第3話 30歳絶望冒険者時給300円です(血涙)
薬草を取るために目的地に設定されてる森までやってきた。
採取ポイントはギルドから借りた地図である程度特定可能だ。
なので地図を見ながらルートを組んでいく。
だからクエストクリアの30個程度すぐに集まるだろうなぁって感じだが。
採取ポイントをいくつか回って薬草を回収していく。
30個くらい集めるのにかかった時間は1時間くらいだった。
「時給300円かぁ、って違うわ。時給300ゼルだったな」
って考えたら時給の低さがやばく感じられるよな。
まぁ誰でもできることだからしかたないとは言え、さすがに低すぎないか?とも思う。
この世界じゃ子供のお小遣い稼ぎらしいから仕方ないかってことも思い出した。
んで、よくよく考えたらそんな子供の小遣い稼ぎと同じことをやらされる30歳のおっさんっていうことを考えたら悲しくなってきた。
ちなみにだが、きっちり時給300ゼルかって言われるとそうじゃない。
なぜなら薬草の他にもいろいろ手に入ったからだ。
採取ポイントからは薬草だけが出るわけではないらしく、ランダムで【ドクケシソウ】とか他のアイテムも出てきたから。
これとかも売れば少しは金になるんじゃないかって思う。
こんなものまで売るなんてケチだって思われるかもしれないけど。
今は少しでも金が欲しい。
今の俺の所持金ゼロだもん。
やばいよな普通に。所持金ほぼゼロの30歳男性。終わってる。
「まぁ、いいや。考えててもネガティブになるだけだしな、とりあえず帰りますか」
アイテムの回収は終えたしいつまでもこんなところにいる必要もないし街の方に帰ることにした。
のだが。
その時だった。
「だれかたすけてーーーー!!!」
声が聞こえて聞こえたほうを見る。
横の脇道からの声だった。
「ん?」
そこにいたのは
「ボア?!」
近衛騎士時代何度も相手をしたことのあるモンスターの
3メートルくらいの体格で二本足で俺に突進してきていた。
(でも、ボアにしてはちょっと変な気もするが?)
と疑ったところで団長の言葉がフラッシュバックする。
『角があって突進してくるモンスターはすべてボアだ!ひるむな!ランクすらない雑魚モンスターに負ける恥知らずなど我が騎士団にいらぬ!!!』
うん、こいつは突進してきてるからボアだな!
「ブモォォォォォォォ!!!!」
んで、そのボアが
(あれは、ギルドで会った子供っ?!)
あの話しかけてきた子供を追い回していた。
それで子供は俺に気付いたのか俺の方まできた。
「さっきのおじちゃん?!たすけてーー!」
俺のうしろに回り込んで隠れる子供。
俺のうしろに隠れるなんてこいつも運がないよな。
だって今の俺には武器がない。
武器を買うお金すらなかったから手ぶらできた。
だいたいこの森は安全だってギルドから説明があったのに。
なんだってモンスターがいるんだよ。
(子供を連れて逃げるか?)
さすがに武器がないと戦えないからな。
俺は魔法も使えないし。
でも、探してみるとそばに木の枝があった。
(ちっ。ないよりはましか)
地面に落ちてた木の枝をとりあえず拾う。
名前:木の枝
ランク:E
説明:たきびに必要なもの
俺がそれを拾ってボアに向けてるとピタッと動きを止めた。
そしてにらみ合いが続く。
「や、やんのかよ?俺、これでも一応元騎士だぜ?や、やめといた方がいいんじゃねーか?」
そうやってボアに圧をかけるが、ボアに人間の言葉は理解できない。
「ブモォォォォォォォ!!!!!!!!」
突進してくるボア。
なら、しかたないな。
【武装強化】
木の枝に魔力を流した。
名前:木の枝(武装強化)
ランク:---
説明:スキル【武装強化】により強化された武器、すでにこの武器は聖剣にも劣らぬ力をてに入れた。
俺は魔法は使えないけど一応魔力は問題なく使える。
【武装強化】というスキルは騎士団でも教えられたものだ。
普段使いはもちろん、武器を失ったときでも戦えるようにするためだ。
読んで字のごとく装備を強化するためのスキル。
「ブモォォォォォォォ!!!!!!!」
突撃してくるボア、タイミングを合わせて
「スラッシュ」
木の枝を振り抜く。
すると。
まっぷたつになって、その場に倒れた。
それを見て子供が俺に礼を言ってきた。
「すげぇじゃん!おじちゃん!つよいじゃん!きのえだでみのたうろすをたおしちゃった!すげぇ!かっけぇ!」
助けてもらったからだろう。せいいっぱいのお世辞を言ってくる。
俺はそんな子供に笑いかけながらボアからのドロップアイテムを拾う。
