第16話.軍隊にようこそ。2

この仕事が終われば家に帰れるだろう。

また冬に成れば、協力を求められるだろうが。

今度は親父と一緒にやればいい…。

そんな話は打ち砕かれた。

窮屈にしてダボダボな騎兵服のまま騎兵少尉殿の後に続く。

「今日からココに住む事。」

騎兵クルーガー少尉が自ら案内した場所は厩舎内の宿舎…。

長い建屋の半分は今年になって増設され、真新しい馬房が連なっている。

その中で整列する兵達。

「厩舎当番兵の指揮を任せる…。見て覚える事。あまり軍医殿を困らせないこと。」

「はい…。家には帰れないのですか?」

夜勤は在ったが三日に一回は親父が療養する伯父さんの納屋に帰れた。

「今日からココが動員…。ガリル見習の家だ、連隊が家族だ。」

当然のことの様に話す騎兵クルーガー少尉殿。

「…。はい。解りました。」

よくわからん。

首を傾げる。

その様子を見て答える騎兵少尉。

「まあ、貴官なら。新入り歓迎するいじめる兵は居ないだろう。俺の直属の部下という触れ込みだが、今まで通り中隊内の臨時分隊を指揮してもらう。」

今までアドバイスだけで直接指揮した事はないけど…。

「はあ…。」

「平時は馬番の指揮をしてもらう。一応騎兵だからな。それから士官は中途半端な返答は行わない!」

「はい!」

「よろしい、おい、厩責任者!」

「はい、只今!クルーガー少尉殿。」

下士官…。伍長が前に出た。

「すまんが、今日から見習い騎兵に成ったガリル見習いだ。馬房の指揮を任せる。手助けしてくれ。」

「はっ!馬房担当のトーマス伍長です!」

「動…。ガリル見習です。」

「はい、ガリル士官殿よろしくお願いします。」

「トーマス伍長は装蹄師の技術を持つ馬のエキスパートだ。よく見て覚えること。それから、ガリル騎兵見習い!士官は自己紹介を行う時はフルネームで答えること。」

何故か叱られっぱなしだ…。

しかし、僕の苗字は無いはずだ。

「はい!あの…。僕に名前ガリル以外が有るんですか?」

少なくとも親父から聞いていない…。

「ああ、第25駐屯地から出した功績表に猟師イェーガー・ガリルと書いて提出した。帝国宮廷で賞勲省からの叙勲者一覧書状にはガリル・イェーガーの名に成っていた。恐らく手違いだが決定事項だ。之が君の名前だ。変更は出来ない。今後、自分の名を忘れない様に。」

どうでもいい事を思い出した様に話す騎兵少尉。

えー。と言いたくなったが耐えた。

「はい。私はガリル・イェーガーです。(棒)」

「そうだ…。皇帝陛下サインの入りの書状だ。これは皇帝陛下より名を頂いた事になる。誇って良い名誉だ。」

どう考えても書類上のミスで名字が生えた。

「えー。」(耐えられなかった。)

後で綴りを確認しておこう…。

自分の名前を間違えると笑われそうだ。

「流石ですガリル・イェーガー騎兵見習い殿。」

どう見ても年上のトーマス伍長に褒められる…。

「騎兵見習いでメガロニクス撃破徽章を持つ予備士官は居ない。早く騎士に成れ。」

騎兵少尉の嫌味かと思ったが、トーマス伍長はメガロニクス撃破徽章に敬礼を行っている。

前は動員伍長の民間人でお客さんだったが、今は売られで身内軍人だ。

子供に敬礼する兵は居ない。

しっかりしなければ…。

よくよく考えたが馬房の人(兵)達とは仕事接点がなかった。

大人しく年上新人アルバイトの様な恐縮した姿勢で再度、自己紹介をした。(中隊内、最年少です)

「ガリル・イェーガー見習いです、馬のことは全く知らないのでよろしくお願いします。」

転職して新しい競馬業界に入っただけだ…。

異世界転生したほどの苦労はないだろう。

態度が良かったのか騎兵少尉から指導を引き継いだトーマス伍長は馬のエキスパートで道具には触らせて貰えなかったが色々と教えてくれた。

毎日、馬房で寝起きして日の出前から馬の世話を手伝う…。

雪の無くなった草原の丘の上で馬を放し、放牧する。

空いた馬房の掃除にも参加する。

無論、伍長も兵も何も言わないので後ろで仕事を見て、後で質問する事になる。

朝晩の馬の体温(兵が手で測る)コツや機嫌の悪い馬の仕草だ。

何故か僕が近づくと馬が怖がる…。

伍長は”臆病な馬は仕方がありません。表情で分かりますが、馬は緊張すると肉付きが悪い場所で血管が浮き出るのでソレで判断してください。”と言った。

馬に顔が有るの知らなかった、まだ個体の顔で見分けが付かない。

良く解らんが、騎兵が馬に怖がられるのは良い兆候らしい。

初めっから舐められる男では騎兵に向いていないそうだ。

しかし、馬が懐かない…。

何故だろうか?普段から小鳥にも逃げられる。

殺気が漏れ出ているのだろうか?(猟師あるある。)

とにかく毎日、馬の顔を見ているので何となく馬の顔が解るように成ってきた。

時々、補給馬車の馬が増える、見分けが付く様に成ったころ遂に増援がやって来た。

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