第3.5話 【副団長視点】王女が静かにブチギレている

SIDE 副団長アリシア


 私は任務報告のために騎士団長の部屋を訪れた。

 途中で出会った王女様といっしょに。



【ミノタウロス輸送任務】


 クエスト名:ミノタウロスの輸送

 目的地:どこでもいい

 クエスト目標:ミノタウロス一体の輸送


 クエスト詳細:王「今度他国の王との会議がある。そのときにミノタウロス肉が食べたいと言われた。目の前で新鮮な状態から料理して欲しいのだが、生きたままミノタウロスが運ばれれば民が驚くだろう。この件は極秘でな」



 クエスト用紙を確認しながら私は顔を歪めていた。


(どうやって報告するべきか。やはりありのまま話すしかないか)


 コンコン。

 部屋をノックしてから騎士団長の部屋に入る。


「三日ぶりだな。副団長アリシア。ミノタウロス運送の件の報告か?ご苦労」


 私が部屋に入るなりすぐにそう言ってくる団長。


「その件だが私が食事のために監視を他の者に代わってもらった瞬間ミノタウロスが逃げ出してしまった。その報告にきた」


 怒りに身を任せて机を叩く団長。


「逃げられただと?!どこへ逃げた?これだから若い女を副団長にするなど反対だったのだ!」

「王都内の森。子供たちが遊びにも使う森」

「お前はそんなことをノコノコと報告しに来たというのか?」


「怒っている場合ではないだろう。我々騎士はいついかなる時も合理的な判断をする必要がある」

「ではお前が今なにをすればいいか分かっているな?」

「見つけしだいミノタウロスを殺す」

「そうだな。分かっているならいい。探してこい」


 そう言ってもう用などないというように事務作業に戻る団長。


 そのとき、私のうしろにいた人物が口を開いた。


「ときに騎士団長よ」


 と口を開くのはこの国の王族の王女だった。

 彼女も団長に用事があったのだ。


「なんでしょうか、王女様」


 近衛騎士団長は王族より騎士団を預けられている立場であり、近衛騎士団のすべてを思うがままにできる人物ではあるが、そんな人物でも王族相手にはとうぜん頭が上がらない。


 王家>団長>騎士。


 よって普段のような口調もこのお方の前では出てこない。


「今日はイカロスの姿が見えんかったが?」

「イカロスならば無断欠勤しております。先日『騎士団をやめます』と言って途中で業務を放棄して帰りました。それきりここには来ていません」


 その言葉を聞いて王女は軽蔑するような視線を向ける。


「お前がイカロスにキツく当たっているのは知っているぞ。あんなに当たられてはやめたくもなるだろう。騎士団内の問題だと思ってしばらく様子を見ていたがなんだこのザマは」


 予想していたこと、とは言え王女様はイカロスの肩を持ってくれるらしい。


「あれはきゅうをすえてやっているだけなのです。二度と同じ間違いを犯さぬよう」

「ならばこれ以上きゅうをすえなくていい、と言えばいいか?」


 王女様にとってイカロスという兵士は特別だった。


 あのヘラヘラしているような、情けないような態度が意外とお気に召しているようなのだ。

 王族というものは対等な立場で話してくれる人間が少ない。

 そのためそうやって王族であってもガラッと接し方を変えないイカロスというのは王女様のお気に入りとなった。


 しかし一方で王女に気にいられているイカロスに騎士団長は嫉妬していた。だからきつく当たっていた。

 『王族に対する礼儀がなっていない』という大義名分もあった。


 王女様は目を細めて団長を見ていた。


「お前にはめいを与えるぞ団長。イカロスを連れ戻せ。できなければ死刑だ。我が剣であるアリシアにその首をはね飛ばさせてやる。家の名で成り上がっただけのお前の代わりなんていくらでもいるからな。失っても痛くもかゆくもない」


 自分よりもひと回りもふた周りも年下の少女に言われたのが我慢ならないのか王女には見えないところで拳を震わせている騎士団長。


 それから王女は私を見てくる。


 騎士団長を処刑せよ、という言葉に対しての返答を求めているのだろう。


「お望みであれば上官も殺しましょう」


 私は近衛騎士団長の部下ではあるが同時に王女様の剣でもある。

 どちらの命令が優先されるかと言えば当然、王女様となる。


「いい報告を楽しみにしているぞ団長?」


 そう言って部屋を出ていく王女様に声をかける。

 プルプルとこぶしを震わせている団長が目に入る。


「お部屋までお送りいたします」

「いらん。私には戦闘能力がある。団長ごときねじ伏せられるぞ?それより一秒でも早くイカロスを探してこい。あいつ以外に話し相手がおらんのだ」


 バタン。

 扉が閉じて王女様は出ていかれた。


 いかりを感じさせる声で団長が話しかけてくる。


「副団長。どこかでイカロスがサボっているはずだ」


 そのまま続ける団長。


「我々近衛騎士は王族と国に心臓を捧げた者。『やめます』でやめられるわけがないだろう。探してこい。ミノタウロスの件のついでにな」


 どのみち私もイカロスには用があるため探そうと思っていた。


「了解」


 そう答えて私はこの部屋を出ていき、ミノタウロスを逃がしてしまった場所まで向かうことにした。


 ミノタウロスの件を終わらせて探そう。



 まずはその周辺の聞き込みをしてみることにした。

 すぐに情報が入ってきた。


「ミノタウロスが倒された?」


 森の近くに住んでいた住民に聞き込みをしていたのだが、その住民が言うにはどうやら。


 一人の男がすでにミノタウロスを撃破してしまっているようなのだ。


 そのことを男の子が言いふらして回っているらしい。


「その男の子は今どこに?」

「今ならギルドにいると思うわ」

「情報提供感謝する」


「お安いごようよ騎士さん。でもこんな話信じるの?木の枝でミノタウロスを倒したなんて話。そもそもあの森にはミノタウロスどころかゴブリンすらいないのに。子供が注目されたくて嘘をついてるだけよ?」


「嘘かどうかは私が判断することだ」


 私はそのままギルドに向かった、するとすぐに話にあった少年を見つけることができた。


 そのまま少年に話しかける。


「すまない少年。聞きたいことがあるのだが」

「なに?」

「ミノタウロスを倒したという男について聞きたいことがある」


 すると少年はすぐに教え始めてくれた。


「おじちゃんはすごかったよ。きのえだでみのたうろすをたおしちゃったもん。だれもしんじてくれないけど」


 木の枝でミノタウロスなど倒せるわけがない。

 そもそもモンスターを相手にするのに木の枝など普通は使わない。


 となると自然に答えは出てくる。


「【武装強化】か」

「よくわかったねおねぇちゃん。おじちゃんもそんなこといってたけどなんなの?」

「知らなくてもいいことだ」


 そう答えて私はこのギルドを後にすることにした。


 すでに日が暮れ始める時間帯に町の中を歩きながら考える。


 武装強化スキルで木の枝を実用レベルまで引き上げられる者などそうはいない。


 その数少ない中でミノタウロスを倒せるほどとなると


(イカロス、くらいか)


 騎士団をやめて何をしようとしているのかはわからないが、この周囲にいるのはほぼ確定だろう。


 それだけわかればとりあえずのところは十分か、本格的な捜索は後日、だな。


「私からは逃げられると思わないことだな、イカロス」


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