第34話.士官学校へようこそ。6

早速、ボブカットを呼び出す。

もちろん女性への手紙は用式があり特に騎兵は時節のあいさつ文と枕詞を用意しなければならない。

専用の香り付き用紙と封筒折。

無ければ中に押し花か香木の破片を入れると良い。

特に香りの物は同じ物を使い続ける必要がある。

安易に変更しないこと…。(監修:クルーガー騎兵少尉)

クソめんどくさいな。

特に思い付かなかったので爽やかな香りのする材木を確保してある。

何処にでも手に入る防虫効果のある木だ…。

しかし、南方には植生が乏しい様子で将来的には確保に苦心することになるだろう…。

残念ながら女性に出す手紙はこれが初めてになるので在庫は潤沢だ。

教えられた通り完璧な手紙を完成させた!

高揚しながら攻撃目標を探す。

メガロニクス課程の教室廊下で簡単に目標を発見した。(ヒソヒソ)

手紙を個人ロッカー目標投函突撃する事にも成功した。

元々、個人ロッカーには学校からの通信文を入れる隙間がある。

個人ポストの様な扱いだ。

なお、僕は軍属なので私信は全て03230-6か03205-6住所部隊番号”ガリル・イエーガー”で届く事になる。

帝都の司令部に届いてからの送信なので到着が遅いのは愛敬だ。

特に文通する相手もいない。

親父とも実験で帝都での手紙の開通を試した程度だ…。(内容は”俺の口座を勝手に使うな!!”)

返信は”妹が産まれた。名前はリーヤ。健康な子だ。”

その後は一生それっきりだった。(出産祝いで納得した。)

そう考えると手紙とは構えて書くモノなのでは無いかと思う。

簡単に即座に電信できる。

多くの不特定多数に送信できるのは異常な事で…。

開示する相手を選ぶ事が出来ないのが無益な衝突を産む原因だ。

所詮。多神教徒と一神教徒は分かり合えないのだ。


生まれ変わったら一神教の世界だった。

生活圏でのリージョンコードは厳守すべきだ…。


色々気に病んだが呆気なくボブカットは手紙に記載された時間に指定場所に来た。

ふむ、良い士官だ。(時間厳守)

ボブと対面する。

「来てくれてありがとう。」

笑顔で迎える。

騎兵は招待した淑女には笑顔で迎えなくてはいけない。(監修:クルーガー騎兵少尉!)

何故か目を合わせない士官候補生。

「あの…気持ちはうれしいけど…年下とは…」

ふむ、コレは気難しい淑女の様子だ。

優しく強引に行こう。(監修:クルーガー騎兵少尉!)

「そうか、しかし、僕は君に望む事がある。」

彼女の手を握り…。

真っ直ぐ目を見る。

疾しい事の無い士官は視線の動きに現れる。(監修:クルーガー騎兵少尉!)

特にエスコート対象の婦女子に対しては一瞬の変化を逃してはならない。(監修:クルーガー騎兵少尉!)

途端に狼狽する候補生。

視線を反らした!

「あ、あの…。」

疚しい事が在るのだ!!

「君の力が欲しいのだ。」

一歩前に出る。

ココは攻める。

「ひゃい!、あ、あの…。」

優しく肩に手を乗せ。

「君ならできる。」

迷う候補生に畳みかける。

「え!いえ…。その…。私なんかでよければ…。」

ひどく視線を下げ…。

背を曲げる候補生。

目の前の耳に口を添える。

「君でないと無理だ。」

低い声でゆっくりと耳元で。(監修:クルーガー騎兵少尉)

「ひゃい!何でもします!!好きにして下さい!!」

両手を前に祈る候補生の手を優しく導く。

淑女の手を握るのは神聖な行為なので細かく指導された。(監修:クル…。)

「さあこちらへ。」

正直要るのか?この儀式。

「あああ、あの…。」

幾ら淑女への招待とはいえ所詮学業だ。

何せ稀代の操縦モッサリだ。

「ここだ。」

工兵科格納庫の入り口前で誘導した手を放す。

ドアを開けレディーファースト。(監修:ク…。)

