第17話 宝箱の中身

 のぼり階段をあがるとちょっとした小部屋が広がってた。


 その部屋の中央には宝箱が置かれてた。


「おぉ、これが!宝箱か!」


 ワクワクしながら走ってった。


 この世界に来てはや30年。


 俺が初めてこの視界に宝箱を収めた瞬間だった。


「金銀財宝ザクザク!億万長者だ!」


 そう言って宝箱をガチャガチャしてたらミーナが近寄ってきた。


「落ち着いてくださいよ。子供ですか?あなたは」

「ちっちっち。子供心を忘れてないと言え」


 新作のゲームが出たら喜んで、アプデがきたら喜んで、試合に勝ったら喜べ。


 そんな子供心を忘れてないのだ。。


「斜に構えてる私かっけーってか?お前は厨二病か?」

「厨二病?」


 そう言ってるミーナに答える。


「あ、悪い悪い。気にすんなって」


 厨二病なんて通じないか。


「は、はぁ」


 そう言ってるミーナを見てから俺は宝箱に手をかけた。


「開けるぞ?サンタにプレゼントを貰うクリスマスイブの子供の気持ちになれ。いいな?なったか?」

「よく分かりませんがなりました」


 そう言われたので俺は宝箱のフタを開けた。


 重くもなくすんなりと空いたフタ。


 その中には



名前:傷ついた剣



 傷だらけの剣が入ってた。

 傷だらけと言えば聞こえは悪いが、これさ。


「こんだけ傷ついてるってことは剣の達人が使ってたんだろ?この剣」


 そう言うと顔を見合わせるミーナとシズク。


「めっちゃいい武器だろこれ」


 やべぇ、SSR武器引いちゃったよ。


 でもふたりは微妙な顔をした。


「もしかして俺の武器がうらやましい?仕方ないなぁ」


 シズクに渡そうとしたが


「い、いらないです」


 と断られてしまった。


「そっかー」


 まぁいいや。


 部屋を見回すと俺が登ってきた逆側の壁の方に階段があった。


 さらにそっちの方と向かうことにした。


 その道中シズクが聞いてきた。


「剣をふたつ持ってて使いこなせるんですか?」

「知らん」


 騎士団でも俺は二刀流なんてやらなかったけど、なんとかなると思う。


 俺は騎士団をやめてからそういうポジティブシンキングをするようになってた。


 二刀流は無理でも最悪投げればいいしな。

 俺の武装強化で投擲武器にもなるんだから。


 そんなことを思いながら俺はシズクに聞いてみた。


「そういえばさ。友達の友達の名前ってなんなの?」

「ベアトリス・フォン・レーベンブルクです」


 そう言われて思う。


(貴族かー)


 ミドルネーム持ちなんて貴族くらいしかいないからなー。


 そういえば貴族というとさ。

 あいつ名前なんだっけ?


 酒場で飯おごってくれた人も貴族だったよな。

 名前忘れちゃったけど。


 歳をとるとだんだん人の名前を覚えられなくなる。

 アニメのキャラもぜんぶいっしょに見えてくるし。


 そうして歩いてるとやがて20階層についた。


「おー、すげー。ほんとにショートカットになってるじゃん」


 10数階一気にショートカット出来てしまった。

 たまにはトラップにもハマってみるもんだ。


 そう思いながら歩いてると。


「なにか来ます」


 ミーナがそう言った。


 俺たちの視線の先には90度に折れ曲がった曲がり道があるんだが。


(たしかに、なんか音聞こえるな)


 足音が反響しながらこっちに近付いてきてる。


 一応武器を構えながらその曲がり角を見てるとそこから出てきたのは


「はっ……はっ……」


 男だった。

 冒険者の男。


 そいつは今にもこけそうになりながりらもこっちに向かって走ってきていて。

 その途中で俺たちに気付いた。


「あ、あんたら依頼を受けてきた冒険者か?」


 そう言いながら聞いてくる男に答える。


「そうだけど」


 こいつが依頼主だろうか?

 そう思いながら俺はクエスト用紙を取り出してそこに書かれてあった文字を読んで口にする。


「依頼人の名前は?」


 こういう物資の受け渡しだが、受け渡す相手が本当にあっているのかどうかを確認する段取りがある。


 それは依頼人となっている相手の名前の確認だ。


 ちなみにこのクエスト用紙にはこう書いてる。



依頼人:ベアトリス



「ベアトリスだ」


 と言ってきた男。


(なるほど。問題ないな)


 ちょうどよかった。


 初めは24階層まで行こうかと思ったが、これ以上進む必要はないかもしれない。


「ミーナ。受け渡しをしてやってくれ」


 背中に背負ってたリュックを男に渡そうとするミーナだったけど。


 男がこう言ってきた。


「いや、先に進んでくれ。24階層で仲間が待ってる」

「お前は?」

「俺はこのダンジョンを降りてやることがある」


 そう言われて思い出した。


 トラップで死んでた男のこと。

 こいつもひとりでやりたいことがあるのかもしれない。


「分かったよ。責任もって届けよう」

「すまねぇ。24階層まで頼んだぞ」


 そう言って男は俺の横を通っていった。


 それを見送りながら俺は歩き出す。


 大好きな歌を口ずさみながら。


「ゆーめでおーわらせない」


 その言葉を聞いてミーナが反応した。


「イカロス様は夢とかあるんですか?」

。昔はさぁ夢があったんだよ」

「どんな夢だったんですか?」


 お?聞いちゃう?


 俺の夢聞いちゃうわけ?


「世界最強の王様になりたい。俺の夢は王様になって召使いに指示出しまくって自分はグーダラすることだよ」


 そう言うとシーンと静まり返った。


 ポカーンと口を開けてるミーナとシズク。

 まぁ無理もないか。


 俺だってそのへんに住んでる近所のおっさんに将来の夢を聞いて


『王様になりたい』


 って答えられたら同じ反応する。


 いい加減現実見ろよって。

 どうやってなるんだよって。


 それと同じことを今俺は口にしたからな。


 微妙な空気になった。


(あらら。そりゃそうか)


 そう思いながら俺は歩き出そうとしたけどミーナが口を開いた。


「なれますよ」


 そうやって口にするミーナ。


(マジで良い奴だなぁ。俺は今全否定されるようなこと言ったつもりだけどな)


 ミーナの目のマジメさを見てるとなにか言い返すような気も失せてきた。


 本来であれば


『俺がなれるわけねーだろ』


 くらい言うんだが。


 そんなちょっとした毒気すら削がれるような目をしていた。


「んじゃまぁ。俺が王様になるまでそばにいろよ。召使い一号?」

「はい」


 その言葉を聞いて悶絶した。


(こいつ、まじでいいやつ過ぎないか?!)


 そう思いながら俺は口を開いた。


「じゃ、王様の前にとりあえず世界最強になるとこから始めるぞ」


 そう言ってから具体的な目標を口にする。


 いつになったらたどり着けるかなんて分からないけどさ。目標ってのはデカければデカいほどいいんじゃないかな。


「俺は【剣聖】になる。だからお前は【賢者】でもめざせよ。そうじゃないと【剣聖】のパーティメンバーはつとまらんからな」

「はい。私は【賢者】をめざします。あなたのそばで」


 俺はこのとき心の底から思ったね。


(こいつ……)


 そのときだった。


「う、うわあぁぁぁぁあぁぁあぁぁ!!!!!」


 俺たちの進んでいる先から悲鳴が聞こえてきた。


 ミーナとシズクに目を向けて。


「行くぞ。依頼人のものかもしれない」


 走り出した。


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