落として素早く磨く。(兵は自分で磨く事に成っている。)

面倒なので、以前、室内用の上履きを提案したが。

却下された。(今までも提案しても却下される事は多い。)

中隊長の答えは”紳士は他者と所有物を共有しない。”という不思議な答えだった。

士官達は食器迄個人用の物を使っていた。

徹底しなければ行けないらしい…。(僕の身の回りの物は全て王国製の鹵獲品で済ませた。)

「見習、最近は忙しいか?」

腰を下ろして椅子に背中を預ける工兵少尉、従兵の頭が動いている。

「はい、馬が増えたので大変です。」

「そうか…。」

工兵少尉は随分とのんびりした返事だ…。

あ、もう仕事が終わっていると思い込んでる。

「少尉殿、実は未だ中尉殿に提案していないのですが…。納屋の増設が必要です。」

「なにっ!」

やった!驚かせた。

僕だけ馬の相手で目の回る様な忙しさなのだ。

少しは楽に仕事できるようにストレージサイロでも作って欲しい。

「いえ…。流石にアレだけ馬で越冬しようとすると…。飼葉小屋も足りません。計算して必要量を出します。」

「あ?ああ。冬までに作れば良いのか?」

まさかこの数で越冬しようとは、考えないだろう。

一応脅しておく。

「いえいえ、牧草の刈り取り作業も含めれば最低、夏の終わりには…。」

牧草は発酵期間が必要だ。

本気でストレージサイロが必要になってくる。

飼葉桶の数も増やしてほしい。

「そうか…。」

ブーツ磨きも終わり。

少々沈んだ工兵士官と共に司令部に入室の敬礼を行う。

頷く見た事無い顔と制服の比較的若いおっさんが居た。

「オーウェンドルフ少佐殿、総員、士官揃いました。」

中隊長殿が申告する。

おお、中隊長殿より偉い人だ…。

「そうか、ホフマン中尉。始めよう。」

「総員傾聴!連隊長殿の訓示である!!」

「この第25駐屯地を預かる事に成った第三軍第二連隊長のハインリッヒ・フォン・オーウェンドルフだ、一人も欠けず無事に諸君らと再び会えてうれしい。」

ああ、そうか。

他の士官殿は顔見知りなんだ…。

「では、戦況の報告から…クルーガー騎兵少尉。」

「はっ!」

前に出た騎兵少尉が現状の報告を行う…。

最近は山の巡回には参加していないので不明だが。

特に敵の攻勢も無く変化は無い様子だ。

終わって駐屯地施設内の報告を行う工兵少尉。

「…により、今の兵舎は夏装備なので冬装備変換作業は連隊全力で実働10日程度です。」

「なるほど。良く解った。ウムラウフ工兵少尉。主計はホフマン中隊の帳面を精査して今年の越冬に備えよ。」

え?本気でこんな大人数で越冬すんの?

「はっ!」

別の知らない士官が答える。

襟章が…。兵科が不明だ。

実は僕は騎兵と工兵と歩兵の兵科マークしか見た事が無い。

後で組織表か編制表を貰おう。

「ホフマン中尉には後で話がある。残ってくれ。では解散、」

「「はっ!!」」

ぞろぞろと士官達が部屋を出る。

偉い人順だ、待っていると中隊長殿から声が掛かる。

「イエーガー候補生、こちらに来い。」

「はっ!」

中隊長殿に対面する。

が、何も言わず連隊長の方を向く中尉。

え?何すんの?僕。

全員の退室が終わると連隊長が口を開いた。

「ホフマン中尉。ご苦労だった、何も準備できなかったが何とか任務を遂行した様子だな。」

「はっ!ありがとうございます。オーウェンドルフ連隊長殿、将兵たちの働きとノルデンヴォルフの住人達の協力が無ければ成しえませんでした。」

「なるほど…。で?ソレが例の見習か?」

「はい!クルーガー騎兵少尉の権限で中隊で面倒を見ております。おい、見習。連隊長殿にご挨拶だ。」

「はっ!ガリル・イエーガー騎兵見習です。歳は13であります!」

「そうか…。若いな。まあ、騎兵ならそうか…。良いだろう。連隊名簿には?」

連隊長が俺を上から下まで観察して…。

何故か目が合わない。

「未だであります、書類の方は揃っておりますので、兵役期間が終わればそのまま申請できます。」

「良し分かった。その様にせよ。」

「はっ!イエーガー見習、帰って良い。」

「はっ!ガリル・イエーガー騎兵見習このまま馬房作業に戻ります。」

敬礼してそのまま部屋を出た。

後で思い出したが、連隊長殿は胸の撃破章しか見ていなかったと気が付いた。

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