第28話番外編.フルードゥ王国。王立陸軍司令部内、戦史編纂課。1

「北部戦闘報告書が出来ました。」

部屋で並ぶ机の上…。

その一つの机上で一人が書類の束を掲げた。

「おう、もってこい。」

窓を背に椅子に座る緑の士官服…。

腹の出た二重顎の壮年の男が横柄に答える。

小走りに進む痩せた士官服の男。

書類を机の上で渡し、背筋を伸ばす。

不機嫌そうに受け取った小太りは胸ポケットの鎖を摘み。

単眼鏡を出し、書類を食い入る要に読む…。

「なんだ!コレは。」

「はい、戦闘結果です。」

銜えていたパイプを口から離すでぶ。

火は付いていない。

持った手で書類を叩く。

「中隊長戦死、士官死亡多数!メガロニクス5機鹵獲されるだと!!戦死226名、行方不明者232名!」

「いえ…。初戦は3機の鹵獲です、戦場で擱座した一機のメガロニクスを廻り奪還作戦の結果、総勢5機が帝国側に渡りました。おそらく搭乗員も…。」

でぶは机の上に書類を置いた。

「いいか!我々は先の戦いで勝った事に成っている!帝国共から権利を守った!」

おしゃぶりでしかないパイプを振り回す小太り。

何か飛ぶ。

「はい。」

しかめた顔で浴びる士官。

新聞では帝国は多くの犠牲を支払い停戦に漕ぎ着けた事になっている。

我々の辛勝を宣撫プロパガンダしている。

実際は南部では一進一退の引き分けだ。

双方に犠牲を強いたのだ。

王国の勝利は議会と議長の方針だ。

「元々は、帝国の兵力を分散させる為の限定的な越境攻撃だった。その結果か!」

情報のリークを行い、帝国のわが国内の情報網を確認することに成功した。

実験的な攻勢だったはずだ。

「はい。現実に帝国の親衛一個大隊を2年程度は北部に張り付ける事に成功しています。」

「何故こんな事に成ったのだ!」

「…。敵が強かったのでしょうか?」

首を傾げるやせた士官。

「あ、何だ!!」

大きな声で答える士官。

「対応した敵部隊は親衛隊の第三軍、歩兵と騎兵の混成大隊でした。」

激昂するでぶ。

「アホか!例え騎兵が混じって居ようとも1000人程度の兵でメガロニクス数機と歩兵の混成部隊の進行を跳ね返す事が出来るはずがない!!」

唾が飛ぶ。

「あの…。敵第三軍は帝国親衛隊エリートであり非常に有力な部隊です。今回の戦闘で新機軸の戦術を発揮しています。」

「なんだ!」

猟兵部隊イエーガー、対メガロニクス戦術を備えた歩兵部隊…。だと思われます。」

「なんだと!!」

「あ、後ろの最後のページで…。はい、そこです。」

急いで捲った紙を読み上げるでぶ。

「”当初奇襲攻撃を受けた部隊の交信内容には『イエーガー猟兵』の単語が飛び交い、混乱した状況下で全ての通信が途絶え…。時点で壊滅したと思われる。”」

「はい、恐らく帝国の新兵科。”猟兵部隊イエーガー”が存在し…。」

「歩兵でメガロニクスを撃破するのか…。アホか!歩けば人も馬も踏み潰すメガロニクスを歩兵で挑む奴が居るか!!」

「居るんです、帝国に。雪にも寒さにも飢えにも…。人里離れた険しい山を踏破して、あらゆる過酷な環境で生き抜きメガロニクスの突撃に恐怖を感じない兵が…。そうでないと説明が付きません。」

叫ぶ士官。

「馬鹿な…。」

我が方の部隊も越冬に成功はしたが多くの傷病兵を出している。

殆どが凍傷に栄養失調だ。

帝国側も同じ様な状況のハズだが、練度を維持して我が方を圧倒している。

「メガロニクス奪還戦の予備部隊指揮官の軍務日誌です…。帝国は歩兵だけでメガロニクスを撃破しています…。伏撃です。」

新たな書類を出す士官。

一次資料の複写コピーだ。

受け取り読み上げるでぶ。

「有力な敵集団は草を身に纏い接近…。奇襲を受け乱戦の中、待機していた我々とメガロニクスが突撃、敵集団は素早く後退し放棄された馬車等をロープで捕縛、障害物を構築し…。」

結末はこうだ。

「メガロニクスを停止させ行動不能にさせています。」

「…。メガロニクスを擱座させ…。敵の圧迫を受け国境際まで後退、敵集団が停止したので双方対峙する事になった。うーむ。」

「敵は状況に合わせて対応しています。手慣れて居ます対メガロニクス戦闘を意識した戦闘集団です。」

「…。」

上司が無言で資料を返却したので受け取る。

「戦術としては未だでしょうが、成果は出てしまいました。コレから教導隊が作られて…。帝国軍に戦術が広まるのは未だ先でしょう。」

帝国軍の強さだ。

「歩兵をメガロニクスで蹂躙するセオリーは難しくなるのか?」

「恐らく近い将来には…。」

「我が将軍達はどう思うだろうか?」

「さあ…。お嬢さん方のほう次第でしょうか?」

皆プライドが高い。

痛い目を見ないと理解できないであろう。

「北方の…。小競り合いの負け戦だ。誰も気にしないだろうな。」

「ですね…。」

我々は起きた事を記録保管するのが業務だ。

叫ぶことは許されない。

ソレが経験戦訓に繋がる事でも。

”敗北主義者”と言われ石を投げられる。


なにせ、戦史編纂課は既に石を打たれた者の掃きだめなのだ。

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