白亜の国の生誕祭
晴天、眩しいほどの陽光。
降り注ぐ光は、その白亜の街を一層輝かせている。
エルフ改革派と人間たちの国、聖教国。その都市である聖都『ブラン』。
かなり鎖国的な外面を持つ傍ら、聖教国一の有名人『天女』の未来予知にも似た占星術の恩恵を受けようと数々の人種が訪れる都市でもある。
「……来てしまった…………」
「王よ、一人でブツブツとらしくないぞ! 堂々とするのだ!」
街に入るときはおなじみの小竜状態で肩に乗ったニーズヘッグが外套の中で俺の肩を翼で打つ。
力強く肩に食い込むニドの爪に、「ごめんごめん」と慌ててなだめた。
俺たちがこの国に来た目的は二つ。
目的の一つはジェノムの回収だ。当然彼の意思を尊重する結果になるが、とにかく一度会って話をしなければならないだろう。
そして二つ目……こちらは気が進まないが、天女の占星術の恩恵にあやかること。
彼女の占星術があれば、偽ヘルヘイムの正体に大きく近づくことは間違いない。
この二つを総合すると、俺たちが目指すべきところは一つ。
聖教国大聖堂。
君主である教皇が住まう宮殿とは別に設けられた天女の城。それが大聖堂だ。
容易に近づける場所ではないことは確かだが……さて、どうするか。
「若よ、どうする?」
「うーん……名前を出せば可能性はあるけど、できれば避けたいな」
「同感です。不用意にヘルヘイム関連の名前を出すことは時世を考えればいらぬ混乱を招くと思われますし……やはり情報と、天女様に対する対価を用意するのがよろしいかと」
「そうな。アイツが素直に俺の願いを聞いてくれるとも限らないし」
「いっそのこと武力に訴えればいいのではないか!?」
「駄竜が。そんなことをすれば私たちの名は一気に広がって偽ヘルヘイム捜索どころではなくなってしまいます。やはりその状態になると脳まで小さくなるのですね」
ニドの爪が俺の肩により強く食い込んだ。
やめて、俺の肩にいる時のニドを煽らないで。
「ま、まあまあ。ニドの考えもわかる。正直面倒ではあるけどさ。彼女を敵に回すのはかなりマズイ。今回はニヴルの考えを採用しよう」
「ふふっ、光栄です」
「ま、まあいいのだ。この乳女とは違って我が役に立てるところは他に存在するしなっ! に、にははっ!」
強がりながら翼をしなしなとさせるニドをよしよししながら歩を進める。
俺たちの前には噴水広場と数々の屋台が出されており、人通りも多い。なるべく目立たないようにしてはいるのだが、想像以上の人の量で行動がし辛いのだ。
「なんか……人多くね?」
「屍王、ご存じないので?」
「なにが?」
「ちょうど今の月は、聖教国建国、および教皇生誕の記念月。つまり今この国は生誕祭の真っ最中なのです」
「あっ、そう」
なるほど、かなり盛況がピークのころに来てしまったようだ。
「今は前振りというか……前座的なものだろうな。本番は次の週の二日間だろうの」
「これで前座って……すごいな」
「次の週にはこれ以上の催し物と人でこの都市ブランはごった返すぞ」
「うへ~」
来週か、それまでに天女に会うのは現実的だろうか。
もしくは、来週の盛況にかこつけて、どさくさに紛れるか……?
「ニヴル」
「今週は情報収集に力を入れるのがよいかと。糸口を見つけるためにも時間は必要でしょう。それに人が多い方が好都合の状況も、得てして起こりうるものです」
「おっけ」
一足先に噴水広場で眼を輝かせて屋台を物色しているガルムとフーちゃんに頬が緩むのを感じながら、俺は力を抜く。
「じゃあ、本番は来週ってことで。俺もできる事探しとくよ」
「では、行ってまいります」
「ワシも思うところがあるのでな。少々外そう」
「じゃあ三日後、次の週の初めに噴水広場で落ち合おう、解散」
言った瞬間には、二人の姿はもうなかった。
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お知らせです。
本作、屍王の帰還、書籍化します。
不定期更新の本作を応援してくれた皆様のおかげです。ありがとうございます。
この先もゆるりとお付き合いいただければ幸いです。
【書籍化】屍王の帰還~元勇者の俺、自分が組織した厨二秘密結社を止めるために再び異世界に召喚されてしまう~ Sty @sty72
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