第9話.戦場にようこそ。6

食料確保に成功した小隊も合流すると。

雪が溶け始め町との交通が回復した。

と言っても。

10日に一回だ。

しかも天候が悪いとどうなるか解からない。

しかし断片的に外の情報が入ってくる。

南の平野の戦いは一進一退らしい。

詳しくは解からないが隊長さんの表情で解かる。

雪解け進む山は危険が多い。

だが入れないワケでは無い。

細心の注意で監視拠点巡回を強行する、ついでに食料の確保も。

鹿の痕跡が何故か多い。

遭遇する機会もある、谷を駆け下りる鹿を何度も見た。

コレは何か有るな…。

流石に馴れた兵が鹿を弓で獲る。

良い腕に成っている。

しかし獲った鹿は若い。

「はぐれだ、困ったな…。」

親とはぐれた鹿だ。

この大きさなら未だ親と一緒に行動するか群れの中にいる。

「どうかしましたか?猟師殿。」

「この鹿の毛色は…。山の向うの鹿だ。」

「そうなんですかい?」

「鹿は食いが良いと毛の色が変わる。コレは春の早い時期の色だ…。未だ早すぎる。」

山の中は未だ雪で寒い。

「??」

こいつ等は国境、山の稜線を超えてやって来る。

国境の向うで何か鹿が逃げるモノが居るのだ。

大猟の鹿を運んで、駐屯地に戻った。

中尉殿に報告する。

「確定では無いのですが宜しいのでしょうか?」

「なんだ?」

「今日討った鹿の毛色が国境の向こうの鹿です。」

困惑する中尉殿。

「何の話だ?」

例を挙げて説明する。

「昔。国境の向うの森で火事が在った時、毛色の違う鹿が取れたそうです。その時の話の様な毛色の鹿が今日取れました。」

「なんだと?」

「鹿の痕跡が多すぎます。恐らく…山の向うに鹿が逃げる様なモノが居るのだと思います。山火事が起きたワケではありません。」

不確定情報なのでココまでだ。

「そうか…。解かった。何か有ったら直ちに報告してくれ。」



雪解け進む山の中を偵察小隊と共に進む。

この頃になると兵隊さんも新米猟師程度には動くようになった。

今日の目的は雪で閉鎖になった監視所の確認だ。

雪囲いはして有るが、雪を耐えたか判らない。

周囲の雪の状態を確認しないと、最悪、開削した後に雪崩に押し潰されるコトもある。

監視所を遠目に見る。

「うーん」

「どうしました?猟師殿。」

「山の斜面の雪の形が悪い。雪崩が起きそうな形だ。」

「近づくのは危険ですか?」

「僕は、危険だと思う。数日以内に自然に雪崩が起きるのは半々だ。」

軍曹が嫌な顔をする。

「困りましたね…。」

監視所の復旧は命令だからだ。

「僕は臆病者だからね。一度上から雪崩が起きれば安全だと思う。ソレまで通るのは危険だ。」

「判りました、遠方から確認するだけにしましょう。」

僕の意見が採用された。

「申し訳ありません。」

命令を放棄することに成るので謝る。

後で中尉殿に説明を求められるだろう。

「いえいえ、ここまで来て死にたくないですからね。」

冬が終わったので浮ついた心になるのは仕方がない。

確認できる場所まで進む。谷の尾根に上がって周囲を確認する。

谷底は湿地のハズだが雪と氷で白と黒の斑模様だ。

何か引っ掛かる。

「全員動くな。黙れ!」

「…。」

訓練通りに動く兵。

両耳に手を当て谷の流れる風の音を聞く。

首を振り方向を割り出すが…。

ダメだ、反響してわからない。

方耳、両耳で試す…。

「軍曹殿、何か居る。人間だ、数は判らんが多い。」

「なんですと?」

「人が歩いている、息が荒い、何かを話している。内容は不明だ。大きな鳴り物を使って居る。」

「何処から?」

「ソレも不明だ。山肌に反響して方向が判らない。駐屯地からの音ではない。」

「あの…。何故駐屯地でないと?」

「あの山肌が駐屯地の方向を向いている、其方からの音ではない。谷と言う物は意外と遠くまで音が伝わる。巻き狩りの時は同じ谷なら笛の合図で全て聞こえる。」

音は風に乗ってやってくるのだ、ソレに雪は音を吸収してしまう。

「では…。」

「我々でない何者かがこの山の中に居る。」

帝国でこんな雪山の中を進むのは我々しかいないのに。

山の頂上は国境で向こうは戦争中で敵国なのだ。

「おい、伍長!地図を出せ!」

伍長が地図を出す。

軍用の地図に僕が記憶で書いた物を合わせた地図だ。

「現在地はココ。」

