第5話.戦場にようこそ。2

連れて来られた先にはテントが有った。

畏まるヒゲの房付き下士官に紹介され、歳はバラバラの士官達が長机に向かい合っている。

未だ若そうなオッサンが前に出る。

「何だ!お前は?」

「ここの山で生活する猟師だ。国境までの全てを知っている。だから雇え。」

偉そうに言う。

途端に士官達金モール達が顔を見合わせる。

砕けて言う。

「山の国境警備なら山の道案内(ガイド)が必要でしょ?」

「ソレで?」

髭の偉そうな人が返した。

よっしゃ!!掴みはOK。

「俺は猟師だ。山のコトなら何でも知ってる。監視所に最適な場所に水場、冬場危険な場所。雨が降ったら危険な場所…全だ。国境の手前までなら何度も行ったコトは有る。」

「ほお、ソレは役に立ちそうだな。」

目を合わせるオッサン達。

「あと。駐屯地作るのに最適な場所もね?」

「なんだと?」

若い下士官が憤る。

「38家族しか居ないのに250人は収容できないよ?見たところ…。食料も足りなさそうだ。」

馬車の数と兵隊は数えた。

どう考えても補給路が必要だ、この村もその内に雪に閉ざされる。

「何だと貴様!!」

「春にはもっと兵隊さんが来るんでしょ?」

カマを掛ける。

戦争が始まっているんだ。

この程度で国境山岳は守れない。

「そうだな。」

士官の返事で正解を引いたと確信する。

「冬が越せれる建物と…。食料の確保が要るんじゃない?水場の確保も…。」

テントで冬が越せる場所では無い。

この世界のナイロンは無いのだ。

綿の防水布と毛皮でも寒さに耐えることは出来ない。

少なくとも鴨の羽毛が無いと耐えられない。

だが、水に濡れればソレも機能しない。

「そうだ、夏までに1000人は収容できる屯所を作らなければ成らない。春までにはその半分だ。」

500人分か…二個中隊で来年は一個連隊だ。

馬もいるなら大所帯だ。

「なら早いほうがいいね。村長に聞いてよ。ココが一番良いと思うよ?」

持って来た木の板に炭で簡単な地図を書く。

ここら辺の地理は子供の頃から見ている。

「何だ?お前、地図が書けるのか?」

驚く年配の指揮官…。偉くなさそう。

「距離はイイカゲン。歩幅で計ってるからね。ココの丘なら水が出ると思う井戸が掘れるよ?」

下に小川が流れる丘で、今は草原だ。

村からも近い。

時々野焼きして放牧に使う。

途端に天幕の雰囲気が変わる。

「解かった、雇おう。何が望みだ?」

「猟を手伝ってよ。あと、家の親父が怪我でしばらく動けないんだ。お医者さん居るんでしょ?」

士官の顔を見渡す。

「居る…が。」

答えたのはさっきの髭の指揮官で一番偉い人だ。

「只でさえ、今は村人が不安がっているんだよ?医者を派遣して住民を安心させるのが軍の仕事じゃない?」

「なにっ、」

「いざと言う時に困るよ?コレからも兵と村の人との衝突は出るんだから。」

どんなとらぶりゅーか?は子供だからわかんない…。(棒)

「解かった。そうしよう。」

話は決まった。

後は村長と話を付けるだけだ。


村長は、簡単に了承した。

そりゃそうだろ。

村人が家を追い出されそうな勢いなのに、軍がいきなり村の外に宿舎を建てると言い出したんだ。

期限が決まれば我慢もできる。

村の生活に何も影響のない丘を差し出す位、何とも無いだろう。

兵隊たちは丘の場所に縄を張り。

屯所の造成にかかる。

森の木を切り出して建物を作る。

森から兵士達が木を切り倒して材木にしている。

村人でも見かけない様な大の大人が総出で斧を振るっている。

材木の搬送は馬を使っている。

速い速い。

一部の村人も参加している。

端切れの枝を狙っているのだ。

薪はコレから貴重だ。

500名の宿舎を二つに厩舎が一つ、食堂と士官用の建屋も作らなければ成らないが。

どうやら、帝国兵は南方出身者が多い様子で、冬山に詳しくない様子だ。

工兵隊の少尉さんの言う兵舎は2×4に近い掘っ建て小屋だった。

寝食は建屋を分けるのが常識らしい。

防火と衛生的には良いかもしれない。

無論、断熱材も防水層も防湿層も無い構造なので却下した。

やはり指揮官とぶつかる。

指令所の大天幕で話をすることに成った。

「中尉さん、どう考えてもこの宿舎では冬を越せません。」

部隊で一番偉い人は中尉さんだった。

「しかし、コレは帝国軍の教本に沿ったやり方だ、釘や金具もコレ用の物しか支給されていない。」

村の建屋は全て、丸太小屋構造で外に日干し煉瓦を積み上げている。

暖炉暖房は必須だ。

各家は冬場はコレに丸太を立て雪囲いを作るのだ。

「一個は壁と屋根ダケにして倉庫にしたら?もう一個は冬が越せれる様な作りにする暖炉も要る。井戸も二つ作る。」

冬場に枯れるかもしれない。

「ソレでは。命令が…。」

工兵少尉さんが渋る。

「どうせ雪が溶けてからじゃないと来ないんでしょ?夏だよ、夏。屋根と壁が有れば十分だよ。そっちは次の冬が来るまでに作ればイインだし。コレから冬を越すために薪がいっぱい要るんだよ?倉庫にして全部詰め込んじゃえば?」

「それはそうだが…。」

「全部、冬を越してから考えれば良いよ。この村は僕の背丈より雪が積もるんだ。」

「なに!」

「通路も屋外は屋根が無いと一晩で埋まるから。」

仕方がないので越冬用の小屋の図案ぽんち絵を見せる。

乾燥室とサウナが必要だろう。

室内はブーツを脱がさないと、埃で肺炎になる。

調理用のペチカと暖房用のロケットストーブだ。

あと…一冬越せるトイレ用のデカイ樽。

図面を見た工兵少尉は嫌な顔をした。

ですよねー、計算して驚いた。

トイレの大きさがヤバイ。

500人が120日生活する燃料と糞尿の量に驚いた様子だ。

未だ甘い、軍馬が居るので水と飼い葉の量はもっと必要だ。

「冬はトイレはしっかりしないと。春になって解けて井戸に入ると病人がいっぱいでるよ?特に、建物周りで立小便すると…。めんどくさがりの兵隊さんが雪溶かして飲み水に…。」

軍医の顔が青くなる。

「解かった!!兵に厳命しておく!!井戸水だけを使用させる!!」

「ソレがいいね。厩の水は川の水でも良いと思うけど。飼葉を蓄えないといけないし。草原の草刈でもする?」

材料の切り出しは軍で決まっている様子なので、工兵少尉が図面を引いた。

結局。部材の関係で兵舎は計画の半分の面積しか出来なかった。

二段ベットになった。

理由は資材の不足だ。

兵舎に床を付けるためだ。

ロケットストーブの煙突が縁の下を通る床暖房だ。

コレぐらい無いと大空間で冬は越せない。

全ては無慈悲な数式の結果なのだ。

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