第5話 Dランク昇格クエストの話
誓約が完全に終わると俺の手にあった首輪が勝手にミーナの首に装着された。
これで
財布泥棒の孤児から奴隷にランクダウン(?)おめでとう!
そんな俺だったが、しばらくするとギルドの受付嬢に話しかけられた。
話しかけてきたのは昨日対応してくれた女の子だった。
「イカロスさんすみません」
「なに?」
俺が聞き返すと真剣な顔をされた。
どうやらまじめな話らしい。
「昨日の依頼の結果を見て思ったんですが、Dランク昇格試験を受けてみませんか?」
「Dランク昇格試験?」
「はい。冒険者ランクについては説明しましたよね?」
って聞かれて思い出す。
【冒険者ランク】
・冒険者ランクはEからSまで存在する。
・冒険者はランクに対応したクエストまでしか受けることができない。冒険者ランクがDなのであればクエストランクがDまでのもしか受けられない。
・冒険者ランクを上げるにはギルドが用意した昇格クエストを受ける必要がある。冒険者ランクが上がれば次のランク帯のクエストを受けることができる
そんなような説明を昨日受けたのを思い出す。
今の俺はもちろんEランクだ。
Eランク冒険者は時給300ゼルっていう、子供のこづかい稼ぎのような仕事しかできないのが実情だ。
それを考えたら冒険者ランクはもちろんあげた方がいい。
それからこうも続けてくる受付嬢。
「冒険者ランクを上げればギルドを通さずに依頼が受けられることもあります。その場合はギルドの中抜きが入りません」
こそっと教えてくれる。
ギルドってのはぶっちゃけ派遣会社みたいなもんだ。
毎日大量に生まれるクエスト。
それをいったんギルドが集めてそれをクエストボードに掲示。
それを見た冒険者が受注していってギルド側はいろんな手数料で儲けるというのが仕組みだ。
だが、冒険者として名を上げることができれば依頼者から直接依頼されて、金も直接受け取ることができる。
つまりギルドに中抜きされないってこと。
全額俺の金になる。
つまり時給が上がるというわけだな!
こりゃもう冒険者ランクも上げるしかないっしょ!って俺は思う。
「話を聞かせてもらえます?」
「では、こちらへどうぞ」
俺は受付嬢にギルドの隅の座席に案内された。
そこで俺たちは向かい合って座るのだが。
立ちっぱなしのミーナに告げる。
「なにしてる?座れよ」
そう言うと
「えっ?」
驚いたような顔をする。
「立ちっぱなしも疲れるでしょ?俺の横に座りなよ」
騎士団はずっと立ちっぱなしだったから分かる。
ぶっちゃけしんどい。
だから立ちっぱなしの気持ちなんて分かる。
「休める時には休んどきな。座っても俺の奴隷なんだから誰もなんも言わんよ」
ミーナを横に座らせる。
すると
「あ、ありがとうございます。素敵な優しい方ですね、イカロス様は」
すごくうれしそうな顔をしてお世辞を言ってきた。
それから受付嬢と話を進めていく。
「えーっと、Dランク昇格クエストについてなんですが」
そう言ってDランクの昇格クエストの依頼書を見せてくれながら説明をしてくる。
【Dランク昇格クエスト】
クエスト名:Dランク昇格クエスト
目的地:ゴブリンの森
クエスト目標:ジェネラルゴブリン一体の討伐
クリア判定:ジェネラルゴブリンのドロップ品を持ち帰ること
報酬:1500ゼル
説明はほぼこの用紙を読み上げただけ。
まぁそれ以上に説明することもないんだろうけど
(昇格クエストって報酬やすいんだな。まぁしかたないか。まだDランクのクエストだもんな)
「説明はこれで終わりですが、なにか質問などは?」
「いえ、特には」
そう答えるとクエストの依頼書を渡してくる彼女。
そんな彼女に聞く。
「なんで俺の事こんなに気にかけてくれるんです?」
仕事というのは分かるが、話しかけてもいないのに向こうから来て対応をしてくれる理由について気になっていた。
「イカロスさんならもっと上を目指せる、とそう信じてるからです。だから私もサポートしよう、とそう思ってるだけですよ」
そう言ってくる受付嬢。
「おだてたってなんも出ないよ?金ねーから」
ま、いいや。
俺だけ名前を知られてるというのもどうかと思い名前を聞いてみる。
するとこう名乗ってきた。
「アンリです。よかったらまた話しかけてくださいね」
◇
ミーナを連れて歩きでゴブリンの森に向かう。
少し遠い場所なら馬とかで移動したりすることもあるが、ゴブリンの森はそう遠くないので歩きだ。
その道中でミーナが話しかけてきた。
バツの悪そうな顔で聞いてくる。
「お財布を盗んだ件は怒らないんですか?」
なんだ、そのことか。
「別に。金なんてほぼ入ってなかったし。むしろゲロまみれの俺から盗んだこと同情してるくらいだよ?たいへんだったでしょ?」
これは皮肉とかイヤミじゃなくて本心だ。
本気でそう思ってる。
だってゲロまみれの中から得たものが100ゼルなんて同情したくもなる。
「盗んでしまってごめんなさい。怒らないどころか同情までしていただけるなんてうれしいです」
そう言ってきたミーナに言う。
「もう水に流していいよ財布の件は。これでこの話は終わりな」
「は、はい。ありがとうございます。これからはイカロス様のお役に立ちます」
先に歩きながら作戦を立てることにする。
「ミーナはなにができる?」
「え、えっと。気持ちよくさせることは知ってます。やったことはないですが。奴隷ならそれくらいしますよね」
「なんの話してるの?」
「え?」
「は?」
俺たちのなかで話が噛み合ってないようだった。
なので追加で聞き返す。
「戦闘だよ。ジェネラルゴブリンとの戦闘になったら戦う必要があるだろ?それに向けておたがいの立場をはっきりさせておきたいと思ってな。役割分担ってやつだ」
そう言って前世のことを思い出してしまった。
調理実習でカレー作ってたときのことだ。
同じ班の女の子に言われたひとことを、何十年たった今でも覚えてる。
『えー?ニンジンも切れないのー?やらせることないからやってるフリしといてよ』
って。すげぇミジメだった。
みんないろいろやってるのに俺だけなんもやらなかったんだもん。
(もうあんな思いするのはイヤだ。だからしっかり役割分担をしよう)
そんなことを思い出してたらミーナが答えてくれた。
「私は攻撃が苦手です。でも逃げ足は速いのでおとりなんかはできるかと思います」
(スラムじゃ暴漢とかもいたかもだしな。そんな環境だから足が鍛えられたのかもな)
そう考えてから口を開く。
「ちょうどいいな」
俺は脳筋だ。
回避行動や防御行動すべてを捨てて剣を振ることしかできない存在。
それが俺だ。
実際に騎士団時代の評価もこうだった。
だから相性がいいだろう。
俺が攻撃役を担当してミーナがおとり。
ミーナがおとりしてるあいだにがんばってオイシイとこ全部もらってこうぜ。
「期待してるよ?せいぜい俺にもやることが残るようにうまく立ち回ってくれよ?で、終わったらうまいもんでも食いに行こう」
「はい、背中はお任せします。お食事も楽しみにしておきます!」
ミーナは元気よくそう言ってくれた。
それにしても自分の娘みたいな存在がとてもいい子そうでよかったよ。
やっぱ素直な子供はいいよな。かわいい。
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