第21話 おっと誰か来たようだ

翌日。

俺はサイクロプスの店を訪れることにした。


ミーナに言われた通り夕方くらいに向かってみると研磨が終わってたようで、すぐに渡してくれたのだが。


「んー、あー、いや、その、だな」


歯切れが悪い感じのサイクロプス。


俺はニヤニヤしながらサイクロプスに聞いた。


「当たりか?大当たりなんだな、その反応は」

「いや、そのー、あー」

「なんだよ。すなおに話してみろって。とんでもなく強い武器が出たから買い取らせてくれって話だろ?」


そう聞いてみると首を横にふるサイクロプス。


「いや、ちがう。逆だ。大ハズレだった」


ミーナに目をやる。


「嘘をついてません」


その言葉を聞いて肩を落とした。


ガチャ運は悪いけどな、たしかに。


俺スマホゲーでもガチャ運めっちゃ悪かったから。


「あー、でも、見せてよ剣」


そういってみると。


スっ。


剣を差し出してきたサイクロプス。


こいつの体がでけぇから差し出してきた剣がすっごい小さく見える。


受け取ってみた。

ズシリと重い黒い剣。


ところどころ欠けてて歴戦の剣ってかんじがしてすごいかっこいい!


ちなみに俺はダメージジーンズが好きなんだけど、それと似たようなものだ。



名前:ボロボロの黒い剣

説明:ゴミ



「まぁいいや。俺はなにを使っても変わんないからな」


そう言いながらサイクロプスに礼を言う。


「研磨してくれてありがとうな」

「それほんとに持っていくのか?こっちで処分してやってもいいんだが」

「いや、いいよ」


俺はそう言って歩いていこうとしたが


「坊主、やめとけ」


サイクロプスがまた声をかけてきた。


振り返った。


「頼む。命をだいじにしてくれ。やっぱりその剣はこちらで処理する。返金するしその剣は買い取ったことにしてもいい。もういやなんだよ。冒険者の死亡報告を聞くのは」


そう言ってきた。


どうやら自分の関わった剣で人が死ぬところを見たくないらしい。


あー。

どうしようかと思ったそのときだった。


「客人。そのサイクロプスの言うことを聞いてやってはもらえないだろうか」


そう声をかけられた。

そちらを見ると


(青髪の女?剣士か?)


鎧に身を包んだ女が立っていた。

誰だろうと思ってたら女はサイクロプスに声をかけた。


「ところでサイクロプス。頼んでいた武器はできたか?」

「もちろんできてるぜぇ。アクア」


そう言って店の奥から武器ボックスを取りだしてその中から一本の剣を渡すサイクロプス。


「ふむ」


それを受け取って両手で握ると見つめるアクアと呼ばれた女。


「これはいいものだな。また腕をあげたかサイクロプス」

「冗談はそこまでにしてくれ。俺の腕は変わってねぇさ」


そうやって会話をしてから俺を見てくるアクア。


「さて、客人。サイクロプスの言うことを聞いてやってはくれないか?」


なんでこうなるんだ、って思ったけど。


それからいいことを思いついたような顔をするアクア。


「そういえばおもしろいことを言っていたな。『何を使っても変わらない』か」


俺の言葉を復唱するアクア。


実際のとこ俺は何を使っても変わらないんだけど。


「客人。こうしないか?私と手合わせをしてあなたが勝てばその剣を持っていくがいい」


そう言っているアクアに声をかけるサイクロプス。


「ま、待て。お前と戦って勝てる奴がいるとは思えん」

「サイクロプス。これはお前の考えを尊重してやることだ。それに本気は出さんさ」


この女が何者かは分からないが、そうとう剣に自信があるようだ。


「俺が勝てば?」

「剣は持っていいし、叶えられるものであれば望みを叶えてもいい」

「浴びるほど酒が飲みたいって言っても叶えてくれるわけ?」

「その程度の望みでいいのなら問題ない」


なるほど。

俺が負けてもこのボロボロの剣を失うだけ。


そして勝てれば酒か。

これ、実質俺にデメリットないよな?


なら答えは決まってる。


「手合わせ願おうかな」


そう言うとサイクロプスが声を出す。


「おいおい、マジかよ」


アクアが口を開いた。


「サイクロプス。すこしこの広場を借りるぞ」


そう言ってアクアは俺と向かい合って立った。


どうやらここでそのまま手合わせ、ということらしい。


「ルールはなんでもあり、ということでいいか?」


そう言って俺を見てくるアクアに答える。


「問題ないよ」


いつも団長や他の騎士と手合わせしてきたときも細かいルールなんてなにもないフリーバトルだった。


魔法も剣術もすべてありのもの。


実戦に近い形式のものだったので、俺としてもそちらの方が慣れている。


「では、客人よ。剣を構えろ」


そう言われたので俺はボロボロの剣を構えた。


「ほう【武装強化】、ということは剣士か騎士か」


冷静にまずは相手のことを分析しているアクア。

それから


「そんなものでは私には勝てんよ」


氷剣アイスソード


アクアの手には氷の剣が出てきた。


(魔法剣か)


魔法を使いあらゆる属性の剣を作り出す魔法の総称、それが魔法剣。

この場合当然氷属性の剣だ。


そして


「準備は整ったみたいだし。開始だな。けがさせんなよ?だいたい剣のプロが素人相手に戦いもちかけるなんてありえないし」


そう言ったサイクロプス。

やる気なさそうだ。


完全に俺が勝つと思っていないらしい。


(ま、そりゃそうだよな)


一般論として魔法を使える剣士と魔法を使えない剣士が戦った場合勝つのは前者だ。


しかし、俺もそいつら相手に戦ってきた。


(勝負は一瞬で決める)


アクアはどう見ても油断している。


「なにをしてきても対応してみせるよ。先手どうぞ」


そう言っているので言葉に甘えて


ただ。

全力で地面を蹴りつけて。


【スラッシュ】


全力で剣を振ると。

攻撃に合わせて剣を防ごうとしてきたが


シュン。

と消える魔法剣。


「えっ?」

「油断したな?」


俺に言われて自分の手を眺めるアクア。


「な、なぜ魔法が」


魔法剣は言ってしまえば魔力の集合体に過ぎない。


その魔力を吹き飛ばすくらいの威力で剣を振れば魔法はその形を失う。


これが俺が魔法を使う騎士たち相手に編み出した対魔法用の戦い方だ。


「ま、まじかよ。【氷剣】が負けた?おいおいおい、嘘だろ?!嘘だと言ってくれよ!」


サイクロプスが口を開いていた。


氷剣?あだ名のようなものだろうか?

残念ながらそういうあだ名とかに関しては詳しくないので当然分からない。


アクアは俺を見てきた。


驚いたような顔をして、それから悔しそうな顔をしてから、最終的に表情を戻していた。


「私の負けだ。酒をごちそうしよう。そういう約束だったからな」


こうして俺は酒をおごられることになった。


たまにはこういうこともやってみるもんだな。


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