第11話.戦場にようこそ。8

迎撃の為の準備が進む駐屯地内で忙しそうな工兵少尉殿を訪ね。

質問をぶつける。

「巨人の動力は魔力と言う話ですが…。この基本型の股関節部はどの程度まで力を出すことが出来るのですか?例えば自重を1とした場合…。」

木の板に計算した巨人の関節可動範囲と予想重量、接地圧の図式を工兵少尉に見せると…。

酷く嫌な顔をした。

「何故、お前が知っている。」

「はあ、借りた資料を基に人に換算して比重計算しました…。たぶん動けるのならこんな感じです。」

でないと自重で動くことが出来ない。

「ばかな…。」

木の板を見入る工兵少尉殿。

「何か間違いが在りますか?」

多分パラメーターの設定の問題で誤差が大きくなるはずだ。

「いや…。この図は俺が没収する。動員伍長、メガロニクスの自重と接地圧は軍機だ!忘れろ。」

あー、そういう理由ですか…。

「は…い。」

「その上で聞こう、何を知りたいのだ?」

こまったな、何を言っても軍機に成りそうだ…。

「関節部の力が解れば、てこの原理で作用点の力が解ります…。”操縦者の魔力による…。”としか書いていないので…。」

「そうだ…。魔法陣の記述数と魔力の倍数で力は出る…。限界はある。」

限界は関節の強度の問題だと思う。

「つまり…。何を挟めば関節は動かなくなりますか?」

厳しい目の少尉殿。

「何を考えている…。動員伍長。」

「いえ…。巨人に対抗するには巨人でしか”不可能”と書いてあるので…。確かに手足の強度は高いですが…関節はそれほどではない様子です。」

ロボットの基本だ。

全て”てこの原理”で出来ている。

「…。」

無言の工兵少尉殿に尋ねる。

「ロープや丸太で何処を捕縛すれば動けなくなるのか…。と?」

「歩兵でメガロニクスと戦う気か!?」

「いえ…でもこちらに…。メガロニクス?が無いんですよね。」

「そうだ。」

「巨人に人が乗る前に動けなくしてしまえば…。何でも良いのです。可動部にレンガ突っ込んだり、丸太押し込んだり…。水晶を破壊したり…。何が一番有効でしょうか?」

戦車にレンガは一番古い方法だ。(第一次世界大戦)

「可動部への異物の故障は良くある話だ操縦者には対抗策がある、水晶の破壊は強度的に不可能だ…。」

対抗策…。

何だろ?

「では、泥団子で目つぶしは…。空気取り入れ口に酢を流し込むとか…。」

「泥団子…。酢…。それは…有効かもしれん…。」

絶句する工兵少尉殿。

エアコン付いてないのか…。

「操縦者席は…。密閉されて居ないのですか?雨漏りするとか。水の中に入ると中も水没するとか。」

「小雨程度なら問題がないが…、大雨だと中の操者は水に濡れる。完全に水没すると溺死する場合がある。」

「うーん。」

密閉コックピットではないのか…。

なるほど…火炎瓶や毒ガス弾は有効だ。

やはり、一次世界大戦の戦車程度の性能なのだろうか?

「動員伍長…。お前はその知識を何処で覚えた。」

「いえ…。冊子を見て疑問に思った事を計算しただけです。巨人とはどんな物なのか…と。魔法も見たことがないので。」

此方が尋問されているようだ…。

生まれる前、動く模型を作ったことが有るとは言えないので誤魔化す。

もう一度、木の板を眺める工兵少尉殿…。

「くそっ!天才か。」

「はい?何か?」

「いや、猟師イェーガー、何故。軍に肩入れする。」

「簡単な話です、敵兵が村に来たら村は焼かれますね。敵にとって帝国の動員伍長の家族なんて見せしめで全員殺されますよね…。親父が怪我で動けないから働いているなんて敵軍は気にしないので。」

「そうだな…。」

納得する工兵少尉殿…ちょろいな。

「帝国兵の皆さんには頑張って欲しいんです。戦争はこまりますが敵国兵を追い出してもらわないと…。僕達猟師は山に入らないと生きていけないので。」

「そうか…。」

よし誤魔化せた。

「僕も敵が来るなんて思ってなかったので。」

「全くだな。メガロニクスを撃退する方法を検討してみる。」

工兵少尉殿がやる気を出した様子だ…。



なお…。後で中尉殿に呼び出されてかなり尋問を受けた…。

あの、工兵少尉殿が貸してくれた冊子は一般人に見せてはいけない物だったらしい。

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