異世界に転生して30年が経過した底辺の近衛騎士ですが団長に「やる気ないならやめちまえ」と言われたのでやめて冒険者になって無自覚チートで無双します

にこん

第1話 さよなら、我が騎士団

 俺の名前はイカロス。


 剣の名門とまではいかないが、そこそこの立ち位置をもった貴族の子だ。


 そんな俺だが実は日本から来た転生者なのだ。


 つまり異世界転生者ってやつ。


 チートとか魔法適性とかっていうのはなくて、正直自信がなかったので親に言われるがまま剣の道に進んだ。


 その結果が近衛騎士。

 お国のために、王族のために剣を振るのが仕事なのだが。


「おい!イカロス!とっとと走れ!とっとと動け!亀かお前は!団長には絶対服従!耳にタコができるくらい言ったよな?!集合をかけたらチンたら歩くな!全力疾走だ!」


 あたりまえのようにパワハラが横行してる。

 別に今に始まったことじゃない、毎日これだ。

 毎日怒声が響いてる。


 そんな俺は今日も騎士団の団長であるダンバルにしごかれてる。


 そのうち慣れるだろうと入団した当時は思ってた。

 でも慣れないんだよね。これが。


 慣れるどころか、ここに入団した10代の当時からずーっと心に負担が積み重なってる感じだ。


 最近はとくにほんとうにしんどい。


 昨日も今日も二時間くらいしか寝てないんだもん。

 まじで頭が回らない。


 やっていいこととだめなことの境界もあいまいになることがある。


「すいませぇん」

「もっとシャキシャキしろ!」


 とまぁ。こんなふうに言われたい放題だしやられたい放題だ。


「お前は近衛騎士の仕事をなんだと思ってるんだ!」


 ドカッ。

 俺を突き飛ばしてくるダンバル。


 そこで俺の中のなにかが切れた。


 あぁ、なんで俺こんなにツラい思いしてるんだろう。


 ただ生まれてきただけなのにさ。

 なんでこんなしんどい思いしてるんだろう。


「イカロス。お前は無能で役立たずなんだそ?分かってるのか?この前の防衛作戦の時だってお前だけ戦績が悪かったんだぞ?」

「す、すみません」

「はぁ、申し訳ないと思わないのか?お前そんなに無能で給料はほかの者たちと変わらない。同じ額貰ってるのが恥ずかしくないのか?」

「恥ずかしいです」

「努力が足りないと思わないのか?!」

「思います」

「お前には責任があるんだぞ?!この国と王族をお守りする責任が!役目を果たせ」

「……」


 あー。ほんとにさぁ。なんでこんな現実ってツラいの?

 俺なんか悪いことした?


 前世から今までさかのぼって考えてもさ。

 こんなにボロクソに言われるほどの悪行をした記憶なんてないよ。俺にはさ。


 なんでみんな優しくしてくれないの?救いはないの?


 そんなことを考えたらさ、涙が出てくる。


「うえぇぇぇぇぇぇぇぇん、なんで俺だけぇぇぇぇぇ」

「泣くな!軟弱者!そんなことでお国のために働けるのか?!答えてみろイカロス!お前は男だろ?!覇気を見せてみろ!」


 いつもであればすぐに立ち上がって


『働けません!』


 って答えるだろうがもう限界だった。


「嫌ならやめろ!代わりはいくらでもいるんだぞイカロス!やる気がないなら帰れ!近衛騎士もやめろ!魔法も使えないお前が他でやっていけるとは思わないがな!」


 そう言われてぷっつり切れた。


 いろんなものが切れた。


 キレまくった。心が折れた。


 んで、どうしたんだろう。

 俺は泣きながらとびきりの笑顔を作ってた。

 感情が崩壊したんだろう。


「はい!帰ります!お疲れ様です団長!」


 俺はそう答えて立ち上がった。


 もう限界だった。


 その場で剣と鎧を脱いだ。


「ふん!頭でも冷やしてくるんだな!」


 そう言ってる団長にこう続ける。


「今までお世話になりました。今日限りで近衛騎士をやめさせていただきます。俺には無理です。さよならっ!」


 ぺこり。

 腰を折って最大限のお辞儀をしながら、涙でぐしゃぐしゃの顔で笑顔を浮かべながら絶叫する


「やめまぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁす!!!!!地獄に落ちろ団長!!死ねボケカス殺すぞ!!!」


 気づけば小学生並みの罵倒をしてた。


「あん?」


 俺を見てくるダンバル。


 俺はそんな団長を一度だけ見てそのまんま王城の門から出ていく。

 その道中で声が聞こえるが無視した。


「お、おい?!イカロス?!ほんとうに帰るやつがいるか!!」



 というわけで仕事やめてきました。


 俺は昼からひとりで酒場に来てたのだが、気付けば夜になってた。


「ぷはーっ。うめー」


 俺のストレス源になってたもの全部吹き飛んだおかげかな。


 酒がいつもよりうめぇぜこれが!


 いつもならあのクソ団長に引きずり回されてイヤイヤ飲んでいた酒だったからマズイんだけど、今日ばっかりはうめぇ!なんだこの飲み物は反則だろ!


 全部忘れられるぜ!

 大切なこともどうでもいいことも忘れちゃいけないことも全部忘れられそうだ!


 いやぁ、それにしてもさ。

 仕事やめるって気持ちいいな!快感になっちゃうよ!


 次は仕事やめるために仕事を始めようかなぁ!めっちゃ快感だわ!


 それにしても言ってやったよなぁ、あの団長に。


『やめます』


 このひと言を思い出す。


 ほんとにやってやった!って感じになる。

 そのせいでテンションが爆上がりってわけ。


(うひょー!!これで自由だー!!!!グッバイ労働!ファッキュー団長!俺最強!)


 心の中で叫びながら思う。

 これがラップってやつだろ?俺天才じゃね?


 そのとき机のそばを給仕が通ったので声をかける。


「お姉ちゃん!酒追加で!あとおつまみも追加!」

「少々お待ちくださいね」


 いろんなものを追加注文する。

 今日はベロンベロンになるまで豪遊だ!


 今まで使ってこなかった金をゼンブ溶かす勢いで遊んでやるぜ!


 てかさぁ!あんだけ激務のくせに薄給すぎんだよな!近衛騎士団って!


 月9万だせ?!


 ありえねぇだろ?!俺もう30超えてんだよ?!

 それでお国のためにせっせとあくせく働いて9万?!


 舐めんじゃねぇよボケが!!!!

 世界が世界ならとっくに死んでるよな!


 まぁでもこうも思う。

 そんな仕事しかできない俺の人生ってなんなんだろうなぁって。


 ツラいよママァ。



「ふぃ〜」


 数時間後顔を真っ赤にして盛大にゲロを撒き散らしながら俺は酒場を出た。


 なんだっけ?なんで俺こんなに飲んでんだっけ?


 思い出せないわ。

 でも、なんだかすっごく気持ちいいぞ〜。


 酒場を出て俺はそのすぐ横で倒れ込んだ。

 眠たい。


 すっげー眠たいし気分悪いしもう動きたくないよ〜。


 よし!このままここで40日くらい寝ようかな。

 明日から仕事行かなくていいの最高だわ。


 てわけでここで寝る!

 

【称号:だらしない騎士を手に入れました】

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