探索者の街・ガート
グリフィル神聖国から少し北上した丘陵地帯。比較的高めの標高に位置しているのが、探索者の街・ガート。
まあ探索者の街と言ってもここ一帯の話であって、別にもそう呼ばれる場所は存在する。あくまでグリフィル神聖国周辺で、探索者の拠点とされているのがここガートという話だ。
「行くぞお前らあぁぁっ!!」
『おおおおおおおおおおおおおッ!!』
なにやら殺気立った探索者の集団とすれ違いながら門を潜ると、俺の目の前には随分と様変わりした街並みが広がっていた。
だと言うのに、微かな哀愁のようなものが胸を突く。
もうすぐ日が暮れている頃だと言うのに、街は活気に包まれて点々と明かりを灯している。
何故か街全体がざわついていて、落ち着かない様子だ。
「ガート……懐かしいな」
俺が初めて召喚された時、グリフィルからの初めての外出で訪れた場所だ。
二回目の今回もグリフィル近くに召喚されたことに作為的なナニカを感じる。
ただの偶然かもしれないけど……。
「とりあえず、情報収集か」
ほんの小さく口にする。
人込みに紛れたニヴルとガルムの二人の気配が遠ざかるのを確認すると、俺も行動を開始する。
俺達が得なければいけない情報は……ヘルヘイムの名を騙る集団についてだ。
目的やら理念やら、行動原理を知らなくちゃ対処のしようがない。
うちの幹部が関わっていないとは言い切れないけど……あいつらだったらもう少しうまくやるはずだし、そもそも暴れてたら確実に被害は甚大だ。
そうじゃないってことは……、
「……いや、断定はできないな」
そこまで考えて、頭を振って余計な考えを排除する。
俺がいない間に変心した、なんて可能性も充分ある。
先入観なんて邪魔なだけだ。
「目的、行動、足取り……まずこの三点か」
口に出して整理し、ある場所に向かう。
探索者の拠点。―――探索者ギルドだ。
■ ■ ■ ■
いつにも増して喧騒を見せる探索者ギルドは、急遽もたらされた
いくつもの討伐隊が組まれ、情報も錯綜する
慌ただしく出入りする探索者を尻目に、本日探索者Lvを3に上げた二人組の男女が酒の席についていた。
同じ村から出てきた幼馴染、アンドとニーム。
仲睦まじい二人きりのささやかな祝杯の途中にもたらされた
「もうアンド……飲み過ぎだよ」
「わ、悪い……少し吐いて来る……」
「付いて行こうか?」
「い、いいって、待っててくれ……」
昔と変わらず意地っ張りなアンドの様子に口を緩めたニームは彼の背を見送ると、卓上に置かれたつまみを口に運んだ。
すると、ニームだけの席に近づいた青年が声をかけてくる。
「お嬢さん、一人?」
「いえ、仲間の男の子と一緒に飲んでいるので」
探索者からのナンパにも慣れていたニームはがんとした態度で隙を見せない。
顔を見ようともしない不愛想なニームの態度に構わず、青年は彼女の隣の席に身を置いた。
「っ! ですから――――」
「少し聞きたいことがあるだけなんだけど……ダメかな?」
追い払おうとして、青年の顔で視線が止まる。
珍しい黒髪に目鼻の整った顔立ちと大人びた雰囲気。優しそうに微笑む顔に思わず噤んだ口を恥じるようにニームは顔を赤らめた。
「ほんの少しだけなんだけど……」
「ぁ……あの……」
田舎の村から出てきたニームは、都会の妄想の中に出てくるような美形の男に「す……少し、だけなら……」とか細い声で呟いた。
「ありがとう、助かるよ。実はこの街に来たばっかりなんだけど……何かあったの? 随分騒がしいから」
「あ、ああ……それですか……」
ニームは
興味深そうに相槌を打つ男に気を良くしながら、聞かれていないことまで。
「その秘境、『戦地の檻』って言うんですけど……なんか最近、そこで相次いで行方不明者が出ていたらしくて。その悪魔が原因だ!って皆さん言ってました」
「Lv3の秘境に、鎧みたいなのを纏った
「気になるなら、行方不明者捜索の依頼板を覗いてみてはいかがですか?」
ニームが指差す先には、捜索系の依頼が張り出された掲示板。
頷いた青年は、「それと」と質問を続ける。
「君さ、『ヘルヘイム』って知ってる?」
「ヘルヘイム……ですか……? ええ、最近帝国の方で有名なあれですよね」
「多分それ。彼らの目的とか、どんなことをしたとか……知ってる事なら何でもいいんだけど……」
「んー……目的……なんか、悪魔族の悲願がどうだ、とか噂になってましたね。それで帝国周辺で誘拐だとか強盗、虐殺を繰り返してるらしくて。ここら辺はまだですけど、いずれ大陸中で指名手配になるとかなんとか……」
「…………そっか。教えてくれてありがとう、ホントに助かったよ」
甘く笑いかけた青年にニームは肩を揺らして俯く。
その時、
「お~い、ニーム!」
「ア、アンド!?」
先ほどより幾分かすっきりした顔でニームに声をかけたアンドは、挙動不審なニームに首を傾げる。
咄嗟に青年に顔を向けたニームは、「え?」と小さく声を漏らした。
いない。
青年はいつの間にか、ギルド内の喧騒に溶けていた。
■ ■ ■ ■
「ふぅ……秘境での行方不明者、Lv3のその秘境に出た
路地裏に入り込み、壁に背を預ける。
正直、悪魔云々に興味はない。だが、ヘルヘイムを騙るやつらの目的に、どうにも悪魔族が関わっていそうな噂話。
「どうだった?」
「おそらく同程度の情報量かと」
「同じく!」
姿を見せないニヴルとガルムの声に、俺は手に持った数枚の紙視線を落とす。
「それは?」
「件の
「多いですね。例の秘境はLv3。今回の
「でもさでもさ! その鎧の
「ええ――――人為的な作為が及んでいます」
ニヴルの言葉に俺もガルムも頷く。
そもそも
そうでなくても、Lv3の秘境にいるはずがない。
それには悪魔が魔力を取り込みながら生きる性質が関係しており、それが足りなくなると自然に衰弱し消滅する。
秘境はLvに比例して内包する魔力量が違うので、魔力密度の低い秘境では当然活動限界がある。
のだが、
「あの鎧悪魔、ガルム達を襲った時めっちゃ元気だった!」
「そうですね、人間七人分の魔力では賄えません」
「……一番最初の行方不明者が一カ月前なことを鑑みると、やっぱり生き続けるのは無理がある」
理論上不可能だ。
ならば、考えられる理由は一つだ。
「何者かが、その悪魔に魔力を与えていた……そうお考えなのですね?」
「ああ。あの
尻込みした推論だが、一応筋は通っている。
壁から背を離した俺に追随する二人を連れて、ガートの門を出た。
街に入った時にすれ違った探索者たちが向かったであろう秘境を思い浮かべ、そこに足を向ける。
「『戦地の檻』……戻ってみるか」
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