第12話 必殺技を使いましょう

「もっと速度はあげられませんか?!」


 アンリがミズサにそう声をかけるけど。


「ムリだ!これ以上はあげられない!」


 そう返ってきて俺は声をあげる。


「王国まであとどれくらいだ?」

「30分くらいでたどりつけると思う!」

「そのまま走り続けろ」


 そう言いながら俺は後ろから来る馬に目をやった。


 とりあえず王国周辺までたどり着ければあいつらが手出ししてくるようなことはないだろう。


 そのとき。


「攻撃、きます」


 ミーナの声を聞いて馬の方を見たら


「火矢か」


 火矢が数本飛んできた。


「ウォーターアロー」


 ミーナがその弓矢に対して水属性の魔法矢を放ち無効化を狙ってくれてはいるけど。


 向こうは何人もの人間が火矢を放っているのに対してこちらはミーナ1人だけ。


 はぁ、やりたくなかったけど。

 仕方ない。


 アイテムポーチにいれていた石ころをいくつか取り出す。


【武装強化】


「ほんとごめん、お馬さんたち。お前らに罪はないけど寝ててもらう」


 武装強化した石ころを馬の足に投げつける。


 だが。


「はずしたか」


 俺は今荷車というとんでもなく不安定な場所の上にいる。

 それに向こうの馬も走ってる分どうしても狙いがズレてしまう。


「残弾は、30くらいか」


 アイテムポーチに入ってる石の数はそんなものだった。

 それで追ってくる馬全部を落とすのは正直しんどい。


「ミーナ。火矢の方の対処は出来るか?」

「なんとかできるかと思います」

「俺はできるだけ馬を狙って行動の遅延を狙う。それで火矢の総量をなんとか減らそうと思う。ごめんな負担かけて」

「分かりました。おまかせを。それと負担だなんて思っておりません」


 そう言ってくれるミーナを信じてそのあとも石ころを投げ続ける。


 石ころ投げもやってると意外と狙いが定まってきたようで何頭かの馬の足を潰すことに成功した。


 そして、残りは3頭。

 3頭の馬が俺たちを追ってきていた。


 こいつらは馬に乗った騎手が剣で俺の石ころを切りながら追ってきていた。


(【鑑定】スキルで俺の石の軌道を先読みしてる、とかってところか)


 そんなことができるのは俺は数人しか知らない。

 あいつらが誰なのかがこれで確定した。


「やっぱり裏切りやがったなアリシア」


 あいつが団長に俺を売りやがった。


 この3人は団長とその金魚のフンである副団長ふたりってところだろう。

 石を叩き落としながら追ってこれるとなるとそれくらいしか思い浮かばない。


 そうして、だんだん近付いてくる馬。


 ミズサが声を上げた。


「あと10分くらい!」


 10分か。

 だが、その前に追いつかれる。


(万事休すか)


 俺にはもう石ころがない。


 ミーナも攻撃魔法は使えずに飛んでくる火矢の迎撃くらいは出来るが、という感じだし。


 決め手に欠けている。この状況で追いつかれたら最後は


(殺すしかなくなるな)


 しかし、俺としては個人的な事情でアリシアを殺したくは無い。

 あいつには良いようにしてもらったからな。

 最後に裏切られた、とは言えだ。


 あと不安要素があるとしたら。


(団長には勝てる気がしない。俺弱いから)


 だから直接の戦闘を避けて距離を離し続ける必要がある。


 どうしたもんかと思いながら俺は立ちあがった。


「な、何をするつもりですか?」


 そう聞いてくるミーナに答える。


「地面を割る。とにかく馬を止めないと追いつかれるからな」

「は?わ、割る?」


 ボカーンとしてるミーナを横目に見て俺は荷車の枠に足を置いた。


(久しぶりにやるな。魔法が使えない俺に許された地形変動技)


 ふぅ……。


 深く深呼吸してから


(出し惜しみはしない)


 そのまま荷車の外に飛び出して空中で1回だけ前転して。


【武装強化】を足の装備に使う。



名前:皮の靴

ランク:---

説明:神域レベルの武装強化によりこの靴は神域のレベルと成り果てた。全力で蹴りつければ大地も砕ける



 そのまま空中で前転して地面にかかと落としを使った。


 必殺技の名前を叫びながら


「イカロスブレイク!!!!」


 バキッ!


