第9話 国外へつながる門

 俺はアンリたちといっしょに国の外側につながる壁の近くまで来ていた。


 国を囲ってるのは超巨大な壁。

 そんな壁にはいくつかの門が設置されておりそこから人々は国の中と外を行き来することができる。


 もう夜の時間だと言うのに門の周囲は多くの人でごった返している。


 なぜかと言うとこの世界のモンスターはそのだいたいが夜になると寝静まる。


 だからものを運んだり移動したりするのに都合のいい時間帯となるのだ。


 そのため商人の荷物を乗せた馬車とかそういうのが門を通行するために長い行列を作る。


 なぜこんなに門を通行するために行列ができてるのかと言うと、荷物ひとつひとつのチェックをちゃんとするからだ。違法なものがないか、とか犯罪者がいないか、とか。


 そして今から俺達もその行列を待つひとりになろうとしていた。

 のだが、問題が発生していた。


「なぁ、アンリ。あれ大丈夫かな?」


 隣にいたアンリに声をかける。


 俺たちの視線の先には門をくぐる人間を監視したりする監視役の人間がいて、さらにその少し離れた場所には騎士団がいた。


 もちろん団長も一緒だ。


(向こうも本気を出してきたな)


 そう思いながらアンリの顔を見ていると口を開いた。


「団長がいるようですが、その髪だとごまかせると思います」


 俺は前髪全部かきあげてテッペンでゴムで止めてた。

 そこでミーナが俺に声をかけてくる。


「不安なようでしたら顔にお絵描きしましようか?魔法使いみたいに全身に紋章みたいなのを書いたら少しはごまかせます」


 魔法使いは自分の体に魔法陣を描くことがある。

 そうすることで魔法が強くなったりするそうだ。


 だからこの世界で魔法陣が体に描かれていることは珍しくない。


「うし。そうするか」


 そう答えると。

 キュポン。


 ペンを取りだして俺の顔に落書きしていくミーナ。


 顔に落書きされるのはあまり気持ちのいいことではないが、やらないよりはマシだろう。


 やれることはやっていこう。


「まぁ、こんなところでしょう」


 ペンをしまうミーナ。


 アンリに顔を向けると。


「ばっちりですね。まるで歴戦の魔法使いですよ」


 と親指を立ててくれてた。


 だが、まだ不安があった俺は一応買っていたローブを取り出して、フードもかぶることにした。


 見た目は不審者だが俺たちの前のほうにも同じような姿をしたやつらがいたし、問題ないはずだ。


「よし、これでばっちりだろう」


 俺たちは自分たちの順番が来るのを待った。


 待っているとやがて俺たちのチェックの番になった。


 俺たちの護衛対象であるグリモア商会の商人が監視役と話をしていた。

 そして、OK判定。通行許可をもらっていた。


 それから商人が俺たちのことを説明してくれた。


 名前とかは別に確認されない。

 だから名前でバレるとかはない。


 あとは、だから団長が俺の事を気付かずに見逃してくれるだけでいいのだ。


 先に商人の馬と荷車が門をくぐる。


 そして俺達も歩き始めて門をくぐろうとする。


(ばれるなよ…)


 門の外まで。


 残り1メートル。

 残り50センチ。


(そろそろだ)


 そうやって歩いていたときだった。


「止まれ」


 心臓がはねたようだった。

 今の声は


(団長?なぜ)


 少し離れたところに立ってたはずの団長が近寄ってきてた。


「そこの魔法使いの男だ、フードをはずせ」

(ばれてるのか?これ?)


 あー。どうしよう……。


(いざとなれば強引につっきるか?)


 そう思って頭を回転させていた時だった。


「ここでは抜かない方がいいでしょう人目が多すぎます。言うことを聞いてください。抵抗しないでください。考えがあります」


 ボソッ。


 ミーナが俺の服を引っ張ってそう言ってきた。


(なにか考えがあるのか。ていうか何を考えてるか読まれたな)


 とりあえずここはミーナを信じることにしよう、俺にできることは残念ながらなにもない。


 団長が近くに寄ってきてからフードをはずした。

 俺の素顔を見た瞬間。


「いや、よい。すまなかったな。かぶりなおしてもかまわない。失礼をしたな」


 騎士団長はすぐにそう言って俺にフードをかぶりなおすように指示を出してきた。


 どういうことだ?って思ったけど


「問題ない。通れ」


 と言われて俺たちも通行の許可をもらうことができた。


 門の外に出ると国外。

 どこまでも続くような草原が目の前に広がっていた。


 ここからはモンスターも出てくるし、なにがあるか分からないエリア、となる。


 ので基本はなにかしらの乗り物に乗って移動することとになるのだが、今回はそれが荷車だ。


 商人の荷車に乗り込んでからミーナに聞いた。


「さっきはなにをしたんだ?バレるかと思った。助かったよ」


「【幻覚魔法ビジョン】ですよ」


 そう言って近くにドラゴンの顔を作り出したミーナ。


「イカロス様の顔を焼けただれた顔に見えるようにしました。普通の感性をしてたらこれを隠してたんだなって思いますからね。現にすぐにフードをかぶりなおしていいと言いましたよね?」


 なるほど。


(ほんとに優秀だなミーナは)


 そんな会話をしていたら商人の馬車は王都から離れていく。


 そのときになんとなく王国の方を振り返った。


(これで見納めだな)


 そう思って見ていると門の近くからひとりの騎士がこっちを見ていることに気付いた。


(アリシア……)


 アリシアが俺を見ていた。

 ような気がする、とかじゃなくてはっきりと俺を見ていた。


 ミーナやアンリを見ている、とかじゃなくてその目はハッキリと俺だけを見てた。


(あいつ、どういうつもりだ?気付いてるのか?)


 そう思ったけど。

 クルッと向きを変えて別の方向を見た。


 特に団長になにか言うつもりはないらしい。


 だが、分かることはある。


(おそらく俺に気付いてる)


 じゃないと、あんなに見てこないだろう。


 俺に声をかけてくるアンリ。


「アリシアさん、見てましたねイカロスさんのことを」


 そう言ってから彼女はポケットから皮袋を取りだしてきて俺に渡してきた。


「黙ってようと思いましたが話そうと思います。あの人もイカロスさんを探しています。その袋は探してるという話をされた時に渡されたものです」

「理由は?聞いた?」

「いえ」


 と首を横に振るアンリ。


「そうか」


 分からないならしかたないよな。


 そう思いながら皮袋の中を見てみると中には大量のお金が入ってた。


 こんな大金を渡されてなおアンリは俺を売らなかった、ということだろう。


 なんで俺にそこまでしてくれるのか分からないけど。

 正直ちょっとブキミなくらいだが。


(ギルドの職員は)


 それから俺たちを乗せた馬車はドンドン進んでいく。


(アリシア、あいつは俺たちの味方なのか、なんなのか)


 それは今の段階では分からない。


 けど近いうちにその答えは出るんじゃないかっていう思いが俺の中にあった。


 ここで何事もなく荷車が目的地まで着けばアリシアは俺の味方。


 そしてなにか起こればアリシアは俺の敵。


 それだけのことだろう。


 さぁ、アリシアはどう出てくるだろうか。


 こうして俺たちの長い夜は本当の意味で幕を開けることになった。

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