第11話 やったか?!

 剣を【武装強化】して俺は夜の王と向かい合っていた。


 ひたっ。

 ひたっ。


 足を動かして俺たちの方に近づいてこようとする夜の王。


 そして一瞬の静寂。


 俺も夜の王もどっちが先に動くかをギリギリまで見て。


 その結果、先に動き出したのは夜の王。


(くる!)


 ダッ!


 突進してくる夜の王。


 その速度は犬にしては速い方だろう。


(はやっ!)


死牙デスファング


 夜の王は大きく口を開いてその鋭い牙を見せながら突進して来る。


(速い、しかし犬にしては、だ)


「遅い!」


【スラッシュ】


 体を横にずらして攻撃が当たらない位置まで移動してからそのまま剣を地面と水平に振り抜いた。


 頭からしっぽまで一刀両断。


(手ごたえはあった。やったか!?)


 俺の横を通り過ぎていった夜の王。

 しばらく進んだところでピタリと動きを止めていた。


「な、なにが起きたんですか?今」

「な、なんにも見えなかったけど、あの兄ちゃんは大丈夫なのか?」


 アンリとミズサの話す声が聞こえてきた。


 それに答えるように時は流れ出した。


 グラッ。


「……」


 ドサッ。


 真横に体を倒してその場に倒れ込んで動かなくなった夜の王。


「【鑑定】スキルによって生命活動の停止を確認しました。討伐です」


 ミーナの声が聞こえる。どうやら倒せたようだ。


「まだまだ遅いな。ワンちゃん。人間様に手を出すにはまだ速さが足りないな」


 剣に流していた魔力を止めて【武装強化】を解除。


 それから俺はドロップを確認してみたが


「アイテムはドロップしてないか」


 せっかくモンスターを倒したんだからドロップのひとつくらい期待したいところだったが。

 ドロップがないのであればしかたない。


(ま、いいか。今回はこいつの撃破が依頼じゃないしな)


 走って荷車まで戻り飛び乗った。


 ポカーンと口を開けてたミズサに口を開いた。


「夜の王は倒した。先に進もう」

「え、あ、うん」


 そんな返事をしながらまたミズサが馬車を【自動モード】にした。

 また進み始める俺たち。


 それからアンリたちと話し始めた。


「このおにいさんはなんなの?い、今の攻撃『遅い!』って切ってたけど遅かった?」


 なんて会話をしてて俺は口を挟む。


「遅かっただろ?あんな攻撃」


 俺が普段相手してる団長や騎士団のメンバーと比べたらぜんぜんマシだよあんなの。

 あいつらは至近距離で剣を振ってくるから。


 速さには慣れてる。


 それに比べたらあんなワンちゃん赤ちゃんみたいなもんだよ。


「え、えっと……」


 と俺の武器に目をやってくるミズサ。


「そ、それは武器なの?」


 そう聞いてくるミズサの目は俺のボロボロの剣を見てた。



名前:刃こぼれした剣

ランク:-

説明:価値のないゴミ



「お察しの通りゴミみたいな武器だけど、犬倒すくらいなら問題ないよ?」


 それ以上でもそれ以下でもない。


 ぱちぱち。

 大きくゆっくりとまばたきしてからアンリに話しかけるミズサ。


「この人やばくない?」

「なにがやばいんだ?」


 そう聞いてから思った。


(もしかして30にもなってこんな昇格クエスト受けてるのがやばいってことか?)