 ひび割れる大地。


 ドコォッ!


 地面が大きく陥没した。


 俺の前方に隕石が落ちたかのようなクレーターができあがった。

 直径30メートルくらいの大穴。


「ヒヒーン!!!!」


 大きな陥没にビビったのか騎士団の馬が止まった。


(成功したか)


 クレーターを確認してから俺は振り返って


 ダッ。


 走って荷車に追いついて飛び乗った。


「よっと」


 今のは俺たちの逃げ切りを確定させる最後の一手となった。


 あんなでこぼこの道を馬は全速力で走って来れない。


 遠回りするにしても最短距離を通れないからかなり時間のロスになる。


「え?な、なんですかあの穴は」


 クレーターを見てつぶやいてるミーナに答える。

 なぜかドン引きしてるような顔をしてる。


 たぶん、ねちっこい騎士団のメンバーにドン引きしてるんだろう。


「全力のかかと落とし。名前はイカロスブレイク」


 でも疲れるんだよな。これ。


「はぁ」


 その場に座り込んだ。


 チラっ。

 うしろを見たが馬はクレーターを大回りしようとしていたようだった。


(俺たちの勝ちだな)


 俺たちはすでにもう王国の門のすぐそばにきていた。


 そして、門が開いていた。


 門の先からは光が漏れてた。


 日が少し登り始めたくらいの時間なようで、日の出の光がこっちまで漏れているようだ。

 そんな日の出を見れて安心した。


 陽の光ってさ。すごい安心させてくれる。


「仮にアイツらが騎士団だとしても他国までは手が出せない」


 俺は逃げきれた。

 今はその嬉しさを噛み締めようと思う。


 アンリに目をやった。


「や、やりましたね!イカロスさん!逃げ切りですよ!逃げ切り!計画は無事に成功したんです!!!」


 俺も笑顔を浮かべてアンリにお礼を言った。


「ありがとうアンリ。俺はこれで晴れてあの騎士団から逃げ切ることができたよ!」


 少し気が早いけどこれからの生活について考える。


(なにしようかなぁ、やっぱ冒険者を続けるのは確定なんだけどいろいろやりたいことがあるんだよなぁ)


 そんなことを考えてると。


 俺も涙が出てきた。


 こんなことで泣くような人間じゃないと思ってたんだけど。


 ホッとしたら涙が止まらなくなってた。


 俺はあのクソ騎士団をやっと辞めることができたんだ!ってその安心感が俺に涙を流させる。


 はぁぁぁぁぁ、ほんとに、うれしぃぃぃぃぃぃ!!!!


 そのまま俺とミズサたちはそのまま国の中に入っていった。

 するとすぐに俺たちを出迎えてくれる人物に出会った。


 ミズサはその人に会うとすぐに荷台からおりた。

 それで俺たちにも声をかけてくる。


「おにいさんたちも降りて。こっからは別の人が荷車持ってくからさ」


 ミズサがそう言うと確かに別の人が荷車を持ってった。


 それからミズサは俺たちを出迎えてくれた女の人の前で片膝をついて俺たちを紹介してくれた。


「スズラン商会長。こちらの方々が私の護衛についてくれた人達です。この人たちがいなければ今夜私は死んでいたでしょう」


 と紹介してくれた。

 んで、商会長と呼ばれた女の人は俺たちに近寄ってきた。


 すげぇ、大胆な服装の人。


 黒い髪を伸ばして着物(?)っぽい服装に身を包んだ人。

 胸元がのぞいてて大人の女って感じの人。


 その人が口を開いた。


「ウチのミズサの護衛をしてくださりどうも助かりました。私はグリモア商会長の

スズラン。どうぞお見知り置きを。状況が詳しくわかりませんのでお話をこのあと聞かせてください」





【あとがき】

ここまで読んでくださりありがとうございます。


一章の騎士団離脱編は実質これでおわりです(正確にはもう1話ありますが視点変わります)


少しでも面白い。続きが気になると思っていただけたらフォローや星3レビューをいただければうれしいです。



補足:

追いつかれた場合も勝てます。

今までの上下関係で団長には勝てないと思い込んでるだけです。

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