第23話 捕獲作戦開始

迎えに来たアクアといっしょに行動する。

今から【夜の王】捕獲作戦が始まる。


国外に来るまでに聞いたが直前に捕獲に切り替える時はたいへんだったらしいが。


「姫様が無闇な殺生は好まんと言い出してな。それで捕獲作戦に切り替わったのだ」


(へー。この国でも姫様に助けられるとはなぁ)


なにかと俺は姫様というものと縁があるらしい。


前の国でも姫様にはいいようにして貰ってたからなぁ。

まさかこの国でも姫様に救われるとは思っていなかったが。


「すいけん殿」

「ん?」

「すいけん殿の話をしたら姫様がぜひ会ってみたいと言っていたのだが」


そう聞いて頭を横に振る。


「ははは、ご冗談を。不敬罪で殺されちまうよ」


とうぜんの話ながら俺はこんなんなので姫様の前に行っちゃうと怒られるだろう。


ってわけで。


「遠慮しとくよ」

「そうなのか。残念だ」


そう言ってくるアクア。


「それで?ところで俺は何をしたらいいわけ?」


ここにくるまで作戦についてはたいしたことを聞いていない。


いけば分かるとだけ言われてついてきたんだが。


その道中だった。


「初めはとある場所へ目標を誘導するつもりだったが」

「だったが?」

「私とすいけん殿で突撃することにした」

「どこに?」

「【夜の王】の寝床さ。現在かなりの重症を負っているらしく動けないそうだ。それで寝込みを襲う。戦の基本だな、弱っている相手をタコ殴りにするのは」


(ひきょーだなぁ)


とは思うけどこっちも命をかけてる以上勝てる方法を選ぶのは当然か。


そうして国外に出るための手続きの順番を待っていると近くの壁にある貼り紙が目に入った。



【注意】

・現在【暗殺集団】の出現情報が出ています。国を出る際にはご注意ください。

なお、商人に関しても現在は移動を制限しています。



「あんさつしゅうだん?」


そう思って読み上げてたらミーナが言ってきた。


「アサシンズクランですね」

「なにそれ」


質問に答えたのはアクアだった。


「アサシンズクランは世界的に有名なトップの人殺し集団だ。人殺し。強奪。略奪。人身売買(奴隷以外も)。暗殺。呪殺。虐殺。悪いことはなんだってやる。クズみたいなやつらだ。

主に国外で活動している連中だ。国の内側ではいろいろと厳しいからな」


「そんなのがいるんだな」

「知らなかったのか?」


驚いたような顔で見てくるアクア。

俺国外のことはほとんど知らないからなぁ。


日本から出たことないし、それと同じで他の国に行くなんて予想してなかったし。


「じょ、常識だと思ってたのだが」

「この人にそういうの通じませんよ?」


あきれたような様子でミーナがそう口にしていた。


(めんぼくないでござるっ!)


そうか、常識だったのか。覚えておこう。


と思ったけど


「なんかイライラしてる?」


ミーナがなんかイライラしてるような気がした。


「……」


なぜか知らないがイライラしてるらしい。

話しかけるのはやめておくか?


でもいちおう確認しておくか。


「俺のせい?」

「違いますよ」


俺たちの空気を見て首をひねるアクア。


「まぁ、アサシンズクランの方は大丈夫だ。今回は我が王国の騎士団の全戦力にプラスして強い冒険者にも協力を頼んでいる。ちょー大きな作戦だ。だからアサシンズクランも簡単には手出しできまい。ガハハ我らの作戦に穴などないのだ。これで手出ししてきたらヴァカだぞ。袋叩きにしてくれる」


ピラッ。

俺に何かを見せてきたアクア。


そこにはこうあった。



【協力パーティ】

Sランクパーティ

10パーティ

冒険者の人数は40人



「この日のために全世界からかき集めた精鋭中の精鋭だ。さすがにアサシンズクランも手出しできん!この作戦にアサシンズクランの妨害が入る確率はなんと0%(小数点以下無視)」


ふん。

鼻息を荒くしてどうだ、と言いたげな様子だが


(またフラグ立てられてないか?俺)


夜の王の時と言い、こいつと言い。


俺の周りに寄ってくる奴はなんでこんなに見え見えのフラグを立てるんだろうな。


(なにもないかもしれないが、警戒はしておこう)


それからミーナに目をやって耳元で聞いてみる。


「アサシンズクランと過去になにかあったか?」

「変なところではほんとに鋭いですね。はい。ありましたよ」


俺にだけ聞こえる声で答えてきたミーナ。

なるほど。不機嫌だったのはそれのせいだったか。


「私はアサシンズクランに負けたせいで、命からがらあそこに逃げて財布を盗み毒団子を食べることになりました。なにも食べてなかった私は毒があるのかどうかすら確認しませんでした」


