第2話 30歳、Eランク冒険者です

「頭いてぇ」


 目を覚ますとハンマーで頭をガンガン殴られるような痛みに襲われた。


 てか気持ちわりぃ。


「おろろろろろ……」


 その場で吐いた。


 半日、12時間くらい寝てたらしくて、もうすっかり日が昇ってら。


 昼間っから吐いてるけど、誰も俺を見ない。


 別にこの世界じゃありふれた光景だからな。

 この世界じゃモンスターもいるし、いろいろある。

 それで恋人や家族を失ったりして浴びるほど飲むやつも吐くやつもいくらでもいるんだよね。


 俺も何度も見たことあるもん、吐いてるやつ。


 まぁそいつらと俺は違うけどな。


 そいつらは苦しさを紛らわす目的で飲んでて?

 俺はうれしすぎて飲んでるからな。


「てか、水欲しいわ」


 キンキンに冷えたやつ。

 グイッといきたいね。


 のどかわいた。

 マジで気持ちわりぃ。


 近くの屋台に向かった。


「水」

「200ゼルね」


 ちなみにゼルは通貨で円みたいなもんだ。


 財布を出そうとポケットに手を突っ込んだ。

 しかしいつもはすぐに感じる財布の感触がなかった。


「あれ?」

「すられたか?」


 そう聞いてくる店主。


「かも」


 って答えて俺は全身を探してみたが、やっぱり。


「うわっ、やられたわ」


 まぁ、あんなところで寝てたら取られるよなぁ。そりゃ。

 ま、どうでいいけどな財布のひとつくらい、そう思えるくらい気分がいい。


 どうせ貴重品も金も入ってねぇんだもん。

 俺が昨日有り金使って豪遊したからだ。


 ほぼ空の無価値な財布をゲロのニオイかぎながら持ってった泥棒に同情したくなるくらいだ。


 いや、それにしてもまじで気分がいいわ。


 フーーーーーーーーーーッ↑↑↑↑↑↑↑↑↑


「ドンマイ」

「ところで水は、やっぱり?」

「金もねぇのにやれるわけねぇだろうが」


 まぁ、そりゃそうだよな。向こうも商売なワケだし。


「お前、ゲロくさいけど冒険者か?どんだけ飲んだんだよ」


 そう聞いてくるおっちゃんに答える。


「俺は元騎士の無職さ!」

「そうか。少し頼まれてくれないか?それなら水を飲ませてやるが」

「なにを?」


 って聞いてみると


「この近くにな。ネズミが巣を作ってるらしくてな。それを潰してくれないか?商品をかじられてみんな困ってんだよ」

「はぁ、まぁいいけど」


 そう答えるとカウンターに水を置いてくれるおっちゃん。


 ぐいっ!と飲んで。


「ぷはぁ。生き返るわー」


 コップを返す。


「もういっぱいくれない?」

「巣を壊したらな」


 しかたないな。


「巣はどのへんにありそう?」

「裏路地だ。適当に探してくれ。ネズミがウロチョロしてるところがあるはずだ」

「あいよ」


 そう答えて俺は裏路地の方に入っていこうとしたが、そこで作戦を思いつく。


「おっちゃん。いい方法があるわ」

「ん?」


 話してみろと言われたので俺は今考えている作戦をおっちゃんに話す。


「ネズミは食べ物を狙ってるんだろ?ヤツらは食べ物をその場で食わずに持ち帰る習性があったはずだよな?それを利用すれば巣ごと全滅できるかもよ。名付けてドクダンゴ作戦だ。ダンゴでも作って毒でも混ぜようぜ」


