第26話.帝都にようこそ。1
小雨の降る中…。
連隊は村人の見送りの群衆の中を整列した兵が行進する。
僕は第三軍ホフマン中隊下士官として一緒に帝都へ行く事に成った。
引継ぎの公爵軍の二個小隊が来たので我々は最後の撤収部隊だ。
手を振る村人…。
親父と村長が遠目にみている。
僕は防水布の合羽と大きな騎兵帽で馬に乗っている。
山道を進む我が中隊規模の馬車の列。
最後の殿なので主力は主計や工兵。
後は
後、馬関係の兵。(騎兵ではないが、騎乗している。)
日没前に山を越え草原の端に付くと直ぐにテントを張って飯の用意に掛かる兵。
騎兵は馬の状態を常に気を配なくてはいけない。
レッキ帳の情報通り、飲用可能な草場に小川を見つけたので馬を並べる。
水を飲んだり草を食む馬…。
馬房兵と共に一匹ずつ泥だらけの馬の足を股に挟んで馬匹を確認する。
「馬匹の状態を確認しました。異常の有る馬は居ません。」
兵の報告を受ける。
「了解。明日の朝の体温検査時にもう一度点検しろ。」
散々出発前に肥爪を整え、餌を十分にやり。
点検したので状態の悪い馬は未だ居ない。
「はい、了解しました!」
今はね…。
これからが大変だ。
兵も解っているので文句を言わない。
長距離行軍は、初めに怪我する馬が出ると次々と…。
騎兵の常識らしい。
何とも言えない不安の中、飯を喰って早々と
同じ様な作業を何日も繰り返し…。
違うのは屋根が在る時も在れば無い時もある。
天気の悪い日は最低だ。
今日も日の出前から馬の体温を測り、肥爪を確認する。+掃除
馬の状態は良い。
余裕が在るので馬を空荷の馬車とローテーション出来るのは良い事だ。
日が登ると中隊を指揮する工兵少尉に呼び出された。
簡単な挨拶と馬の状態を報告する。
「イエーガー戦時准尉に伝令を申し付ける。この伝令文を〇〇地方連隊本部に届ける事。報告後は現地にて合流を待て。」
「了解しました!」
今夜の寝床になる場所だ。
帝都までの経路の地図を事前に覚えさせれた。
無論軍機で騎兵は頭の中で覚えるらしいが…。
メモ書き程度の物はある。
騎兵用の
口頭で伝えた物を記号化記述するとカーラリーのレッキ帳の様な
馬による長距離移動は確かにラリーの様だ。
軽装だが旅道具を背負い馬に乗る。
「では、先に行っている。後は頼んだぞ軍曹。」
僕より馬に詳しいので問題は起きないだろう。
「はい、了解しました!ガリル戦時准尉殿。」
「ハッ!」
手綱を操り、馬を走らせる。
中隊は未だ出発の準備中だ。
騎兵服の内ポケットに在る伝令文。
ガムの包程の紙にビッシリと書かれているハズだ。
敵に捕まった時に飲み込める大きさの
食べれる葉っぱで呑み込む練習をやった。
戦争中じゃないので呑み込む状況はおきないだろう。
街道を走る馬。
単騎草原を走る。
今日は天気が良いので馬の汗も多い。
何処か水場で小休止を取る必要がある。
小一時間も走ると…。
草原に石垣に一本だけ木が立っている。
跳ね上げ式の…。
井戸だ。
馬の脚を緩め接近する。
周囲を確認。
特に異常はない。
馬から降り、手綱を繋いで馬から離れる。
井戸をのぞき込む、浅い井戸で水面が見える。
問題は無さそうだ。
桶を投げ込み水質を確認…。
馬には悪くない程度だ。
人は沸かせば何とか飲める。
桶を移し替え、馬に呑ませる。
一瞬で桶が空に成るので再度汲む。
四つほどの桶を空にして馬が落ち着いた。
鞍やバンドの状態を確認する。
擦れて怪我が無いか、固定は問題無いか…。
ひと通りの点検で問題は無いので…。
木の木陰、草叢に寝転がる。
馬は草を食んでいる。
特に何もしない。
体感的には30分程度休ませる必要がある。
もう少し無理は出来るが明日も明後日も…。
帝都迄の距離を考えると今は無理させるのは得策ではない。
「騎兵って大変だな…。」
風で騒めく枝と、流れる雲を見て呟く。
トラックが出来たら馬は趣味の世界だ。
こんなに大変な技術体系を捨てるのは嫌なのは解る。
馬を効率良く運用するのには長年の運用技術の蓄積が必要なのだ…。
絶対トラック作って駆逐してやる!!
