第10話.戦場にようこそ。7

駐屯地に戻ると軍曹が中尉に報告して士官全員が揃った。

何故か僕も呼ばれている。

状況説明を行う中尉殿。

「敵はメガロニクスを使用して雪山を開削、侵攻路を構築している。現在、発見したのはメガロニクス2機に兵80名程度だが敵の編成上で考えると4機と一個中隊程度と考えられる。無論、回廊が完成した暁には大規模な増援と侵攻も考えられる。そうだな工兵少尉。」

「はい、メガロニクスは稼働時間に合わせて整備が必要です。その為の施設も。恐らくメガロニクスは交代で…。残りは後方で整備中だろうと思われます。」

工兵少尉が答えた。

頷く中尉殿。

「山の向こうに敵の拠点が在るのは間違い無いな。」

「くそっ、此方のメガロニクスの増援は呼べるのか?」

「無理だな、南方戦線に集中している。」

「帝都には有るだろう…。」

「遠すぎる、運ぶだけでも二か月掛かる。」

「領民軍で持っている物を…。」

「それこそ名を挙げる為こぞって南へ進出しているだろう…。」

みんな知っているのか…。

あの巨人ロボット

工兵少尉が随分と詳しそうだ。

後で聞こう。

「街道の雪をメガロニクスまで使って開削するとは…。」

「山越えでは補給路が細すぎる敵の目的は陽動だ。」

「いや…。春に成れば本格的な侵攻が在るのかもしれん。」

話が纏まらない様なので、質問する。

「あの…あの巨人は重たいのでしょうか?どれだけの大きななんでしょうか?どれ程の速さで歩けるのでしょうか?」

「大人の背丈の3から6倍だ、岩で出来ている、魔導士の練度により足並みは違う。並みの魔導士は平地で馬車程度には付いて歩ける。」

工兵少尉が答える。

「稼働時間に合わせての整備はどれ程の時間が必要なのでしょうか?」

「ソレは…。今必要な事か?」

中尉殿の機嫌が悪そうだ…。

早めに切り上げよう。

「いえ…。敵の修理拠点までの移動時間を考えれば…。何処かに修理拠点が必要になるのでは…と。」

「いや…、ネームド級の魔導士なら必要は無い。山を越えられる。」

「来ますかね。そのネームド級。雪かきしながら。」

悩んだ末に答える工兵少尉。

「貴族が…。メガロニクスまで使って雪かきなんかしないだろう。」

恐らく常識なんだろう…。

「並みの魔導士の並みの巨人なら?」

「山は越えられ無い、整備拠点が必要になる。」

「どれ程の広さと設備が必要ですか?」

「最低でも馬車10両に起重機、整備小隊が50人程度だ。扱う台数にもよるがこの駐屯地程度の広さが必要だ。」

そうすると山の中にそんな平地は無い…。

中尉殿の機嫌が最悪だ。

「だからメガロニクスによる侵攻は無いと言う上層部の判断なのだ。」

いや、在る。

「今は平地が有るんですが…。」

「なに!」

指揮官が叫ぶ。

士官達は皆、暇が在ると地図を見ている。

山の中に平地は無い。

「何処だ!!」

しかし大丈夫なのか?

