第4話 世界にはとんでもないやつがいるものだな

 翌日。


 朝からギルドに向かう道中で考え事してた。


(子供っていいよなぁ)


 前世だと縁がなかったが昨日助けた子供の笑顔を見てるといいものだと思えてくるのだ。


(子供はいいなぁ、子供の奴隷でも買おうかなぁ、男はいらんけど。もちろん女限定だ。娘が欲しいよな、血のつながらない)


 そんなことを考えながらギルドに来るとザワついていた。


 ギルドの外からでも内部が騒がしくなっていることに気づいた。


 それくらいの騒ぎがあったからだ。


(なんだ、なんだ?なんでこんな騒がしいんだ?)


 そう思いながらヤジウマ気分でギルドの中に入る。


 すると騒がしい理由はすぐに分かることとなった。


「おい、誰かなんとかしてやれよ」

「やだよ。孤児だろ?」

「孤児に餌付けするなんてなぁ」


 そうやって言いながら人々はギルドの真ん中をみていた。

 そこにいたのはひとりの女の子。

 14歳くらいの白髪の子が机の上に寝かされていた。


 かわいそうに。

 孤児で病気にでもなったんだろうか。って思いながら近くにいた人に声をかけてみる。


「どうしたんです?」

「あの子がな。ギルド前で倒れてたらしい。すごい苦しそうにしてたんだって」


 へー。

 そう思いながら俺も女の子を見てみると。


「ん?」


 机の上に泥団子?みたいなのが置かれているのが見えた。


 近くにいた人に聞いてみる。


「あの子の口元に置かれてるのなに?」

「さぁ?吐き出したものみたいだよ」


 って言われて察した。


 だって、あのドロっとしたちょっと個形状のものには見覚えがあった。


「ちょっとごめんなさい」


 ひとごみをかき分けながら俺は机の近くによった。


 女の子の顔の横に置かれてたものに目をやる。

 それは、間違いない。


(俺がこの前ネズミ退治のためにばらまいたドクダンゴだこれ)


 まさか人が食うとは思ってなかった。見た目からして毒がありますみたいな紫色してるのに。


 そもそも地べたに投げ捨てるように置いてたのに、食うやついると思わなくないか?普通。

 俺そこまで配慮してないよ?


 そう思ってたら女の子が目を開けて俺に目を向けてくる。


「ドクケシソウをください」


 そう言ってきた。


 地面に落ちてる毒団子を食べたこいつの自業自得なんだが。

 人の目につく場所にばらまいた俺の責任もあるかもしれない、1%くらいは。


(かわいそうに、俺のせいなのか?)


 って同情しそうになってたら、女の子はポケットからなにかを取り出してきた。


 四角形の布だった。


 それは財布だってすぐに分かった。


 なんでかって、この財布は俺の財布だから。


 あぁ、その財布を見た瞬間こう思ったね。


(ざまぁぁあねぇぇなぁあぁぁwww)


 やっぱなしだわ、100%こいつが全部悪いです。俺はなんも悪くない。


 人のものパクって?そのあとは道に落ちてるもの食う?