木陰が切れ眩しくなる。
「よし!時間だ。」
騎兵少尉の言う寝る位置で時間を計る方法だ。
草を払い立ち上がる。
馬も休憩が終わったのが解った様子だ。
簡単に点検して馬に乗る。
馬に跨り手綱を張り、鐙を叩く。
走り出し、景色が流れる。
昼過ぎに目的地の村に到着した。
大きな村だ、街道進むと見えるのは砦で石垣も堀もある。
正面は村の広場で野菜を売る馬車が並んでいる。
地方連隊本部は直ぐに解った。
旗が立っている。
地方連隊本部が在るのでそれなりの人口は在るハズだ。
馬でそのまま門を潜る。
衛兵には止められ無かった。
軽く敬礼して進めばよいと言われている。(クルーガー騎兵少尉から)
その通りに成ったので。
建物の正面に進み止まると、途端に従兵が飛んできて手綱を持つ。
馬から降りると、当番兵が敬礼している。
「帝国第三軍団オーウェンドルフ連隊のウムラウフ隊より伝令文を預かっております。責任者とお会いしたい。ワレ。ガリル・イエーガー戦時准尉。」
前に進んで返礼する。
馬は素早く繋がれた様子だ。
「はい、此方に戦時准尉殿!!」
下士官の先導で本部長室に進む…。
床を舐める蹄鉄と鋲の入り乗馬ブーツの音が響く。
ノックをする下士官にドアが答え。
要件と名乗る下士官。
返事は直ぐに帰ってきた。
扉を開く下士官の目礼で部屋に入る。
「帝国第三軍団オーウェンドルフ連隊、ウムラウフ隊より伝令文をお届に参りました。ワレ。ガリル・イエーガー戦時准尉です。」
机に向って敬礼する。
「うむ、頂こう。」
机に張り付いた髭の将官が手を出す。
ロボットの様な決められた歩幅で前に進み…。
ポケットから出した丸まったメモ用紙を手渡す。
そのまま不動の敬礼の姿勢。
しわしわに成った伝令文の紙を慎重に引き延ばし…。
注意深く細かい文字を読む将校。
前後に紙を動かし熟読している。
「うむ、駐屯の件あいわかった。現在、貴軍の傷病兵を幾つか収容しておる。二、三日掛かるが必要物資が揃う頃には、おそらく全員を引き渡せる。」
どうやら、明日の出発は無い様子だ。
そろそろ兵も休息が必要な頃だ。
「はい、ありがとうございます!では、自分は
殿なので
馬車の荷は軽い。
「うむ、人馬共々よく休む様に。帝都は遠いぞ。」
返礼を受け敬礼を解き部屋を出る。
馬房に向うと馬は既に鞍を外されて干し台に掛けられていた。
馬も飼葉と水を与えられている。
鞍の状態を確認して…。
もう既に泥は落とされていた。
油は未だの様子だ。
乾燥してから油を塗ってしばらく置いてから拭き上げる。
日没までに終わらせる。
馬房内の兵に声を掛ける。
「本日は馬は使わない。休ませてくれ、二、三日は休めるハズだが…。まあ、例外は何時でも起きる。」
騎兵なので何時命令が起きるか解らない。
「はっ!了解しました。馬の状態は問題ありません。明日は天気が良ければ裏の放牧場へ移します。夜はココです。」
馬房の兵士も慣れっこだ。
馬の居場所を知らしてくれる。
別の兵が油瓶とブラシ&ウェスを持って来た。
「戦時准尉殿の鞍は現在清掃中です。緊急時は予備をお使い下さい。」
僕は子供の様な成りだが大人の様に接する兵士。
「ああ、先ほど確認した、任せる。異常が在ったら知らせてくれ。」
「了解しました。」
仕事は兵に任せる。
士官の仕事は兵の監督だ。
