第16話 俺だけが発見できた隠し通路
アステラルの塔の中に入った。
騎士団時代はこういうとこに来ることあんまりなかったから新鮮だ。
騎士団がやることと言えば王国周辺のモンスターを退治したり、王国内の問題を解決したりとかっていうそんな王国のためになるような仕事ばかりだったからな。
ダンジョンの中はゲームみたいな細長い通路が入り組んでいるような感じだった。
まるで迷宮って言葉がしっくりくるな。
壁にはたいまつがかかってる。
まさにザ・ダンジョンって感じの見た目だ。
そんなダンジョンの中を進んでいく。
目指すは依頼人がいる24階層。
「【鑑定】」
隣にいたミーナがさっそくスキルを使ってた。
「今から使って疲れない?」
「罠があるかもしれませんからね。念には念をいれましょう。罠を踏み抜いてからでは遅いです」
それはあのドクダンゴという罠を踏み抜いたことからの学びだろう。
「なるほど。ミーナが言うと説得力があるよな」
そう答えると【共有】までしてくれた。
俺の目にもダンジョンの中のものが見えるようになる。
現状罠のようなものはないらしい。
「罠や悪意のようなものを感じればその部分は白く表示されます」
罠とそれ以外の見分け方を教えてくれる。
「なるほどね」
「ダンジョン外でも罠とかはあったと思いますが今まではどうしたんですか?」
そう聞いてくるミーナに答える。
「全部踏み抜いてたよ」
落石トラップ、ネバネバトラップ、ステータス低下トラップ、落とし穴。
全部踏み抜いてから対処してた。
「はぁっ?!」
驚いたのはシズクだった。
「罠を全部踏み抜いてた?!よく生き残れましたね?!」
「恥ずかしい話だけどな。全部踏み抜いてた」
「落石トラップとかどうしてたんですか?!」
そう聞かれた時、俺は目の前に落石トラップの床があることに気付いた。
(便利だよなぁ、この鑑定スキル)
名前:落石トラップ
種類:トラップ
効果:床を踏めば頭上の穴が開いて巨大な石が落ちてくる。
「ためしにそこのトラップ踏み抜いてみよっか?」
「ためしに踏み抜くんですか?!」
「説明するより見せた方が早いかなって思ってさ」
俺が今までどうやってトラップを回避してたか。
「イカロス式トラップ対処術知りたいんでしょ?」
ミーナとシズクが顔を合わせて。
「ま、まぁ」
「今から踏むわ」
ちなみにこの落石トラップ。
別に踏んで体に当たっても即死することは無い。
だからまぁ別に対処に失敗しても問題ない。
それに今まではどこにトラップの床があるか分からなかったが、今はミーナのおかげでわかるようになってる。
そのため、反応速度にはなんの問題もない。
歩いて。
カチッ。
トラップを作動させるスイッチを踏んだ。
すると。
パカッ。
上から天井が開く音。
巨大な落石が出てくる。
【武装強化】を俺のクツに使う。
名前:古びたクツ(武装強化)
ランク:---
説明:そのゴミ捨て場に落ちてそうなクツはオーディンブーツにも引けを取らないほどの強靭な性能を得た。
落石が落ち切る前にジャンプして体を空中で強引に回転させながら、落石をけりつける。
すると俺にけられた落石はそのまま通路をまっすぐにすっとんでいった。
その過程で俺の蹴り飛ばした落石が道に立ってたザコモンスターに当たって倒してた。
「とまぁ、こんな感じだけど?」
ふたりに振り向きながら説明してみた。
「別に特別なことはしてないよ」
そう言いながら更にダンジョンの奥に進もうとしたら、立ち止まっていたふたりに声をかける。
「なにしてんの?行こうぜ?」
そう言ったらふたりは俺と落石が落ちてきた穴を交互に見てた。
それからしばらくすると歩くようになったので、先に立って歩いているとヒソヒソ声が聞こえてきた。
「なんなんですか?あの人」
シズクがミーナにそう話しかけていた。
