第22話 胸のもやもや
アクアと一緒に酒場に向かう道中で話しかけられていた。
「先ほどのは【魔法斬り】か。なるほど。初めて見たがあなたがすいけんか」
そう言ってきた。
え?
なんでこの子俺のあだ名知ってるんだろう?
俺の前世の名前は
「よく分かったな俺の名前が」
「簡単だ」
そう言われて困惑した。
もしかしてこの子は前世の情報が見れるとかそういう特殊能力持ちなんだろうか?
ふむ。なんの意味もなさそうな能力だけど、そういう能力もあるんだな。
そこでミーナが口を開いた。
「姿を見るにあなたは騎士団の方でいいんですよね?」
「ん?あぁ、そうだが」
と柔らかそうな笑顔を浮かべるアクア。
「名乗り遅れたな。この王国で近衛騎士団の団長を任されているアクアという者だ」
そう言って手を差し出してきた。
(この国に来ても騎士団と関わるのか、はぁ。呪いだろこれ)
とか思いながらもいいやつそうなので握手した。
これから酒をおごってもらうわけだし。
(てか騎士団長に勝っちゃったのか)
俺が団長に勝てるってことはこの王国の騎士団のレベルが低いんだろうか?
だよな。
この王国の騎士団のレベルが低いんだろうなぁ。
そうに決まってる。
そうしてやってきた酒場でいつものように色々酒を頼んだ。
料理を待ってると話しかけてくるアクア。
改まった様子で話しかけてくる。
「明後日。【夜の王】の討伐作戦を開始する」
「とーばつ?」
聞いてないんですけどー。
「あなたには作戦に参加していただけると助かるのだが。すいけん殿」
そう言ってくるアクア。
うーん。とりあえず話してみるか。
「あれペットにしたいんだけど」
そう言うと
「ぺ、ペット?!」
驚くアクア。
「しょ、正気なのか?!あんなものを?!」
「うん」
俺はそう言ってミーナの首についている輪っかを指さした。
「これをいっぱいつければテイムもできるでしょ?」
仕組みはよく知らないけど【誓約の首輪】を使えばあらゆるモンスターをテイムできてしまうのだ。
感情とか気持ちまではコントロールできないけど、行動のみは完全に服従させることができる。
今のミーナみたいに。
「うーん?」
首をかしげるアクア。
それほどまでに夜の王のテイムというのは考えられないことなのかな?
「なんで俺を誘ってるのかは分からないけど俺はあいつをテイムしたいと思ってる。そういうふうに作戦を変更してくれるなら参加するけど」
討伐までしてしまえばテイムはできなくなる。
だから討伐しないという条件付きなら参加するのだが。
「生け捕りとなると難易度があがる。だが。どうしても、というのであれば協力はししよう。我々としては【夜の王】の駆除ができればそれでいい」
この人はなかなか乗り気でいてくれるようである。
そうして時間が過ぎていく。
アクアが帰るというので酒場を出ることになった。
「では明後日は迎えにいく。スズラン殿の館だな?」
「それよりほんとに討伐じゃなくて大丈夫?」
「私が命令されているのは【駆除】だ。草原からいなくなれば方法は一任されている」
と騎士団としてどうなの?というようなことを口にしているが
(俺が言えたことじゃないからなぁ)
そう思いながら俺たちは酒場の外に出た。
みやげにビンごと酒も買ってもらったのでそれを持ってる。
「送ってこうか?」
ここまでしてもらったのでさすがに俺もなにかしようと思ったんだが。
「いや、かまわない。これでもツヨツヨ騎士だからな」
そう言って歩き出していったアクア。
その歩き去る背中をジーッと見つめるミーナ。
「ミーナ?」
「な、なんでしょう?」
「いや、見つめてたからさ」
「変なところで鋭いですよね」
「さすがにいつもと違うとこあれば気付くよ?見つめてたら失礼だぞ?」
一応保護者として注意しておく。
俺の存在自体がそもそも失礼のかたまりなんだが、それでもこの子にはちゃんと育って欲しいからな、うん。
「あの人なにか隠してます。お気をつけを」
「なにか?なにを?」
「それは分かりませんが敵意や悪意のようなものは感じません。しかし問題を抱えてるようです」
「俺たちに関係ないことでなにか黙ってることがあるってことか?」
「おそらく」
そう言って俺の手を引っ張ってくる。
「そろそろ館に帰りましょう。誰がどこでなにを聞いてるかは分かりませんからね」
(ふーん。そういえば)
隠してる、と言えば。
「お前も俺になにか隠してることあるんじゃないのか?いいかげん話してくれたりしないわけ?」
ピタリ、と動きを止めて俺を見てくるミーナ。
「まぁ、むりに話せとは言わんけど?」
「いつから気付いてたんですか?」
「最初から」
そのときだった。
俺の視界の先から子供が歩いてきた。
こんな暗い時間に子供がひとり歩いてきてた。
そいつが俺たちに近付いてきていた。
ミーナは表情にこそ出さないがその接近に気付いているのか視界の端で動きを追っていた。
そして子供はミーナを追い越して。
【
パッ。
俺のポケットに手を伸ばしてきたのを掴んだ。
「おっと。スリか?」
「ゆ、許して、ください。お、お金がなくて」
そう言ってる子供に俺は手に持っていた酒を渡してやる。
「金がないならしかたないな。これでも売って金にしてこいよ」
「い、いいんですか?」
「あぁ。飲んでもいいぞ。お前にやるよ」
「あ、ありがとうございます!お兄さん!」
そう言って路地裏に消えていった。
それからミーナに目をやった。
「お外は危険がいっぱいだな。館に戻るか」
「はい」
スズランの館に戻ってきて部屋の中に入ると個室の扉をしっかり閉めた。話し声が漏れないように。
それからミーナに声をかけた。
「本当ならもうこれ以上ほじくり返す気無かったんだけど、ついでだし聞いとく。俺から財布をどうやって盗んだわけ?」
さっきみたいに近付かれたら接近には気付く。
いくら泥酔していてもそうだ。
(なんかおかしいとは思ってたんだよな。これでも騎士のはしくれだし)
体触られて財布盗まれたらさすがに起きるように訓練されてるんだけど。
「怒らないから言ってみ?孤児じゃないだろ」
悩んだ末に口を開いたミーナ。
「盗賊団【アルカナ】リーダーのミナレイル。ミーナというのは愛称です」
ドヤァ。
言い切ったみたいな顔してる。
「へー。元盗賊団なのー?どうりでねぇ、優秀なわけだ」
「は、反応薄くないですか?」
「手癖の悪さでなんとなく予想してたし」
ポカーンと口を開けるミーナに答える。
「ま、いいじゃん?元孤児よりは元盗賊の方がかっこいいし」
そう言ってみると複雑な表情をしてたけど、それから嬉しそうな顔をしてた。
ってなわけで俺は知らないうちに盗賊団のリーダーを奴隷にしてたらしい。
(いちおう自分から話してくれたし、そこそこは信用されてるのかもな)
よかったよかった。
もやもやしたものが全部消えたようだ。
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