悪魔がカタる
轟々と鳴り響く歓声を背中に受けながら舞台を降りれば、観客席からは恨みがましい視線やら欲に塗れた視線を向けられる。
俺に賭けた奴は少なかっただろうし、俺に賭けた奴は俺に金の匂いを感じ取ったことだろう。
しかし残念。不夜国での目的をすべて達成した俺に闘鬼を続ける理由はない。
さっさとカグヤとやらに会って聞きたいことを聞いてオークションだ。
傾国鬼カグヤ。
180年前には聞いたことのない名前だ。ニヴルに聞いて委細は知っているがそれ以上は情報が少ない。
しかしまあ、権力者ならある程度融通が利くだろう。カグヤが知らなければ紅華に取り次いでもらうこともできる。
カグヤとの面会に思いを馳せていれば、見計らったかのように姿を現したのは黒いスーツを身に纏った壮年の男性。
恭しい態度で頭を下げた男は、こう切り出した。
「ヒザキ様、先ほどの試合、お疲れ様でございました。カグヤがお呼びです」
有無を言わせない雰囲気で決定事項のようにそう言った。
断る気は微塵もないが、ここで断る人間がいないかのように無駄のない動きで返事も聞かずに俺を先導する。
かなり人気の領主様らしいし、実際断るやつは今までいなかったんだろうな。
「――――屍王」
「声だけ聞いてて。付いてこなくていい」
「承知いたしました」
気配もなく後ろに立ったニヴルにそう言って男に付いて行く。
あ、そうだ。
「ガルム喜んでた?」
「飛び跳ねて」
「よかった……フーちゃんは?」
「……屍王を詰った者とは思えない表情でしたよ。にやにや、にまにま。勝った時に一番喜んでいたのはあのメスガキです」
「……そっか。帰ったらちゃんと話さないとな」
「いってらっしゃいませ」
背後の気配は送り出す言葉を最後に霧消する。
注目を浴びながら男に付いて行けば、闘鬼場を出て正面にある天守の門を潜って城内へ入った。
かなり高い建物のはずなのだが、場内の階段を上っていると、窓から見える景色はどんどんと高くなっていく。
一階分の階段を上がれば、十階ほどに到達したかのように地上が遠くなっていた。
恐らく低位の時空魔法の応用か……。時空魔法はかなり希少な魔法なので、やはりカグヤとやらの人脈は広そうだと期待が持てる。
窓からの景色を逐一確認していると、ふと男が立ち止まり俺に道を開けた。
目の前には両開きの門と見違えるほど大きな扉。
対面するだけで重量を感じる扉を見上げていると、今まで先導していた男が消えていた。
「到着……ってことか」
ご自由にどうぞとばかりに消えた案内人。目の前には明らかに荘厳な扉。
自然と伸びた手が扉に触れると、ゴゴゴッと重低音を響かせながら扉が動き始める。
開き切っていない扉の向こうに見えるのは、着物を着た絶世の美女。
床に着くほどに伸ばした色素の薄い白髪と、薄赤い着物。
悪戯に歪められた口元の切れ長の眼が、人気の領主であるという事実を納得させるほどに魅力的だ。
「―――ヒザキ、よくぞ参った」
透き通る声音が手招く様に俺の身体を動かす。
カグヤへ歩き始めると、彼女は肩を揺らして笑う。
「男に妾の
「――――お前、悪魔族だな」
「―――はうあっ!」
がたっ、と音を立てて立ち上がったカグヤはわなわなと身体を震わせる。
「お、おぬしっ、見惚れてたのではないのか!?」
「悪い。絶世の美女は部下にいるんだ、けっこうたくさん」
「な、なんと……悪戯失敗とは……」
俺を驚かそうとしていたらしいカグヤは、深いため息を吐いて腰を下ろした。
しかしその表情には先ほどよりも強い好奇心がありありと見て取れる。
「まあ、座れ。それとも、悪魔と交わす言葉はないか?」
「……お前が人類に害を成した情報は持ってない。俺だって虐殺したいわけじゃないし、証明してくれたら信用できる」
「信用できなかったらどうする?」
「当然、殺す」
「物騒だな」
大袈裟なアクションで肩を落とすカグヤは、頬杖をついて天井を見上げる。何かを思案しているようなそぶりだ。
数秒間そうしていると、「おおっ、そうだ!」と名案を思い付いたとばかりに膝を打つ。
「では屍王。悪魔族についての情報を一つ晒そう。まあ、預けると言ってもいいかもな」
「し、しおっ、ちょ、なんで知ってんの!?」
「なぜ顔を赤くする? いい名だ」
「ぐっ、こんの厨二病がぁぁ!」
クソでかブーメランを投げながらカグヤを睨むと、彼女はけらけらと笑い声をあげる。
しかし―――その表情が一転。
「悪戯失敗の挽回といこう。―――今から言う情報でおぬしを驚かせることができたら、この場では信用してもらう。もちろん悪魔族に関係する話だ」
「名前を知ってるだけで充分驚いたっての、これ以上―――――」
「180年前、おぬしが討伐せしめたのは―――――悪魔王ではない。名を騙った1番目の
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