第13話 新たな目標

 あのあと王国の中にあるスズランの持つ館に移動してそこでスズランの世話になっていた。

 疲れを癒せ、と言われて部屋を割り当てられてて昼まで寝ていた。


 このまま死ぬまで寝てたいとかって思うこともあるが、騎士団時代のロクに睡眠時間を取れなかった俺の体はある程度のところで俺を起こす。


 習慣というのはそんなに簡単に取れてくれないのだ。


 まぁ別に睡眠時間は足りてるからいいけど。


 そんなこんなで俺はスズランの館のロビーに向かったところだった。


「いいところに来ましたね」


 既にミーナがロビーに集まってる状況だった。


 そこでスズランが声をかけてきた。


「イカロス様の国の近衛騎士団長がお亡くなりになったそうです」


 まじで?


 あのクソ団長死んだの?

 

 うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!

 赤飯でも食いてぇなぁ!


 しかし気になることもある。


「誰にやられたんだ?」

「それが分かりません。ただこの国の近くで上半身だけで死んでいるのが見つかっただけです」

「でもあの団長をやれるやつなんてなぁ」


 あの団長、性格は最悪だが腕前は最高だ。


 だから近衛騎士団の団長なんていう立場を任されていたわけなのだが。


 あの団長をやれるとなると相当な腕前を持つやつのしわざか、それともモンスターのしわざとなるが。


「ちなみに死因は?」

「出血死みたいです。状況から考えて夜の王かと」

「倒したぞ?あの犬なら」


 俺たちの前に出てきたから倒したんだがなぁ。


「アンデッド用の倒し方をしましたか?」

「アンデッド用の倒し方?」

「はい。アンデッド系のモンスターはもともと死んでいるので普通には倒せません。知らなかったのですか?」

「知らなかった。騎士は対人が基本だからな。国の中の犯罪者捕まえたりな」


 だからモンスターの知識なんてぜんぜんない。


 モンスターごとに違う倒し方をしろって言われてもわからないよ。知らないんだから。


(冒険者になるなら学びなおしっていうのも必要だな。たいへんだなこれは)


 それから俺は気になっていたことをスズランに聞いてみた。


「ちなみにだが、その話は誰から聞いたんだ?」

「男の副団長から聞きましたよ。急にうしろから何者かに襲われて目が覚めたら団長が死んでいて、その場にはアリシア副団長の装備だけが投げ捨てられていたようです」

「そのアリシアは?」

「ゆくえが知れていませんが装備だけが残ってる時点で死んでいるのではないかと思われます。国外となるといろいろ危険がありますからね」


 うわ、まじかよ。


 アリシア死んだの?


 アリシアは騎士団の中でもよく分からない奴だったが、俺には危害を加えてこなかっただけに訃報を聞くと残念に思う。


 情報をまとめてると更に続けてくるスズラン。


「ところでイカロス様はこれからどうなさるおつもりでしょうか?」


「とりあえずはこの国でもう少し依頼とかを受けてみようかなぁとは思ってるよ」


 俺は無能、そんなことは自分が一番よく分かってる。


 だから自分の身に似合ったそれなりの生活をできたらいいと思ってるし、それだけの稼ぎでいい。


(ただし騎士団だけは二度とやらん)


 スズランが話しかけてくる。


「でしたら商会の依頼を受けませんか?ギルドに抜かれた後の金額では少ないでしょう?追加で報酬を出しますので」

「マジですか?」

「マジです」


 なるほど。

 それならクエスト内容しだいで受けてみてもいいかって思う。


 むしろ


(この人とはこうして縁があるからなぁ。クエストちょっとミスっても許してくれそうな感じあるしな)


 っていう、そんな気持ちもあった。


 知らない人のクエスト受けるよりはちょっと気が楽だよな。

 手を抜いたりはしないけどさ、ミスくらいは誰でもする可能性あるし。


「ちなみにどういう依頼、なの?」

「そうですね。今回みたいな護衛の依頼もありますし、あとはダンジョンの中にいる冒険者に追加の物資を届けるような、そんな依頼もあります」


 へー。そういうのもあるんだなぁ。


「たまにいるのですよ。出発前の見込みが甘くて物資が足りない、とか予定外のモンスターの乱入があって物資が足りなくなった、とか」


 なるほど。


(そういうこともあるか)


 スズランが続ける。


「クエストはギルドに掲載してあります。依頼主が商会名義のものを選んでもらえればそれでかまいません。ギルドからクリア通知がきたら私に連絡してください。本来の報酬から更に上乗せした分の報酬を払います」


「分かりましたよ、っと」


 そう言って立ち上がりながら思う。


(そんなに奮発して大丈夫なんだろうか?)


 まぁでもあんまり言って報酬減らされるのもいやなので言及はしないでおこう。


 って思ってたら顔に出てたようでスズランは答えてくれる。


「あなたはミズサの恩人です。商会メンバーは家族のようなものです。その家族を助けていただいたお方への報酬の出し惜しみはしませんよ」


 なるほどな!


 団長が生きてたらこの言葉100回くらい聞かせたいよな!

 これが人の上に立つ人間ってやつだよ。


 まぁ、そんなことは置いといて。


「んじゃ見に行ってきますわ依頼」

「えぇ、お願いしますね」


 ミーナに目をやって口を開く。


「行くぞミーナ」

「はい」


 その返事を聞いて思う。


 ミーナも主従関係というのに慣れてきたよなって。


 そう思いながらこの部屋を出ようとしたら思い出したように声をかけてくるスズラン。


「宿泊施設ですが、当館をお使いいただいてかまいません。もちろん無料で」


 そう言ってくれるスズラン。


 この館。

 そういえばかなりデカいんだよな。


 元々宿泊施設だったのでは?と思えるくらい広い。

 ということでその申し出はかなりありがたかった。


「助かるよ」


 そう言って俺はこの館を出ていきながらミーナに目をやった。


「夜の王死んでなかったみたいじゃん」

「ごめんなさい、アンデッドということを失念してました」

「別に責めてはないけど。ちょうどよかったしな」

「ちょうどよかった?なにがですか?」


 まぁいいや。本題に入ろう。


「俺さぁ、犬飼いたいんだよな」


 日本にいたときはいろいろな理由で飼ったことないんだけど。


「えっ?」

「アンデッドって餌代かからないよな?」

「ま、まさかあれを飼うつもりですか?ほ、本気で言ってるんですか?」

「もともと死んでるからなにがあっても死ぬことないってペットとして最高じゃないか?」


 これって逆転の発想ってわけ。


 死んでるってことはもう死なないってこと。


「は、はぁ。まぁ、いいと思いますが」

「ワンちゃんがほしいですパパ、くらい言った方がかわいげがあるぞ?」


 というわけでしばらくはあの犬を捕まえるためにがんばることにしよう。

 

 さいわいテイム用のアイテムがこの世界にあるし、噛みつかれることはない。


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