第15話 義務教育さんありがとー!

 女に口を開く。


「とりあえず座れよ。ミーナの横にでも座るといい」


 早めに来たおかげで俺は4人組の広い席に通されていた。

 そのためミーナの横には座席がもうひとつあるのだ。


 そこに座った女にまず名前を聞く。


「名前とランクは?」

「シズクです。ランクはCです」


 年齢はまぁ聞かなくてもなんとなくわかるし特には興味はないが、見た目は18くらいだろう。


「報酬の分け方は俺が選んでいいな?」

「はい。無給でもかまいません」

「まじで?」

「はい」

「なら無給で」


 答えながら思う。


(無給ってどういうことだ?)


 俺はシズクを見て口を開く。


「単刀直入に言って寄生目的なら途中でメンバーをはずす」


 なにを寄生するかって言うとこの場合はランクポイントだ。

 自分はなにもせずに次の昇格クエストに必要なポイントをためる。


「いえ、寄生ではありません」


 そう言って目的を話してくるシズク。


「友達の友達がダンジョンに向かったっきり帰ってこないそうなんです。その友達は冒険者じゃなくて、それで様子を見てきてほしいと頼まれました」

「ふーん」


 目的は分かった。

 そういうことか。


 ミーナにチラッと目をやるも反応は無い。

 ミーナは違和感に敏感だ。


 なにか感じるところがあればいつものように忠告してくるだろうが


(なにも反応を見せないってことはシズクは問題ないってことか)


 ってことを考えてたときだった。


 ジーッと視線を感じてそちらを見ると、さっきステーキ食べながら文句言ってた子供がこっちを見てた。


「こらっ。見るな、失礼だぞ」


 それを父親がやめるように口にしてた。

 

 しかし


「ぱぱー。あのおいしそうなすてーきたべたい」


 とミーナの食べてるステーキを指さしてた。


 どうやら他人が食べてるものは安いものでもうまく見えるらしい。


「それ、食べたら注文しような」

「うん」


 そう返事をしていきおいよくバクバク食べ始める子供。


(のどにつまりそうだなー)


 そう思いながらもシズクに目を戻して会話を再開しようとしたときだった。


「うっ……」


 うめくようなそんな声が聞こえた。


 さっきの子供からだ。


 目をやると


「お、おい!大丈夫か?!」

「う、うげっ……」


 子供はノドに手を当てて苦しがってた。


 ドタッ。

 座ってた椅子から床に転げ落ちた。


(あのようすならノドにつまったか?)


「だ、誰か!お医者様はいませんか?!」


 父親がそう叫んでた。

 それが酒場中に聞こえ騒がしくなる。


 でも、医者なんていないようだ。


「ま、魔法で取り出せませんか?!魔法を使える方はいませんか?!」


 父親の言葉には誰も答えを返さない。


「バカ言え!あんな小さな子供の喉に魔法なんて使ってみろ?!ねらいがズレたら死ぬぞ!」

「魔法は無理だ。誰かなんとかできないのか?」


 ここにいる連中はどうにもできないらしい、立ちあがって父親に近付いた。


「魔法使いでも医者でもないけどちょっとした知識があるんだ。まかせてもらえないか?」

「お、お願いします!」


 そう言って俺に頼んできた父親。

 左手で子供の肩を掴んで固定して、右手で力をいれて何度か背中を叩く。


 この技術の名前は忘れたけど、こうしたらノドに詰まったものが出てくるはずだ。

 日本にいた時に中学生くらいの時に義務教育で習った覚えがある。


(けっきょく日本で使うことはなかったけど異世界で役に立つなんてな。義務教育さんありがとー!)