名前:ミノタウロスの毛皮
レア度:B
(今のボアの名前がミノタウロスっていうのかな?変わってるよな。モンスターに名前があるなんて)
そんなどうでもいいことを思いながら俺は子供に声をかける。
「いっしょに帰るか?」
「うん!ありがとーおじちゃん!」
今倒したのはただの雑魚モンスターのボアだが、いちおうちゃんとしたモンスターだ。
売値もさっきの薬草とかよりははるかにマシな値段になるだろう。
それにしても結果的にラッキーなことになったなぁ。
ボアが突進してきてくれて。
臨時収入になりそうだ。
◇
ギルドに帰って薬草を先に提出した。
採取したアイテムの数を数える受付嬢だが、その目は俺が連れ帰ってきた子供に向いていた。
その子供がさっきからずっと口にしてる。
「すげぇんだよ!おねえちゃん!このおじちゃんきのえだでみのたうろすたおしちゃったんだ!よわいなんてうそだったんだ」
俺は肩をすくめてアンリに答える。
「あれはただのボアだよ。子供だからさ。見間違えてるだけだよ」
子供の頃ってなんでもない影がお化けに見えたりするじゃん。
それと同じだ。
追いかけられた恐怖があのボアを必要以上に強く見せた。それだけの話だ。
大きく目をまばたきさせてから口を開くアンリ。
「え、えーっと武器なんて持ってらっしゃいませんでしたよね?」
「持ってないよ。でもボアの相手くらいならできる」
「格闘スキル、かなにかでしょうか?」
と口にする受付嬢だけど特には訂正するようなマネもしない。
【武装強化】はそこまで有名なスキルじゃないからね。
だから説明しても分からないと言われるかもしれないし、格闘スキルで勘違いしてくれるならそれでいい。
「ところでどうでしたか?初めてのクエストは」
「うん。良かったよ。ひとりだし」
うるさい団長はいないからな。
パワハラもされないしさいこー!!!!
「時給300ゼルなところを除けばさいこーだよさいこー」
「慣れていくともっと時給はあがりますよ。出来高制ですから自分の実力しだいでどこまで稼げるのはいいですよね」
そう言われて思う。
今まで出来高制なんて不安定なんだろうなぁって思ってたけど、正直少なくとも騎士団よりはぜんぜんいいね。
「Sランクにもなると時給30万ゼルとかって人もいますからね」
俺の1000倍じゃん!
やっぱ冒険者って夢があるよなぁ!
くーっ。
俺も時給30万の世界に行きたいぜ!
冒険者はモチベが上がるよな!モチベが!
それにしても、やっぱ騎士団ってクソだわ!
潰れちまえ!くそ騎士団!
あんなクソ環境でも仕事やる奴がいるから、あんな仕事もなくならないんだよな!
「とりあえずこちらがえーっと。報酬ですね」
そう言って受付嬢がカウンターの上に300ゼル載せてきた。
くっそ安いけど俺が稼いだ300円だ!
だから嬉しかった。
それから俺は入れ替えるようにドロップしたアイテムを机の上に置いた。
「こっちも買い取って欲しいんだけど」
「え?この毛皮……どうしたんですか?」
動揺したような顔をする受付嬢に答える。
「なにって。ボア倒したらドロップしたんだよ。それで買取値は?」
「ご、5000ゼルですが、」
とのこと。
おー!めっちゃくれる!
「買い取ってもらえますか?」
「は、はい」
そう言って5000ゼル追加でくれた受付嬢。
今日の収入は合計で5300ゼルとなった。
他の人から見たらぜんぜんカスみたいな数字だと思うけど、俺としてはとりあえず今日の宿と夕飯代くらいになれば十分だろうと思う。
受付嬢にいろいろと感謝の言葉を口にして俺はギルドを出てとりあえず宿の方に向かっていった。
今までは宿舎住まいだったから相場とか分からないけど。
最初に入った宿屋が一泊500ゼルと書いてあったのでそこに決めた。
ご飯付きで500ゼルなら十分安いよね、たぶん!
さて、明日はどんな仕事をしようかな!
騎士団時代は明日が来るのがひたすら怖かったけど今はそんなことはない。
むしろ!明日が楽しみになってた!
じゃぁ、今日も飯食って半日くらい寝るか!
寝放題なのも最高だ!
ちなみにこの宿の値段の安さの理由だが部屋に入るとすぐにわかった。
めちゃくちゃ狭い。
棺桶みたいな部屋だ。
出てくる食事もおいしくない。
こういう宿を【絶望宿】と呼ぶこともあとで知った。
でも一部では人気があるらしい。
とにかく安いから。
でも俺は、リピートはなしかな。
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