ココの馬房は古いが清掃が行き届いている。
破損は在るが補修されているので、軍曹の指導…。
士官の指揮が良いのだろう。
駐屯地内を歩く。
昼下がりで訓練している兵も居るが草刈りや建物を直す兵も居る。
日常で平和だ。
困った特にやる事が無い…。
待機するという仕事が在るのだが…。
クルーガー騎兵少尉なら”昼寝でもしていろ”と詳しい待機命令を下すだろう。
何せ兵に直ぐに見つかる様に目立つ場所で昼寝する必要がある。
本でも買って置くか…。
何処で本売ってるか不明だが…。
兵舎の壁に新聞が貼ってある。
日付は一週間前だ。
暇なので読む。
帝都での流行りの帽子屋や、どこぞの貴族が結婚したとか…。
特に情報は無い。
簡単に読み終えると…。
周囲を見渡す。
売店が在った。
馬車で民間の慰安所らしく太目のおばさんが店を拡げている。
売って居るのは雑貨だ。
”現金払い!”という旗が立っている。
「あら、いらっしゃい士官様。」
「ああ、すまんな。銭が無いので冷やかしだ。本隊との合流待ちでな。」
財布は在るが小銭を降ろすのが面倒なので空っぽだ。
「あらあら…。では三軍の士官様?」
我々は殿なので先行した部隊はココに泊まっただろう。
「ああ、そんなもんだ。」
昼下がりで給料日前の
「そういえば…。売りたい物が有るのだが。買取してくれる古道具屋は知っているか?」
帝都で売れば高く売れる…。
その言葉を信じて鹵獲品を幾つか貰った。
と言うか士官が倒した敵兵の分捕りは権利だ。
その為、何故かサーベルが7本もある。
本隊と合流すれば個人の荷物は馬車の中だ。
今、下げているのは王国製の量産品だ。
この村で一個ぐらい売っても良いだろう。
「はい…。買取はウチでもしておりますが…。」
残念だ。
「そうか…。戦利品だ、このサーベルを金に換えたい。王国製の量産品だ。」
多分、先行した兵が売っているだろうから高くは買ってもらえないだろう。
「あの…。士官さまが…。もしわけ御座いません。剣はちょっと…。」
そうか…平和な村では剣を必要とする人が少ないのか…。
「では。ナイフはどうだろうか。」
腰に下げた王国軍の軍用ナイフを外す。
ベルトに掛ける革の鞘付きだ。
コレも何本か持っている、兵の話では帝都の店で金貨3枚程度で売っているという話だ。
サーベルは金貨10枚程度の物を少尉が下げるらしい。
つまり、俺は帝都で小銭を得る事ができる…。
「はい、ナイフなら。金貨一枚で買い取ります…。」
今は素寒貧だ。
コレから町で色々物入りに成る。
正直、愛用の剣鉈の方が手に馴染んでいる。
「それで良い。小銭で頼む。あと。コレを付けてくれ。」
りんごを一個、手に取る小銅貨二枚の品だ。
「はい、よろしいですよ。どうぞ。」
銀貨9枚に銅貨数枚と小銅貨がぞろぞろ受け取る。
個人資産を売る。
と言うか僕の個人の
空の財布が重くなる。
やった!鹵獲品売って初めて銭を得た。
りんごをお手玉しながら慰安所から出る。
良い場所に芝生と木陰が在ったので寝転ぶ。
りんごを監視する仕事を作る。
うん、甘い匂いだ。
日が傾き始めると本隊が到着して忙しくなった。
やはり、出発は三日後になるそうだ。
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