 やがて


「けほっ」


 ポロッと子供の口からステーキの破片が飛び出してきた。


「あ、あれ?」


 子供がキョロキョロと周りを見る。


「さっきまでくるしかったのに」


 そう言っている子供を父親に返すと、抱きしめてから俺を見てきた。


「あ、ありがとうございます!ほんとうにありがとうございます!」


 何度も何度も頭を下げてくるのに返事をする。


「気にするなよ」


 そう言ってあんまり騒がれるのもイヤなので席に戻る。


 席に座ると周囲も察したのか


「助かったようだな」

「よかったー」


 と軽く言葉を発しながら食事に戻って行った。


 それから俺の席のそばに近付いてきた父親が口を開いた。


「ほ、ほんとにありがとうございました。なんとお礼を言ったらいいか。あなたは息子の命の恩人です」


 改めて、ていねいに腰を折りながらお礼を言ってくる。


「あ、ありがとーおじちゃん」


 子供もそう言ってきたのに軽くうなずいてから俺は父親に目を向けた。


「背中叩いたら吐き出すから今度からは叩いてやれよ?」

「は、はい」


 そう言ってから俺にこう言ってきた。


「今日の分はごちそうさせてくれませんか?助けていただいたお礼です。お礼には少なすぎるかもしれませんが。気持ちを受け取ってください」


 そういうことなら素直に気持ちを受け取っておく。


(たいしたことはしてないんだが、結果だけ見たら子供の命救ったもんな)


 見返りを受け取ってもいいだろう。


 ミーナに目をやる。


「遠慮してたんなら。なんか頼んだら?」

「い、いいのですか?」


 父親はこう言った。


「お好きに食べてください。なにか持ち帰りたいものでもありましたらそれもどうぞ。何万ゼルでもかまいません!」


 そう言って見せてきた財布の中には数百万もの金が入ってるように見えた。


(すっげぇ金持ち。いいなぁ)



「お会計10万ゼルになります」


(やっぱ日本の外食って安いんだな)


 ミーナが高いものを頼んで食べまくった。

 俺の金ってことで遠慮してたらしい。


 それと俺もダンジョン内で腹減った時になにか食べれるように弁当を買った。


 その結果膨れ上がった会計。


 俺の財布じゃ支払えなかっただろうが、今日は奢ってくれる人物がいたからな。


「あなたのようなすばらしいお方のためにお金を使える私は幸せ者ですよ」


 そう言ってポンと支払いを肩代わりしてくれた父親だった。


「私はこういうものです。なにかありましたら助けになりますよ」


 それから名刺みたいなのをくれた。



名前:フロイス・フォン・レーベンブルク

爵位:公爵



(貴族だな、これ)


 俺も生まれは剣の名門で貴族ではあったが、没落しててぎりぎり貴族ってくらいだった。

 でもこいつは違う。れっきとした貴族だった。


 しかも爵位も最上級の公爵ときた。


(まさか、俺がそんな人と知り合いになれるとはなぁ)


 そんな名刺を見ながら、焼き鳥を食べてた。


「うめぇなぁこれ」

「一本5000ゼル、でしたっけ?」


 そう聞いてくるミーナに頷く。


「そうそう、超高級焼き鳥。ワイバーンの肉使ってるんだってよ」


 今までそんな高級メシ食べたこと無かったら感動してた。

 俺の人生は騎士団をやめてからすごい上振れてる。


 そうやって焼き鳥を食べてたら目の前に馬車が来た。

 これからの予定を話したらフロイスが手配してくれたものだった。


 乗り込んで目指すのはもちろんアステラルの塔だ。


 ここまできて俺はアステラルの塔というものがどういうものなのかを知らない。


 で、向かいながらシズクに聞いてみることにした。


「これから向かうアステラルの塔ってどんなダンジョンなんだ?」

「普通のダンジョンですよ」


 そんな会話をしていたら俺たちを載せた馬車はダンジョンの前についた。


 俺がこの入口に戻ってくるまで馬車も待機させてくれるそうだ。


(貴族ってのはすごいよねぇ)


 とか思いながら俺はダンジョンの入口に目を向けた。

 さて、探索を始めよう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る