第22話.軍隊にようこそ。8

敵の行動は把握しているので、動きは予想出来る物になった。

猟師は動物を追跡する場合、動きや性格を把握することから始まるのだ。

今回の獲物は同じ人間で目的も解っている。

人の考える事だ、チョロイ。

一番の問題は相手の監視所の目を盗む事だ。

全身緑色のムッ久ギリースーツを作って見せた所、士官全員がかなり嫌な顔をした。

やはりこの世界では迷彩という考えが無い様子だ。

「コレは…。必要なのか?」

少佐殿が困惑気味だ。

「必要ですね。これなら匂いと煙以外で発見は不可能です。材料も有りますので村人総出で作らせれば攻撃隊の全員が用意できます。」

丸まって見せる。

草原では只の草だ。

なお、材料は牧草と麦わらだ。

蓑笠の要領で作っている。

「なお、引火しやすいのでご注意を。戦闘が始まったら放棄してください。使い捨てで強度もそんなに有りません。」

「なるほど…。そりゃ良かった、名乗りを上げるのに牧草を被っていたら締まらんからな。」

少佐殿が真面目に答える。

面白い冗談を言う少佐殿だ。

「最悪、敵の目を誤魔化して移動、配置に付くまでの間です。天幕は此方の網で隠蔽します…。」

偽装ネットを見せる。

紐で作ったネットだが、葉っぱは現地調達だ。

「待ち伏せ中は煮炊きは出来ないので水筒と保存食で食いつなぐ事になります。最大三日程度しか待ち伏せできませんが…。」

「敵は頻繁に国境を越えて来ている。恐らく数日待てば遭遇戦に成るだろう…。」

「水筒を多めに用意して、食料を大目に携帯できれば何とかなりますが…。かなり辛い物になります。」

ベッドが無いと訓練された者しか眠れない。

一応ハンモックを進言しておこう。

全身緑色のムッ久ギリースーツで地面に寝ると虫に塗れる事になる。

「斜面での戦闘は上側が有利なので交戦の場合は位置取りに注意してください。」

「ああ、解った谷に叩き落してやろう。」



準備が整うと緑色ムッ久ギリースーツ達が列を成して山に入った…。

数百人のムッ久が揃うと壮観だ…。

無論僕も参加ムッ久している。

戦闘に参加することは無いが少佐殿ムッ久の道案内だ。

「少佐殿よろしいでしょうか?」(カサカサ)

「ああ、大丈夫だ見習。」(カサカサカサカサ)

今日で配置に着いてキャンプ二日目の朝だが少佐の顔色が悪い…。

少佐は山に入ってから緊張している様子だった。

敵の監視所も目立った動きは無いので我々は未だ敵に発見されていない。

中隊規模での戦闘が主なのに少佐は陣頭指揮に拘った為、本部を設置した。

本部は此方の街道上で、谷が湾曲しているので相手もコッチも見えない尾根の影だ。

斜面の影にテントを張ってベッド(ハンモック)も有る。

偽装ネットを被せ草を生やして隠蔽した。

「ココは敵の監視所から見えないハズです。」(カサカサ)

伝令ムッ久がやって来た。

「敵を発見しました、未だ一個分隊程度です。」(カサカサ)

「よし!敵が攻撃地点まで前進したら合図を送る。」(カサカサカサカサ)

その後、新たな敵発見の報が続く。

「今回随分と敵は分隊をだしますな。」(カサカサ)

「あ、ああそうだな。その声はホフマン大尉か…。敵は総力戦を選ぶだろうか?。」(カサカサカサカサ)

指揮官は焦らないが…。

随分と混乱気味の少佐殿。

コレは良くない。

「敵の意図が解りません、予備部隊が有るかもしれません、偵察を出しますか?」(カサカサ)

少佐とホフマン大尉ムッ久が視線を交差する。

「できるか?動「いや、今の局面では新たな行動は不要だ。」やめておこう。」(カサカサカサカサ)

「はい、了解しました。」(カサカサ)

選抜兵が居れば自信が在ったが指揮官が危険だと判断すれば仕方が無い。

もう既に配置が終わっている状況下では確かに危険だ。

「しかし…この偽装と言うのは誰が誰か解らんな…。」(カサカサカサカサ)

そう言えば戦争映画でもヘルメットに階級章付けてたな。

「申し訳ございません。味方だと判れば良いと思ってました。次は階級の解るハチマキか腕章を用意させます。」(カサカサ)

「いや…。こんなのの次は無い。一回で終わらせる。」(カサカサカサカサ)

新たなムッ久がやって来た。

名乗るまで誰か解らなかった。

そう言えばこの作戦中、やたらと声を掛けられるが…。

多分ムッ久の大きさで判別出来るのが僕だけだからか?