 自分が一番分かってるけどな。そういうことは。


 本来なら冒険者としてやっていくならCランク昇格クエストは20代で終わらせるらしいし。


(そう考えたらほんとに今更な冒険者生活だよなぁ)


 って思ってたらミズサが口を開いた。


「え?!自覚ないの?!」

「なにが?」

「お兄さんは今すごいことしてたんだよ?!」

「すごいこと?」


 なにがすごかったんだろう。

 俺はなにもすごいことなんてしてないと思うけど。


「武装強化なんて子供でもできるし。俺なんか特別なことした?」


 ぱちぱち。

 まばたきしてた。


 それからアンリが追加で説明をしてきた。


「あ、あのですね。イカロスさん。普通は【武装強化】でもあそこまでできないんです」


 と説明してくるアンリ。


「うっそだぁ。俺団長にも言われたよ?俺は武装強化がへたくそだって。だからたいしたことないってあんなの」


 そう言うと顔を見合わせるアンリとミズサだった。


 よく分かんないよね。

 俺は武装強化が苦手なのに、それがすごいだなんて。


 でもお世辞だとしても言われた方としてはうれしかったりするけどさ。


 まぁ、そんなことより。

 話があるな。


「ミズサ?今のって追加報酬とかないわけ?」


 俺は幻覚を解除して夜の王まで倒した。

 追加報酬というのはないもんなのかな?


 と思ったりするワケだが。


「追加報酬?命を助けられたのはたしかだけど、うーん。王国についてからでもいい?その売れ行き、とかっていうのもあるからさ。そもそも私に報酬の決定権ってないんだ」

「うん。そうか、ならそれでもいいよ」


 商会って言うくらいだ。


 商会としてどこまで出せるかとかっていうのはあるんだろうし、その商会の判断を待ってからでも遅くないか。

 むしろ商会が俺の活躍を評価してくれて更に報酬金があがるかもしれない。


 期待して待ってよう。


 それで俺たちはどんどん進んでいく。

 目的地の王国に向かって、だが。


「それにしても無茶しますよね」


 ミーナが俺の左手の手当をしてくれてた。


「痛くないんですか?これ」

「別に。痛いのは慣れてるよ」


 だって


「俺たち近衛騎士ってさ。ぜったい王族に逆らえないようになってるんだよ。だから拷問とかされても情報を吐かないように痛みには慣らされたよ」


 そんな背景があるから正直この程度の痛みはどうでもいい。

 あとは幻覚魔法などを受けた時は体のどこかを傷つけろってずっと言われてたから、体がかってに動いてた。


「たいへんなんですね、近衛騎士って」


 俺の話を聞いてたらそう言ってくれるミーナ。


「今思えば大変だったよな」


 騎士団にいたときは異世界の仕事なんてどれもあんなものだろうと思ってた。


(けどあきらかに騎士団は異常だったよな)


 そう思いながら進んでいたときだった。

 うしろからなにかの音が聞こえてくる


 ドタッ。

 ドタッ。

 ドタッ。


 その足音を聞いて振り返った。


「なんだあれ」


 俺の視線の先には数十頭の馬がうっすらと見えていた。


 ミズサに聞く。


「友達か?あれは」

「わ、分からない。でも友達じゃないのはたしか!」


 そう言ってミズサは前の席の方に戻って行きながらこう言ってきた。


「馬を加速させる。攻撃されたら攻撃し返して。攻撃されるまでは手を出さないでこっちが悪くなるから」


 そう言って席に座って速度を速めるミズサ。


 しかし


(これは追いつかれるな)


 とうぜんだが俺たちの馬は荷車を引いてる。

 でも向こうはなにも引いてない。


 馬だけで走ってきてる。

 だから結果がどうなるかなんてあきらか。


「追いつかれるのは時間の問題だな。ミーナ、戦闘準備をしておけ」

「はい。準備しておきます」


 まったく、今日は次から次に問題が起きる日だな。


 さすがにこれで終わりにして欲しいが。


 まぁでも、なんとなくあいつらの正体は分かる。

 この状況で追いかけてくる奴らなんてあいつらくらいだろう。


(ついに本気を出してきたってわけか。騎士団)


 それと


(裏切りやがったな、アリシアのやつ)


 アリシアは俺を売ったようだな。

 コミュニケーションがヘタでよくわからん奴だったが、味方だと思ってたんだがな。


「ざんねんだ」


 どうやら仲間だと思ってたのは俺だけらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る