「お父さんお母さんお許しください。私は。私は!!」

紅潮したままうわ言のように呟くボブカット。

「「「よろしくお願いしまーす!!」」」

出迎えた工兵下士官の見習い達。

格納庫内で整列している。

「え?ええ?こんなに沢山?」

「準備はよろしいか?」

下士官の様に尋ねる。

「「「はい、」」万端です。」

うむ、よろしい。

「では掛かれ。」

命令に反応して一斉に持ち場に付く見習工兵。

「え!いえ…わたし何をすれば?」

オロオロするボブ。

「君にこの機械に乗ってほしい。」

格納庫の中の布カバーを剥がす。

「え?ナニコレ…。」

中には巨人の操者席。

「この機械を使用すれば君の癖が判るはずだ…。おそらく操者手順の何が抜けているのが分る。」

「伍長殿!」「準備整いました!」「何時でも行けます!!」

持ち場に付いた下士官候補生達もやる気だ。

「はぇ?いぇーーーーええ。」

「さあ!乗ってくれ。」

この試作機に!!

そのままボブの手を取り操者席に誘導エスコートする。

クルーガー騎兵少尉殿、僕はやりました。

お嬢さんを初めてエスコートすることに成功しました。

「起動!」

操者席のボブは顔を真っ赤にして何か呟いている。『男の子から手紙が来たら期待するに決まってるじゃない!!』

うむ、機体している。

その後、吊り下げられた巨人の模型は何度も転倒した。

転倒直前の木の板に書かれた波は…。

「コレは…。右腿軸と同膝軸の動きが同期していない。」「右膝軸の戻りが遅い。」「三回目の転倒と同じだ左足関節より右足軸、特に大腿部の上げが遅い。」

「ふえええええええええええええええぇ!」

屈辱に耐え操者席で泣き叫ぶボブ。

「おい!腿上げが遅いぞ!特に右股関節!!」

警告にボブが反応するが遅い。

「は、はい!!あ!!」

結果が人形に出てしまった。

途端に姿勢を崩し始める人形。

「あ、膝関節の戻りが遅い!!」「あー駄目だ。」「今回も転倒だ。」

地面に倒れる前に歩行器外フレームにぶら下がる。

工兵見習の視線の先、歩行器に拘束された模型の巨人が水平に吊り下げられている。

全ての男子のため息が格納庫に広がる。

ボブは肩を落として震えている。

「ほい、各関節正位置へ。」「おーい、人形の状態を復帰しろ。」「「「了解!」」またかよ!」

数人の生徒が歩行器の滑車にかかったロープを引き小さな巨人を正立させる。

床に落ちた木の板を拾い、波形の異常部分をチェックしてコメントを書き加える。

「今のは右股関節の腿上げが遅かったのが原因で姿勢を崩し。上半身を後方への重心移動で立て直そうとしたのが転倒の原因だが、基本的に手長短足の巨人は前に重心が有るので悪手だ。前に踏み出すか。腕を使え。」

顔を真っ赤にして涙を浮かべ震えるボブに波形の板を見せる。

「やってるわね…。」

「「指導教官殿」」「教官!」

全員がその場で敬礼する。

「そのまま作業を続けなさい。」

「「ハイ」では開始!」

作業に戻る下士官見習いに…。

「何か解ったかしら?」

何故か士官候補生の方に来る。

「はい、基本的に腿上げの起点が遅いのが全ての原因です。」

木の板を並べる。

全てコメント入りだ。

「そう…。そんな事まで判るの?」

教官殿が少々驚いている…。

「各部の関節の角度を鑑みると、転倒に至る起点となるココです。この後、転びそうになって復帰を足掻いて結果が転倒です。」

「これは…。」(解って無い)

慣性制御が出来ていない。

巨人の重心と自重に振り回されている。

「ほら、今、今回は左腿上げが遅い事例です。上半身の重心移動範囲外で…。転びます。」

水平になるロープに繋がれた小さな巨人。

これ、股関節の可動範囲が狭くね!?

本気で動かすならかなり足場を選ぶ。

良くこんなので冬山を乗り越えて来ようと思ったのか。

正直、王国の運用は無謀だと思う。

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