「さ、さぁ?私にもいまだによく分かりません」
(あちゃぁ。【鑑定】スキルすら満足に使えない無能なことがさっそくバレちゃったか)
ま、いいけど。
無能は無能だし
30にもなったらさ。
分かるんだよね、自分がとんでもない無能なことくらい。
だからもういちいち無能って思われることを訂正しようとも思わない。
初めは訂正しようとしてたけど、やっぱり見栄とかプライドってもんがあるからさ。
まぁでもそんなもんもう捨ててきた。
今の俺はもうなんの情熱も火もない、ただの残りの人生を消化するだけのおっさん。
それだけだ。
そうして俺はダンジョンを進んでいった。
2階層、3階層。
モンスターはなぜかすごい弱くてサクサク進んでいける。
余裕があったのでその道中でいろんなトラップを踏みまくった。
そんななかリクエストがあった。
「あ、あの」
「ん?」
ミーナに声をかけられたのだった。
そして、俺たちの進行宝庫の先にある床を指さす。
「あそこの床は落とし穴になってて下には【竹槍の罠】がありますけど、あぁいうのはどうしてたんでしょうか?」
「特別なことはしないよ」
そう答えながら落とし穴に突っ込んで行った。
ベキャリ。
俺のクツの裏にあった竹槍がひしゃげた。
俺が落ちたら、なぜかひしゃげるんだよなこれ。
そのときに気付いた。
「ん?」
下を見てみると俺と同じく落とし穴を踏み抜いたのだろう。
そしてここで息も絶えたと思われる人物の白骨が見つかった。
(けっこう長い間放置されてたっぽいな)
そして、その近くには冒険者カードが落ちていた。
モンスターはともかくトラップに殺されるのは力不足とされている世界だ。
俺はその冒険者カードを拾った。
そして、その横に落ちてた日記も拾った。
この冒険者の日記だろう。
「よっと」
穴からあがってふたつのアイテムを見る。
これらもずいぶん放置されてたらしい。
かなりいたんできてた。
放置されてた理由なんて簡単だ。
現代じゃ誰も罠を踏み抜かないからどうしても発見されない死体というものは出てきてしまう。
「どれどれ」
冒険者カードの方をポケットにねじ込んでから日記の方に目をやる。
ほとんどがその日の感想日記だ。
パラパラめくってると気になる記述があった。
"お宝部屋を見つけた。だが仲間と山分けはしたくない。そのためみんなと別行動をするときにひとりで取りに行く"
"さらにこのお宝部屋にはダンジョンのショートカットができる隠し通路があるようだ。そっちは利用しないが今後使うこともあるかもしれない"
「ははーん。なるほどな」
要するにお宝を独り占めしようとして取りに来たらそのまま罠踏み抜いて死んだって訳か。
完全に自業自得のパターンだわ、これ。
(仲間を連れてきてたらそのまま死ぬことはなかったろうな)
パタン。
日記を閉じてふたりに目をやる。
「隠し通路あるらしいし、ちょっと見に行かないか?これ」
「でも、部屋なんてどこにあるんですか?」
俺は落とし穴のあった場所のすぐ横の壁を親指で示した。
「ここだってよ。呪文唱えたら隠し扉が出てくるってよ」
で、男は隠し扉を前に興奮のあまり罠も見えずに死んだってとこだろうな。
ご愁傷さま。
ま、冒険者やってりゃそういうこともあるよ。
ドンマイドンマイ、切り替えて
「その呪文は?」
そう聞いてきたミーナに答える。
「ドアオプーン」
そう言うと、ズガガガガーっと壁が別れて
「おぉ、まじかよ」
扉が開いて目の前にはのぼり階段があった。
罠を踏み抜いた俺だけが発見できた隠し通路だ。
通路が出てから冒険者カードを見せてシズクに確認してみたけど帰ってこないっていう友達のものではなかったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます