第20話 【ミーナ視点】動き出す人たち

SIDEミーナ


イカロスさんが風呂に向かったあと私は館内をウロウロしてた。


(トイレ行きたい)


気配を殺して歩くのは癖になってる。


音とかを消して周囲の動物や人間に気配を感じさせずに移動するのだ。


スキルがなくともある程度はできる。


そうして移動していたら目の先にある曲がり角の先から声が聞こえてきて。立ち止まった。


「シズクと言ったね?娘を助けてくれてありがとう」

「いえ、友達に頼まれたものですから。それに私はなにもしていません」


この声。

フロイスとシズクのものだ。


(こっちにくる?)


今までの経験ですぐに周りを見た。

隠れるところがないかを探して


(ツボ!)


大きなツボがあったのでその中に入った。


癖になってるみたいだ。

こうやって隠れて他人からやり過ごすこと。


そうして隠れてたら足音が近付いてきた。

声の聞こえ方からしてこっちに近付いてきてるようだ。


だんだん声が近付いてくる。


そしてシズクの声が聞こえてくる。


「"すいけん"の復活ということでいいと思います」


(すいけん?)


なんの話だろうと思ってたら2人は近くにあった部屋の中に入っていった。


(なにか役に立つかもしれない。盗聴しよう)


【盗聴】スキルと【透視】スキルを使ってそのまま部屋の中の会話を聞く。


すると、フロイスは紙を持っていた。



【酔剣の剣聖】

・神出鬼没の剣聖。固有ネームを【酔剣】

・まるで酔っているかのような先の読めない動き方から繰り出される剣技はどの流派のものでもない

・対戦した相手は口を揃えてこう言う「動きがまるで読めない。それでいて繰り出される攻撃はすべてが重い。まるで神話に登場するような聖剣を使って攻撃されているようだった」


・魔法すら通用しない。放った魔法は全て斬られてしまうほどあざやかなもの。

・剣術の極地に到達している男


・見た目はどこにでもいるような地味な男らしい。



「フロイス卿はかつて"すいけん"と呼ばれた剣士が存在したのをお覚えですか?」

「もちろん。"すいけん"は当時世界の1部では話題になりましたからな。使い手はただひとりの剣術」

「実は私もそれに魅せられて剣術を学び始めたのです。だからこそ見間違えるわけもないのです」


そう言って少しの間があってからまたシズクの声。


「"すいけん"はイカロスさんで間違いないと思います」

「その根拠は?」


「"すいけん"には癖があります。私が当時目にしたことのある"すいけん"の癖とイカロスさんの癖は同じでした。それと"すいけん"は【武装強化】以外使えないということを考えたらおかしくはないでしょう。私から見たイカロスさんも【武装強化】以外のものを使えないようでした」


「最後に"すいけん"が出たのはいつの話だったか?」

「5年ほど前ですね」

「しかしなぜ今になって"すいけん"はこの国に現れたのだろうか」

「分かりませんが、あの剣の使い方は"すいけん"のものだと思います」

「まだ確証があるわけではないが、他のものに気付かれてからでは遅いというわけか」


「そうでしょうね。もっともあの人が"すいけん"だなんて言われてもほとんどの人は信じないでしょうが」

「それはそうですな。私だってこうして報告を聞くまでは腕前までは予想できませんでしたし」


それからフロイスはこうやって続けた。


「そういえば【夜の王】が手負いという話を聞きました。なにやら口からしっぽにかけて切り裂かれていたという話を聞きました。そうそう。ギルドに聞きましたが少し前【夜の王】が出たそうですね。そしてその辺からイカロスさんはこの国に来た、これは偶然の一致でしょうか?」



「まさか【夜の王】にダメージを与えた、とでも?」

「与えただけじゃなく撃退まで追い込んだ、ではないでしょうか?」

「ば、ばかな、今まで正体も不明だったほどのモンスターをですか?」

「それもまた"すいけん"と考えれば納得出来る」

「そ、そうか。イカロスさんが"すいけん"ならそれもありえるのか」


私にはよく理解できない話だが、なんとなく分かることがある。


すいけん=イカロス


ということだ。


(ずーっとただ者じゃないとは思ってたけど、やっぱすごい人だったんだ)


そう思ってからまた盗聴を続ける。


「すいけんの話はここで置いておきますが、【夜の王】が手負いということでさっそく国をあげて討伐作戦が決行されようとしているのは知っていますか?」


それを聞いて思う。


(あの化け物討伐されちゃうんだ。イカロスさんは悲しむかな?)


シズクが口を開く。


「【夜の王】がついに討伐されるのですね。長らく商人を不安にさせていたあのユニークモンスターが」


「えぇ。手負いの今こそがチャンスなのです。最新の報告によると幻覚を使えるようでしたが、それも今はダメージのせいか使えないみたいです。今がチャンスなのです。作戦の中心にあるのは我が王国の騎士団。必ずや討伐してみせるでしょう。それに我が騎士団には【氷剣】がいます」


その言葉で会話は終わってガチャっと扉を開けて2人は出てきた。


シズクを見送ってその場で止まるフロイス。


シズクが見えなくなってから私のいるツボの方に目を向けてきた。


(まさか、バレてる?)


「私の家ではかまわんが他の人の家では入らない方がいいよ、君」

「いつから気付いてたんですか?」


ツボから出て聞いてみた。


「もちろん初めからだよ?これでも教養があってね。自衛くらいはできる。

アサシンの警戒くらいはできるよ?もちろん君の警戒もできる」


そう言って私に目を向けてきてこう言ってきた。


「今はイカロスさんの奴隷なのならそれらしい振る舞いをしたまえよ。君はもう前までの君ではないのだから」


そう言って本題を話すフロイス。


「今聞いた事は君の戦果としてイカロスさんに話すといい。そのために話したからね」

「え?」

「夜の王が討伐されてしまうよ?君はそれでいいのか?」


私はじゃっかん顔をゆがめた。


(あぁ、これだから貴族ってやつはきらいなんだ。分かりにくくて。誘導されてるのかどうなのかもわからない。それとも善意なのかどうかもわからない)


本音が読みにくい。

なにを考えているのか分かりにくい。


だからだ。

イカロスさんの分かりやすさというのが私には本当にありがたかった。


あの人を相手にする時は頭を使わなくていいんだから。


あの人は裏も表もない。

本音と建前がほぼ一緒だ。


それに比べて


(これだから大人ってきらいなんだ)


こいつは表と裏が存在する気がする。


悪いやつじゃないのはなんとなく分かるけど、胸の内では色んな考えや欲望がウズ巻いてるんだろう。


だから今の話をしてもいいのかどうかの判断が難しい。


「ひとつ聞いてもいいですか?」

「なんだね?」

「なぜ、娘さんとご主人様を結婚させたいのですか?」

「有能な人物を身内にすることができればメリットになるから。貴族というのはそういうものだよ?」


そう言ってフロイスは部屋の方に戻っていった。


(なるほど、自分の目的のためってことか)


私は風呂の方を見つめて心の中で叫んだ。


(それハニートラップだからぜったいに釣られるなよ?!分かったなぁ?!)


それからトイレを探しながら思う。


(貴族なんて立場で満足しないでください。あなたはなれますよ、ぐーたら王様に。だから妥協なんてしないでください。私が保証しますから。それで私はお姫様!それでいいですね?)






補足:

フロイスは普通にいい人です。

ただ戦闘面で優秀な人物が身内に欲しいだけなのです。




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