「敵の一個小隊が04メガロニクスに向っています。他の敵分隊は目的地と思われる場所で作業を開始しました。」(カサカサ)

「敵分隊は何をしている?」(カサカサカサカサ)

「遠くで解りませんが木にロープを巻き付けています。」(カサカサ)

「回収作業を開始した様子ですね…。」(カサカサ)

「街道上まで持ち上げて自力で…。いや、自走出来ないなら。引っ張る心算ですかね。」(カサカサ)

一個中隊の人員では巨人は持ち上がらない。

いや、機械が在れば持ち上がるだろう。

引き上げ場所にウィンチか起重機を積んだ馬車が前進するはずだ。

「困ったな…。」(カサカサカサカサ)

「はい、敵は街道上まで侵出する心算ですね。」(カサカサ)

少佐殿と少尉殿が話す。

「攻撃命令と共に本隊を前進させるか…。ホフマン大尉準備を…。」(カサカサカサカサ)

別の兵に話しかける少佐殿。

「あ、申し訳ございません。自分がホフマンです。」(カサカサ)

隣のムッ久が返答する。

「ああ、すまんな…。見間違えた、街道上の敵を掃討する。兵を準備してくれ。」(カサカサカサカサ)

敵を奇襲攻撃する手筈は既に整っている。

だが、敵の侵出を待っている状態だ。

思っていたより敵の数が多いのだ…。

「街道上に新たな敵集団を発見!馬車を伴う。」(カサカサ)

「数は?」(カサカサカサカサ)

「不明、先頭が国境を越した所です。」(カサカサ)

「回収部隊本隊ですね。」(カサカサ)

「だな…。」(カサカサカサカサ)

「ホフマン隊何時でも出せます。」(カサカサ)

「いや、数が多い、本部付きの隊も加える全力攻撃だ。俺もでる。」(カサカサカサカサ)

「大人数で動くと敵に発見されますが…。」(カサカサ)

一応忠告する、街道上を列を成してムッ久が走れば流石にバレるだろう。

「もうこんな事は終わらせる。総攻撃だ。街道を前進させ、発見され次第攻撃開始の合図を出せ。」(カサカサカサカサ)

「「了解!!」」(((カサカサカサカサ)))

一斉に緑のムッ久が列を整える。

一個中隊以上の…。400人程度が駆け足になる。

「コレより声を上げるな!!全隊行進駆け足!」(カサカサカサカサ)

剣を抜いた少佐殿が先頭を走る。

(((カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ))))

続く緑色ムッ久達。

緑の奔流は街道を駆ける…。

街道上の敵は馬車から荷物を降ろしている…。

あそこが敵の侵出地点だ。

王国軍兵が此方を指差し始めた。

「少佐殿、敵に視認されました。」(カサカサカサカサ)

走る少佐殿の背中の草に語り掛ける。

「よし!攻撃開始の笛を吹け!」(カサカサカサカサ)

「了解!!」(カサカサカサカサ)

谷に鳥笛が響く…。

走りながら吹くのは辛いので直ぐに後続のムッ久に追い抜かされるが。

吹き終わると速度を上げて少佐殿の背中に追いつく。

「攻撃開始の合図を出しました。」

「おう、聞こえたぞ。見習。谷を見ろ敵が泡を喰っている!」

後ろのムッ久、ホフマン大尉が替わりに答える

谷底では緑のムッ久が斜面で作業中の王国兵を襲っている…。

奇襲は成功した様子だ。

「”モンスターだ!!”」「”馬鹿な!”」「”歩兵は前に!”」

途端に混乱が広がる王国軍…。

走りぬいた少佐殿は王国兵の前で行き成り足を止め…。

「我々は帝国軍第三軍!オーウェンドルフ連隊だ!!”帝国領土を侵す貴様らに鉄槌を!!”突撃!!」(カサカサカサカサカサカサカサカサ)

剣を振る少佐殿…。

あーホントに名乗りを上げた…。

その間に息を整え弦をセット、短弓を乗せる。

呆然とする王国軍の…。指揮官らしき者に弩弓を合わせる。

「「「突撃!!」」「「ワー」」」(((カサカサカサカサ)))

「”クソ!”」「”やはり罠だった!!”」

声と共に銃端を握ると思い描いた軌道で短矢が飛び、首の下に刺さる。

うん、死んだ。

刺さった短矢を握り倒れる敵士官。

いや、死ぬ傷だ。

剣を抜き、走る緑のムッ久集団に飲み込まれる王国兵…。

直ぐに次の短矢を準備する。

前方は乱戦に成っているので街道を外れ斜面を登る。

後方には未だ緑のムッ久の波は達していない…。

敵士官らしき制服の者を探す…。

居た、当たった。

次!外れた。

くそ!当たった。

場所が悪い!

当たった!次!

逃がすか!次!

次!

次!!

次!

逃がさん!!

次!

ダメだ射線が悪くなった。

緑のムッ久が完全に敵を呑み込んだ…。

乱戦に成っているがムッ久の数が多いので街道上の敵は急速に減っている…。

最後の王国兵が武器を捨て手を挙げた。

谷底の戦いも終わりつつある…。

確保した荷馬車(血だまり)の中でムッ久が血糊の付いた剣を掲げ…。

「やったぞ!!」(カサカサカサカサ)

ああ、少佐殿の声だ。

「「ウオー」」「「勝利だー!」」(((カサカサカサカサ)))

喜ぶ、血まみれムッ久達。

戦利品の王国軍の剣を掲げるムッ久も居る。

倒れたムッ久を助けるムッ久…。

血まみれムッ久達の街道の先に…。

国境上に巨大な岩の影が出現した…。

思わず叫ぶ。


「メガロニクス一基を確認!街道上!!」(カサカサ)


どうやら、敵は大人しく家に帰してくれない様子だ。

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