第14話.戦場にようこそ。11

ソレからが面倒だった…。(主に工兵少尉が)

話は簡単で、面倒な作業なのだ、山の中から重量物を運び出す。

山から丸太を伐り出す方法が使える。

山を直線に切り開いて、木馬路を作り、木馬を作って滑車掛け縄で山の斜面を登って降ろすのだ。

二つの尾根を越える必要が有る…。

幸い、鹵獲した物資の中に起重機と牽引ロープが無ければやらなかった。

兵隊さん達は猟師から、林業業者で樵に変り…。

捕虜と村人まで動員して…。

山の斜面に木馬路丸太を開削した。

占領した敵の駐屯地湿地我々帝国軍の物に成っている。

全てを運び出す計画だ…。

途中、数回程。

敵の偵察部隊が来たが、道は無いので国境付近の尾根から此方の様子を伺う程度だった。

中尉殿の判断も敵の攻撃は無い。

実際無かった、敵もコチラを警戒している様子だ。


巨人を運び終えた今は、木馬路の撤去に掛かっている。

使った丸太は駐屯地の兵舎の材料に使われる予定だ。

丸太だらけだ…。

分解された巨人を組み立てる為の丸太の櫓。

三基並んでいる。

足場が悪くて、巨人1機がどうしても回収できなかったのだ。

来年回収する事も検討されたが…。

その頃には、恐らく沢まで落下する事が考えられるので、操縦席の水晶を取り外し。

不稼働処理され現地で固定されている。

工兵少尉の話では、水晶は一対なので外すと交換品をその場で作るのが難しいらしい。

工場送りになるそうなので、戦時では一番簡単な不稼働処理の方法だそうだ。

廃棄の命令を中尉殿が苦渋の顔で決断した時、工兵少尉の晴れやかな顔は印象に残った。

中尉殿は最後まで回収に拘って居たからな…。

工兵少尉殿は、雪が無くなったら有り余る丸太で立派な兵舎を作る事に成っている。

ソレまでに巨人を復元する作業も有るのだ。

工兵って大変だな…。

特に士官は。


分解した巨人に手足のパーツが全て取り付けられ。

復元の目途が立つと…。

工兵少尉は、自ら巨人について教えてくれた。

簡単な操縦法手足の動かし方や構造も。

その為、僕が関節を動かせることを確認すると…。

大量の紙のチェックリストを渡され、全部任された。

兵舎増築で忙しいのに単調な巨人の動作確認に付き合いたくない様子だ。

工兵少尉が匙を投げた理由は直ぐに解った。

巨人を操縦すると疲れる。

全ての関節を制御しないといけない。

工兵少尉の話では僕の魔力は平均程度らしい。

”魔導士には足元にも及ばないが、整備する程度には問題無い。”と言っていた。

魔力と言うのは良くわからないが、簡易装置水晶で計測できる様子だ。

魔力は使うと精神的に疲れる。

魔導士も数時間しか動かせない理由は身体を持って理解した。

疲れるというより頭が痛くなる、操作する関節が多すぎるのだ。

こんなのでは工兵少尉も別の仕事と同時には出来ないだろ…。

面倒な仕事を任されたと思ったが。

考えてみれば、補給が回復したら食糧確保の必要が無く、山の地形もある程度、兵が覚えている。

山岳の巡回監視程度では僕の出番はもう無いのだ。

工兵少尉が態々用意してくれた仕事だと思い、感謝してチェックリストを進める。

親父はもう既に怪我から復帰している。

これが終わったら、僕はもう唯の猟師の息子に戻るだけだ。

軍とはおサラバだ、最後に何か貰えるのボーナスを期待しよう。

そう考え、最後の奉公の心算で頑張った。



村周囲の雪が無くなり、町との交通も回復して、本物の司令部から補給部隊が到着した。

皆、大喜びで出迎え、捕虜を引き渡した。

(女の兵2人は士官なので村で軟禁されていた。)