そう言ってきたミーナ。


(めっちゃ因縁ありますやん)

「私ではアサシンズクランには勝てません。ですので、あなたを頼ります」


そう言ってくるミーナ。


「お、おう。任せろよ」


と口では言ってみるけど。


(あーあ。アサシンズクランと出会いませんように。てるてる坊主でも作って祈るか)


俺は普段は無神教なくせに困った時には全力で神頼みをする典型的な日本人なのである。



そして国の外に出る。


「馬乗れるんですね。イカロス様」


俺のうしろにまたがってくるミーナ。


まさかこの年で女の子を後ろに載せることになると思わなかったな。


女の子ってか自分の娘くらいだけど。


「そりゃ俺元騎士だし。騎馬術は必須だからな」

「正直疑ってました。騎士だってこと」

「信じてなかったのかよ?!」


まぁ気持ちは分かるけどな。


俺みたいな絵に描いたクズが騎士だなんて言い出したら俺だって爆笑するからな。


どんな騎士団なんだwwwって爆笑するね。


こんな奴いれないといけないくらい人手足りねぇのかよ、環境どうにかしろwwwって馬鹿にするね。


そんなことを思いながらアクアに目をやると。


「先導する。ついてきてくれ。偵察によると【夜の王】はまだ傷が回復していないらしい。早く行って畳み掛ける」

「頼んだよ」


俺はそう言ってアクアの後を馬に追わせる。


そうして走っていると騎士と思われる人間や冒険者と思えられる人間がかなりの数見られた。


(ほんとに数多いな。ここまで見た感じ100人くらいいたか?)


目に見える範囲だけでそれだけの人数がいた。


(この作戦にかける熱が伝わってくるな)


となるとこちらとしてもミスれない。


そうして緊張してると更に緊張させるようなことを言ってくるアクア。


「この作戦には多くの人が関わってきている。失敗できない。ゆえに全力であなたのサポートを行うすいけん殿」

「お、おう」


サポートされる、か。

俺はずっとサポートする側だったからこんなこと初めてだ。


やっと作戦の中心に自分がいることを理解した。


「まるで映画かなんかの主人公みたいだな」


小中高。


大人になってからもずーっと日陰で陰キャみたいにしてた俺。


異世界に来てブラック労働に勤しむこと30年。

それでやめてみたらまさか主人公みたいになるなんてな。


俺は親にすら『性格悪い』『クズ』と言われるような人間だった。


(まさかそんな俺がこんな作戦の中心にいるなんてな)


そんなことを思ってると目的地についた。


俺たちの目の前にあるのは広大な森だった。

今からここに入っていくらしい。


アクアに目をやると。


「ここを入っていく。この奥の洞窟で【夜の王】が寝ているそうだ。それで体の回復を待っているようなのだ。回復し切る前に殺す。いや、違った、捕獲する」

「頼むよ?」

「ガハハ。まかせろ。この【氷剣】は狙った獲物は逃さん」


そう言って中に入っていこうとするアクア。

その時だった。


俺の背中を軽く叩いてくるミーナ。


「この森なにかいます」

「なにかって?」

「アサシンズクラン」


(あ、はい)


【気配遮断】

【鑑定】

【共有】

【気配察知】

【魔法無効】

【魔力探知】

【呪い無効】


たくさんのスキルを自分と俺に重ねがけしてくるミーナ。


「以前は逃げるだけでせいいっぱいでした。甘く見ないでください」


そんな俺たちを見てアクアが目を見開いていた。


「え?ほんとにいるのか?アサクラ」

「いるってさ(てか略称アサクラ?)」


誓約の首輪をつけている以上ミーナがここで嘘をつくなど考えられない。


ってことは


「覚悟した方がいいだろうな」


そう言うと謝ってきたアクア。


「黙っててすまなかった。実はと言うと騎士団わたしたちがここにいるのはアサシンズクラン対策なんだ。だが、まさか本当にいるとは。小数点以下の確率を引いてしまったのか?!」


(俺はハズレを引くプロだからな、それのせいだろう)


1%の当たりは引けないくせにハズレは簡単に引くからな。


ミーナに目をやる。


「昨日隠してたのはこの件ですね。アサシンズクランも狙いは【夜の王】かもしれません。あいつらには渡せません。ろくな事をしませんから」


そう言って先に進もうと目で伝えてくるミーナ。


(ほんとに俺主人公みたいになってないか?)


元はペット(もふもふ)捕まえに来ただけなのに。


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