「ココです。」

壁の地図を指し示す、谷の底の湿地帯で沼だ。

しかし良いのか?二か月で泥の中に沈んでしまう。

「ばかな…。」

驚く士官達。

「巨人の重さが解らないのですが…。今は凍って雪に覆われています。あいつ等、ココが湿地だと知らないんでしょうかね?」

雪解けが終わった後、三か月間は沼の中だ。

「ソレは…。在り得るな。」

実際に軍が持って来た地図は殆ど白紙の状態だった。

敵も同程度の見識だろう。

「巨人の重さは…。」

皆、困った顔だ。

詳しく知らないのか、知っているが説明が面倒なのか…。

「おい、工兵少尉、後で動員伍長にメガロニクスについて教えてやれ。」

「ハッ。」

中尉殿が工兵少尉に命令した。

助かった、教えてもらえる。

「ありがとうございます、僕が見た巨人は下半身が雪に隠れて見えなかったので…。付属の王国兵は山岳イェーガー兵っぽくないんですよね…。」

すっかり部下猟師イェーガーに成ってしまった帝国中隊の士官達が苦笑する。

「馬車が通れる道を開削しているのだ…。メガロニクスもある。工兵だろう。」

工兵少尉が答えた、ついでに聞こう。

「巨人で山の斜面を切り崩して道は作れますか?」

此方からは、この湿地平地まで馬車が通れる道は無い。

「いや…不可能ではないが…。魔導士の疲労が出る。関節の摩耗も速くなる。」

「では、山の中に拠点が構築できなければ…。王国はどう判断するのでしょうか?」

工兵少尉が当然の結果を話す。

「魔導士は疲労で動けなくなる。摩耗したメガロニクスは動かせなくなる。歩兵の戦いになる。」

「我々は、攻撃場所を選べますね…。今では鹿にも発見されずに移動もできる。」

中尉殿が頷く。

「うむ、我々の方が先に見つけた。地の利も在る。」

程度の差は有れ今の兵は猟師イェーガーだ。

「敵の装備を破壊して拠点構築を妨害すれば…。」

工兵少尉が答える。

王国軍は侵攻を諦めるか…。よし。その線で行こう。」


中隊の方針は”敵に基地を作らせない”に変った。

工兵少尉殿から巨人の性能を聞こうとしたら、中綴じの本を貸してくれた。

”後で必ず返えせ”と念を押されたが、表紙から恐らく工兵学校の資料の様子だ。

目を通して解った。

巨人の主材料は岩だった、但し”錬金術師が練って形を作り岩にする”と在るので、コンクリートかもしれない。

比重は2.4から3までで考えよう。

人工筋肉では無く関節はサーボモータのロボットだ。

動力は”操縦者の魔力を使う”と在る。

魔力…。

困ったな。

まあ良いや…。

動力の魔力は紋章の書かれた水晶によって、各関節に伝達されて。

関節はギアーBOXでは無くトルク回転モーター代わりの魔方陣円盤兼滑り軸受けだった。

魔方陣は基本的な表示があり、何となくステッピングモーターを思い出す。

回転子側のローターとステーターにあたる表示が増えるとトルクが出せる様子だ。

つまり、高トルク関節モーターは関節部が巨大になる。

大きなトルクが必要な下半身の関節は大きな円盤モーターが必須で脚部は太くなり。

重心を下げる必要が有る為に長手、短足、寸胴な格好になっている。

操縦者の練度があれば関節サーボモータを増やして”人型に近い寸法のメガロニクスを作った”とある。

細かな動きが出来るハズだが、教本には”名の有る操縦者にしか。許されない”と書いて有った。

意味は良く解らないが。

巨人は製造所工房により全て違う一品物が各基本型が存在して、何処の工房かは”見る者が見れば外見で判る”とあり。

監視モニターが数か所あって、”操縦者は水晶モニターで外部の様子が解る”外部映像が見るのだ。

画像受信部カメラも水晶で出来ている表示部モニターとは一対一だそうだ。

数は不明だが、”工房は操縦者の求めに応じ制作する”とあるので…。

つまり…。

金と資材を掛ければかなり本格的な人型ロボットだ。

但し、操縦者は制御する関節が増え、増えた関節が摩耗を起こす。

ランニングコストを下げる為の基本型と言われる物は…。

あの雪の中を進む巨人は、教本の図に在る様な基本型の寸動体型だ…。

雪の深さが不明だが兵の姿は見えたのに下半身は見えなかった。

足が短い証拠だ、手が地面に付く長さ以上だと走る時に邪魔に成る。

長い手は重心のふら付きも起きる。

足の長さと関節の可動範囲、軸数でどの程度の運動能力が在るかは大体予想できる…。

教本と記憶を基に木の板に関節可動範囲を書く。

各手足に最低5軸…。いや、6軸は在るだろう。

必要最低限の人間の動きは生前に知っている。

ソレを操縦者は全て制御している。

恐らく、急斜面や足場の悪い場所は登る事が出来ない。

いや、慣性や反応速度が在れば出来るが…。

滑り軸受けの関節では高速回転は不可能だ…。

工兵少尉の言う”魔導士の疲労が出る。関節の摩耗も速くなる。”とはこの事だ。

つまり、巨人たちは関節の摩耗と操縦者の神経を消耗しながら動くのだ…。

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