その数日後に早馬が来て…。

駐屯地の中が慌ただしく成った。

かなり上の方からの指令書だった様子だ。

士官全員が呼び出された。

「司令部から、手紙が届いた、諸君、喜べ。我が中隊は公式にメガロニクス4機撃破を認定された!」

歓声に包まれる士官室。

「それから、メガロニクスの回収部隊を寄越すそうだ。」

「ソレは…。」

工兵士官の顔が強張る。

「ああ、安心しろ。魔導士を寄越すそうだ。工廠の人員も随伴だ。」

「了解しました。動員伍長、メガロニクスの状態は?」

安堵の顔の工兵少尉。

ひどいなあ…。

「02と03は問題ありません。01は下肢の関節の損耗があります。」

01は戦闘時にかなり無理をしたらしい。

チェックリストの進捗は報告書に書いて出してある。

「歩けるのか?」

尋ねる工兵少尉、こりゃ読んでないのか?

「歩けると思います、途中で壊れると考察します。」

報告に他人事の様に答える工兵少尉。

「それは、工廠の人間に任せろ。引き渡せば我々の責任は無い。」

頷く中尉殿、工兵少尉が続いて答えた。

「2機居れば引きずってでも帰れるだろう。」

随分と乱暴な話だ。

「引き渡しまでにチェックは終わるか?」

工兵少尉の質問に答える。

「問題が起きたとしても、10日程で結果が出ます。」

問題が起きてもココでは治せないのだ。

鹵獲した治具ジグは在るが使用法は不明なので手に負えない。

「動員伍長はメガロニクスに掛かれ。」

中尉からの直々の命令だ。

「了解しました。」

会議は終了したが…。


後で知ったことだが、僕の知らない所でとんでもない話が進んでいた。




「ようこそ、帝国軍第三軍団、ノルデンヴォルフ第25駐屯地へ、村長殿。猟師頭殿、君達、ノルデンヴォルフ領民の協力により。敵フルードゥ王国軍の侵攻を防ぎ国土の保全に成功した。帝国は君達…。」

見た事もない士官服姿の髭貴族が話す、北部高地訛りの無い帝国語。

通された部屋には…。貴族も騎士も居る。

カーニバルのお芝居より派手さは無いが本物の凄みがある。

「…。御前会議に置いて皇帝陛下への奏上も行われ。”第三軍団は未だ勇猛を失っていないと解り大変満足である。”とのお言葉を頂き、奮戦した第三軍団の将兵に感謝のお言葉を…。」