「お前すげぇ頭いいな。そうだ、それにしよう!」


 ということで、俺はこのドクダンゴ作戦を決行することにした。


 さらばだ、ネズミさんたち。



 裏路地に入っていって言われた辺りにドクダンゴをばらまいておいた。


 そうして戻ってくると店主が水をもういっぱいくれた。


 それを飲んでおっちゃんに礼を言う。


「助かったよ、おっちゃん」

「こっちこそな。これでお前は英雄だぜ」


 そう言ったおっちゃんを見て俺は次にギルドの方に歩いていくことにした。


 とにかく近衛騎士をやめたわけだし、次の仕事を探さないといけない。


 働きたくはないけど働かないと干からびるからな。


 いやだよねぇ、労働ってのは。

 そんなことを思いながらギルドに入ってってカウンターに向かう。俺が今からできる仕事なんて冒険者くらいだろう。


 受付嬢に話しかけた。


「冒険者登録したいんですけど」

「はい。ではこちらに記入をお願いします」


 そう言って書類を渡してきた受付嬢。


 名前、年齢、性別、求められた情報を書いていく。

 書き終わった紙を渡すと冒険者カードを発行してくれた。



 名前:イカロス

 ランク:Eランク



 これで晴れて俺も冒険者となったわけだ。


 今までは死ぬまで近衛騎士として過ごすんだろうなぁと思ってたからとても新鮮だ。


 近衛騎士をやれなくなったら次は私兵か?って思ってたけど、そんな俺がまさか冒険者だ、なんてなぁ。

 世の中というものは分からんものである。


 30歳から始める異世界でのEランク冒険者生活。


 今更って感じもあるけど、まぁ仕方ないよね。


 とかって思ってたら質問してくる受付嬢。


「えっと、書類を確認しましたが魔法適性の項目が空白なのですが」

「魔法はまったく使えません!」


 きっぱり答えておく。


 残念ながら俺には魔法の才能はなかった。


 俺にあったのは剣の才能だけ。


 それもまた中途半端なものだったけど。

 そのせいで団長もブチ切れてたしな。


 お前は剣術もマトモにできねぇのか?!って何度も殴られた。


 だがそんな日々も昨日で終わりなのだ、あとはのんびりと生きましょうね。その日暮らしでもいいよ。十分寝れて人間らしい暮らしができたらそれでいいよな。


「ちなみに初心者はどんなクエストがオススメ?」

「えーっと、そうですねー。やっぱり薬草採取とかが人気ですよ」


 そう言ってカウンターから出てきて俺を連れて、Eランクのクエストボードまで向かってくれる受付嬢。


 このギルドは子供も使ってるらしくて9歳くらいの子供が一緒にクエストボードを見てた。子供に混じって30を過ぎたお兄ちゃんがEランクのクエストを見てる。けっこう屈辱的だ。

 しかも


「おじちゃんなんでいーらんくのくえすとみてるのー?くるとこまちがえてないー?」


 と子供に話しかけられた。


 グサッ。

 ゴバッ!


 俺の心に槍が飛んできたね。

 でも、おじちゃんは優しく応える。


「おじちゃんはね弱いからEランクのクエスト見てるんだよ、こんなおじちゃんにならないでね」

「おじちゃんよわいの?でもじんせいはながいよ。ぼくとがんばってつよくなろう!」


 そうして子供はクエストを取ってカウンターの方に向かってった。

 他人から見たら子供に追い越される無能なおっさんの人生を表しているような秀逸な光景だろう。悲しいな。


 でも俺の人生なんてこんなものだよな、だって俺は無能だもん、しかたないよ。


「ヴヴン」


 受付嬢は咳払いしてから、ひとつのクエストを選んだ。


 薬草30個の採取のクエスト。


「初めはクエスト受注の流れを確認するためにもこういうのがオススメですよ」


 と言ってくれたので俺も気持ちを切り替えてこのクエストを受けることにした。


 やっぱり最初はこういうので慣れていかないとな。


 ちなみに成功報酬は300ゼル。


 水1.5杯分と考えるとくっそ安いけど、しかたないよな。


 誰でもできるんだもんな薬草採取くらい。


 というわけで、初めてのクエストに出発だ!


 ちなみに俺の前世はリッパな無職だ。

 それから考えたら働いてるだけえらいよな俺。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る