第7話.戦場にようこそ。4
軍曹が、サウナから出て冷たい
「くーうめえ!!コレは止められねえ。」
「軍曹。風邪ひきますよ。」
通常下士官は別の兵舎だが、この駐屯地は人が住める兵舎が2つしかない。
一個は士官用で下士官と兵は同じ兵舎に入っている。
軍曹が兵用のサウナを一番に使っている。
「初めはひでえ味だと思ったが悪くねえ。」
最近の兵の流行りはサウナから飛び出して雪に飛び込んで汗を流す事だ。(マッパ)
士官はそんな事は出来ないので全裸でミード酒を煽っている。
士官室には風呂が有るが、下士官は最後に入る決まりだからだ。
「おめえら
偉そうに休憩中で残った兵に叫ぶ軍曹。
兵舎の入り口、土間に数人の兵が雪だるまになって入ってくる。
「哨戒任務完了しました。交代要員と引継ぎ完了。異常なし。」
兵舎に裸の軍曹が居るので雪だるまの兵は驚いた顔だ。
「よし。お前ら服を乾燥室に入れろ。サウナに入れ、手足耳鼻をじっくり揉め。肌着の洗濯を忘れるな?」
伍長が言うような事を軍曹が命令する。
随分と機嫌が良い軍曹に困惑する雪だるま。
「「はい」」
「ははは、半分は歯が抜けていると思ったが、未だ歯が抜けるヤツも顔色の悪いヤツも居ねえ。コリャ春まで幸せだな。」
雪の中、山の斜面に展開した兵が鹿に接近する。
皆、物音を立てない様に歩く。
流石に兵隊達も猟師の顔になってきた。
獲物は未だ気が付いていない。
しかし何かおかしいと思っている様子だ。
耳の動きがせわしない。
うかつなヤツだ。
風を切る音が耳に痛い。
僕は三人の兵を連れて、白い布を身に纏って雪道の中だ。
開始位置に付いたので兵が山の斜面を大声を上げて走り出した。
驚いた鹿が此方に向かって走る。
巻き狩りだ、目で追う鹿が射程圏内に入ったので弩級の引き金を引く。
続いて兵達も大弓を放つ。
走る鹿の心臓を狙うが肺に当たる
その場で足を折る鹿に大弓の矢が降り注ぐ。
大きな角を持った鹿の口から泡の血が雪原に色を付ける。
冬の天気の良い、日差しの強い日の鮮血は赤いと言うより黒色だ。
コントラストの問題だろう。
近づいて見ないと赤いと解からない。
心臓に当たっても直には死なない。
暴れる鹿、心臓には当たらなかったが、肺を傷つけた、血で溺れ死ぬのを待つだけだ。
暴れるが首を下げてひっくり返る。
未だ死んでない。
だがもう、逃げる事はできない。
致命傷は与えた。
「よし。解体しよう。未だ死んでない蹴られるな。虫に気を付けろ。」
「「了解」」
兵隊さん達が素早く足にロープを掛け。雪の上を引っ張る。
やっぱり大人の腕力は凄いな。
三歳の雄鹿が軽々引っ張られる。
「よし。少し下がって解体しよう。」
「「「はい!!」」」
人手が多いので素早く解体が出来る。
鹿の体温は高いから直に腹が腐る。
一時間もすると腹がガスで膨らむ。
ナイフを入れると腹から屁の様な音と臭いがする。
消化器官を傷つけてないのに…。
まあ、良いだろう。
鹿の内臓は暖かいのだ。
コレで又、三日は兵隊さん達の命が延びる。
解体を進める兵隊さんたち。
教えたときはおっかなびっくりだったが。
もう慣れて素早く解体している。
「猟師殿、検分願います。」
一等兵がレバーを出してきた。
良い色だ。
白い斑点もくすみも無い。
赤くて黒くツヤツヤしている。
「うん、問題ない、食べられるだろう。」
「はい!」
切り分けられた肉は雪の上に置かれていく。
まあ、冷却の為だ。
穴を掘る兵が内臓を土に埋める。
ココは水系が違うから問題ない。
解体した鹿は兵の引く橇に乗せられる。
コレで2匹目だ、今日はココラで良いだろう。
剥いだ鹿の皮は雪に曝す。
虫を出す為だ。
雪では死なないが動きが悪くなる。
後で川の下流に放り込む。
大概は落ちるが。
サウナに入れないと完全に死なないのが難点だ。
撤退すると屯所の監視小屋が見えた、兵が手を振っている。
コチラを視認した様子だ。
若い兵が手を振り替えしている。
レバーは病人向け食事の増強食に使われる。
まあ、美味しくないし…。
栄養価は高いけど。
レバーパテを作るべきだが。
手間が掛かる。
皆は芋と肉とハーブのシチューと硬パンで生き延びている。
唯一の青物はキャベツと蕪の葉っぱだ。
ビタミンが足りないだろう。
レバー刺身は軍医に却下された。
実際に危険だ。
解体された鹿は骨まで持って帰っている。
捨てても良いのだが。
大事な肥料になるのとシチューの
ハンマーで割って、茹でて出汁を取って。
ガラは焼いている。
肉をこそげ獲った後だが。
暖炉の木灰は肥溜めの樽に捨てているので、良い肥料になるハズだ。
温度管理が良ければ。
恐らく肥料として使えるのは来年の夏の終わりだろう。
兵達にはザクロの様な木の実一個が二日に一回支給されているが…。
残念だが、雪解けまで持たない。
今年の春が早く来ないと死ぬ兵隊さんが出るだろう。
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