場違いすぎて居心地が悪い。

村長も顔色が悪い。

俺はこの山で猟師の息子として生まれた。

山から出たことはない。

しかし、未だ小さい頃、村の年寄の小屋で読み書きを覚えて居た。

当時、冬の間は一家で頻繁に避難したのだ。

その間は村の子供達と遊び、笑いあった。

皆、幼馴染だ…。

その内の一人が俺と所帯を持った。

記憶では良くヨハンとは橇で遊んだ、その後を付いてくる妹分、隙っ歯が想い出のソフィアだ。

珍しく小さなソフィアは魔法の適正が有った為、12で町の教会に入った。

人頭税遁れの口減らしだ。

男は10で、女は12で…。

納税の義務が起きる。

代官に報告する義務がある。

ご領主さまの官吏雑務か教会に入れば免除される…。

無論、修道修行で目が出なければ問答無用で家に帰される。

その間は、ココには無い本物の学校に通えるのだ。

だが…。

ソフィアは16で家に帰された。

詳しくは聞かなかったが教会の教えに背く事をしたらしい。

その噂は村で散々聞かされた。

俺は別にどうでも良かった。

山に入れば人は居ない。

俺は協会の教えなぞ全然覚えていない。

久しく会って居なかったソフィアは歯も揃い随分と美しい娘に成っていた。

俺は普通に会話できた。

お陰で村で妙な噂に巻き込まれた。

ヨハンの父は随分とソフィアを疎ましく思っていたらしい。

噂が先に進み、誤解を解くことも出来ず。

簡単に俺とソフィアが所帯を持つ事に成った。

村では猟師に来る嫁は居ないのは解っていた。

所詮は山の民だ。

疾しいことはある。

お互いに何も聞かずに夫婦に成った。

そして、二回目の春に妻が子を孕んだ。

秋口に生まれた子は元気な男の子で”ガリル”と名付けた。

顔は妻に似て、頭は俺に似て居ない

吃驚するほど利発な子だ。

教会で学んだ妻は物知りなので仕方がない…。

しかし、恐ろしい程の行動力だった。

俺が怪我で動けなくと素早く決断して、獲物を獲って来た。

そして、山を降りる事を進めた。

俺は心の中では何とかなると楽観していたが…。

息子は素早く食料の計算を行ったのだ。

説得され、村に降りるとソレ処では無かった。

沢山の兵が溢れている、ご領主さまの兵隊ではない…。

本物の帝国軍だ。

「特に猟師頭殿!ご子息ガリル君の活躍は素晴らしい物だ…。若い世代に優秀な領民が居るとはノルデンヴォルフ卿も鼻が高いだろう…。」

勝手に納得する髭の士官。

怖い顔だ…人を殺すことを仕事にしている男だ。

ガリルはこんな連中と交渉したのか…。

「あの…。ご領主ノルデンヴォルフさまのお耳に入るのですか?」

震える声で村長が尋ねる。

「うむ、もちろんだ。今回の戦果は第三軍団司令部からノルデンヴォルフ卿への感謝状を作成している。」

当然と言う顔の貴族。

「…。あの。息子ガリルは。」

「待て、俺から話す…。」

「しかし…。」

焦る俺を静止する村長。

「む?ガリル君に何かあるのか?」

深いため息を付いて話始める村長。

「実は…。ガリルは村の名簿に載ってない子でございます。」

「それがどうした…。」

士官たちが目で会話している。

「あ。」

騎士が気が付いた様子だ…。

「どうした、クルーガー少尉。何かあるのか?」

「発言をよろしいでしょうか?中隊長殿。」

「ああ、かまわんよ。」

「村長、ガリル君は幾つだったかな?耕作面積割り当てはいかほどかな?」

騎士がこちらの事情を理解した様子だ。

「それは…。」

答えに窮する村長…。

痛い所を突いてくる。

「なるほど…。人頭税を払ってないんだな?」

呆れた声の騎士。

「…。はい。」

頷くしかない。

「困りましたな、中隊長殿…。ガリル君は無戸籍人の様子です。」

「今更…。」「無戸籍…。」「最近とんと聞いたことがないな…。」

「本官の邦国では。爺様の世代で、令が出て全員が余すことなく戸籍を持つことになった…。作為的に無届の場合は罰則が有るはずです。」

騎士が申告する。

代官に知られると…かなり重い罪になる。

「なに!功績表をもう既に書いて送ってしまったぞ!!」

怒る貴族さま。

「早いですな…。」

呟く騎士。

「メガロニクスを歩兵で四機も倒したのだ…。コレは快挙なのだぞ?」

「いや…。」「そうですが…。」

「まだ回収部隊も到着していません。」

別の士官が答えた。

髭貴族様は、焦り…。

「いやいや待て…。もう既に皇帝陛下に奏上した後だ…。今更、内容は替えれん、何とかならんのか?」

早口に成っていく

「領民側の問題です。軍がどうこう言えません。」

騎士が随分とゆっくり答える。

この軍人の中で、特に驚いた顔もしていない。

領地を持った貴族なのだろうか?

「何とかならんのか!?皇帝陛下直属の中央兵団の雄である第三軍団が精強であると示した事例だ…。我々の成果だ。コレはもう既に政治的な問題だ。」

見渡す髭の貴族。

騎士が声を挙げる。

村長の協力が在れば…。端金で何とか出来ます。」

騎士は笑顔で続けた。

「ノルデンヴォルフ卿にはご内密に…。」

悪い笑顔だ。

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