 自分のいやしさが招いた結果じゃないか。


 腹を抱えて笑いをこらえていると、そんなことに気付かない女の子がお金を取り出してきた。


「ひゃ、ひゃくゼルしかないけど。ドクケシソウを」


 満面の笑みで答える。


「財布にひゃくゼルしかいれてなくて悪かったね」

「え?」

「それ、俺の財布なんだわ。パクったのお前か」


 ザワザワ。


 周りで俺たちを見ていた人たちが話し始めた。


「これだから孤児は。手癖が悪いな」

「王族も孤児とかスラムはどうにかして欲しいよねぇ、治安は悪くなるし」

「害虫みたいなものだからなぁ孤児は」


 そんなことを言い始めた周り。


 俺はそんな空気のなか女の子に聞いた。


「まぁいいや、財布の件はいったん忘れてさ。道に落ちてたダンゴを食べたでしょ?」

「な、なんで知ってるんですか?」

「あのダンゴはワケあって俺が作ってばらまいたものだから」


 既にこうやって寝かされてるから毒が混ぜてあることは分かっているはずだが、それがなんの毒かまでは分からないだろう。


 そう思った俺は少し脅してみることにした。


「君、もう少ししたら死ぬよ」


 あの毒は別にいい物じゃない。

 致死性も高くないし、しょせんネズミを殺す程度の殺傷力しかないし、人間が飲んでもせいぜいちょっと体調が悪くなるくらいだ。

 でもこうやって苦しんでる女の子にそんなことは分からない。


 あ、泣いた。

 ほんとに、死ぬと思ってるよ。素直でかわいぃぃぃ。


「そ、そんな。お願い助けてください」


 女の子の前で俺は薬草を取りだした。


 ドクケシソウだ。

 この前の依頼でついでに拾ったヤツだが、売ってなくてよかった。


「これ、あげるけど。交換条件に言うこと聞いてくれる?それで財布パクったことも忘れるよ」

「な、なんでもします。なんでも聞きます」


 なんでもする、その言葉をここにいる全員が聞いた。

 もう言い逃れはできない。


 なんでもしてもらおうかなー。


「じゃあさ。ちょっとまっててよ」


 そう言って俺はギルドの売店で【誓約の首輪】というアイテムを買った。


 5000ゼルで安いものじゃない。


 そのアイテムを女の子に見せた。


「これで誓約できるよね?」



誓約の首輪

説明:このアイテムを使った相手は使った本人のことを裏切れなくなる。あなたの言うことを聞くだけの奴隷となる。



 もともとテイム用のアイテムだったが改良(?)されて人間にも使えるようにしたらしい。

 この国では孤児が好きかってやるので気に入った孤児がいれば拾ってもいいという決まりがあって普通に売られてる。


「そ、それは、」


 俺の見せたアイテムの意味が分かったらしい。


 でも


「死んじゃうよ?孤児の君のことを救ってくれる人が他にいるかなー?」


 周りを見てみた。

 孤児は嫌われてる。


 なんでかっていうとスラム育ちのマナーの悪い奴ら、それが孤児のイメージだから。


 そんなやつを救うのは俺くらいしかいないだろう。

 普通の人なら孤児なんて死んでもいいと思ってるくらいだしな。


 それに比べたら


「俺ってけっこう聖人だと思わないかい?」


 そう聞いてみると、女の子は悔しそうに歯を食いしばって言った。


「誓います」


 誓約の首輪を使った。

 すると女の子の視界の前に表示される文字。


 誓約しますか?

 →YES/No


 女の子は悔しそうな顔でYESを押した。

 この選択肢は本人の意思でしか押せないようになってる。


 もちろん悪用禁止のためだ。


 ドクケシソウをあげる。


「あ、ありがとうございます」


 そう言ってドクケシソウを急いで飲む女の子。

 そんな俺たちのことを見ていた野次馬達が口を開いた。


「孤児を助けてやるなんてほんとに聖人だな」

「なっ。孤児に優しくなれるなんて人ができてるよ」

「すげぇいい人だな。まじで聖人じゃん」


 ヤジウマ達がそんなことを言いながらゾロゾロと下がっていった。


 残されたのは俺と女の子。


(ま、ちょうど良かったな。奴隷を買おうかと思ってたところだし)


 これでこの子は俺の事を裏切れなくなった。

 ひとつ聞いてみようか。


「名前は?」

「私はミーナです」


 と名乗ってきた女の子。

 ミーナ、ねぇ。


 名前を確認しながら俺は名乗る。


「俺はイカロスだ。呼び方は分かるよね?」

「はい。イカロス様。命を助けていただきありがとうございました」


 そう言ってくるミーナに俺は種明かししてやることにした。


「ちなみにだけどさ。あれ、嘘だから」

「う、嘘?どれがですか?」

「毒で死ぬっていう話。ほんとはせいぜいちょっと体調崩すくらいなんだけどねぇ」


 そう言ってやるとワナワナと震え出すミーナだけど。


「残念。誓約したもんね?ミーナちゃん?」


 君は俺を殴れないよ。

 俺がいくらムカつくような奴でもぜったい殴れない。

 そういうアイテムだから。


「じゃあなんでもしてもらおうかな?もとはと言えばぜんぶ自分が悪いんだよ?」


 そう聞くとミーナは諦めた様子でこう言った。


「はい。イカロス様。なんでもします」


 なんでも言うことを聞く奴隷ゲットだぜ!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る