自分の頭の中の地図とあわせる。

何時もなら兵がランドナビゲーションで位置を割り出すが今は時間が惜しい。

「ハッ、ありがとうございます。もし、国境を越えて大人数で来たならどのルートでしょうか?」

今は雪が多いのでルートは限られる。

「ココ、ココ、今、通れるか判らないがこのルートが有る。馬を使って居る場合だ。」

三つのルートを示す。

「目視できないでしょうか?」

「3人までなら見える尾根に移動できる。」

「了解しました、おい、お前とお前。猟師殿に付いて行け。」

「「はい」」

「ではココを動かないでくれ、あの、木の影が山の影に呑まれるまでには戻る。」

「はい、御気をつけて、猟師殿。」

白い布の巻きを確認して準備を整える。

装備を一部、置いておく。

「付いて来い。」

「「はい」」

軍曹殿は身軽な兵を選定した様子だ。

雪の中を泳ぎ前進する。

周囲を警戒しながら続く兵。

尾根を三つ越える。

国境の山が見えるハズだ。

日の当った斜面の山肌に一列の影が見える。

偽装していない。

が…。大きさがオカシイ。

周囲の対象物と比べて明らかにオカシイ。

かなりの大きさの物体がある。

「何だアレは?」

思わす口にする。

「メガロニクス…。」

「くそっ、あいつら魔道士まで連れて来やがった。」

兵士達はアレが何か知っている様子だ。

「見える限り人が50人程度と…。何なんだあのデカイの?」

「メガロニクスです、猟師殿、魔道士が乗って動かすゴーレムです。」

マジか…。魔道士でゴーレム。

ロボット物か…。

下半身が雪に埋まっているので形は不明だが、多分人型ロボットがラッセルして隋道を開削している。

雪の中を。

正直、人型なのか不明だが中々、パワーが有りそうだ。

「敵はもう既に国境を越えて居ますね。」

地図を確認した兵が話す。

敵なのか?

「うん、山を降りる心算だな、しかし、谷底は雪が深い。」

どれ程の速度が出せるか不明だ。

日本の重機ぐらいの性能なら数日で駐屯地まで来てしまう。

「見えるのは二つか…。編成通りなら4乃至、6のハズだ…。」

兵が観察している。

周囲の他の音源を探る。

巨人の音が五月蝿い。

低い音で、まるで銅鑼を鳴らしているようだ。

「メガロニクス2、橇4歩兵80以下。馬は無い。」

数え終わった兵が簡易地図に書き込みをしている。

周囲の尾根の形と山の方位で大体の場所は解っている。

敵は街道を開削しているのだ。

「よし、軍曹殿の所まで、戻るぞ。」

「「はい」」

静かに戻り、相手から見えない位置まで下がると、駆け下りる。

戻ったら兵達は雪洞を掘って休憩していた。

少々息が荒い兵が軍曹殿に報告する。

「所属不明部隊を発見、数はメガロニクス2、橇4、歩兵80以下。馬は無い。メガロニクスが橇を引いていた。」

「何だと。地図を出せ。」

軍曹殿はかなり驚いた様子だ。

簡単な地図を出して確認する。

僕は頭の中に地図が有るので問題が無い。

国境の向こうの地形は知っている山頂から眺めた事が有るのだ。

軍の地図とは示し合わせ済みだ。

「軍曹殿、この経路なら第7尾根を越えてきたと思う。隣の国の集落が一番近い、夏なら荷馬車でも通れる。問題はコチラの道は整備が悪い。」

雪が無ければ馬なら通れる。

馬車は通れない。

「コレで国境を越えてきたのか…。」

「一応、昔の街道で谷の下まで降りれる、乾季は湿地だが、それまでは沼だ、今は凍結して居るので人は歩いて渡れる。」

「なんてこった、直ぐに降りてきてしまう。」

「いや、実際は雪が有るから…。恐らく俺の背より深い。あの巨人機がどれ程の大きさか解れば…。」

「おい、お前、見たな。型式は解るか?」

報告した兵に問いただす軍曹。

「申し訳ありません、詳しくないので不明であります。」

不確定な情報に顔をしかめる軍曹。

「そうか…魔道士が動かすのは5時間が限界だと聞いている。」

そうか、良かった。

だが、交代で動かしているのかもしれない。

「ソレだと谷に下りるのは後、数日は掛かるな。」

頷く軍曹。

「報告の為に一旦戻る。」

軍曹が決断した。

「「了解。」」



(´・ω・`)異世界ロボット物始めました。

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