第10話 Cランク昇格クエストスタート
【自動モード】
グリモア商会の商人がスキルを使い馬車を自動で走らせた。
そうしながら
「よっと」
荷車の外枠を片手で掴んで乗り越えてきた。
そのまま荷物の上を通ってきて俺たちの会話に加わった。
「ここに来るまでにも名乗ったがあたしはグリモア商会の商人のミズサだ。短い時間だろうが、よろしくな三人共」
俺たちに話しかけてきた。
「あぁ、短い時間だけど、こちらこそよろしくな」
そう言うと人なつっこい笑顔を浮かべるミズサ。
「それよりサンキューなおにいさん。依頼受けてくれて。このクエストは夜のクエストだから受けてくれる人が少なくてな。ま、とくになにも起こることはないだろうからのんびりしててくれよ」
そう言いながら先に前金の7500ゼルを渡してくる。
「へぇ、さぼってていいわけ?楽勝だな」
そのあとアンリが追加説明してくる。
「この手の護衛クエストが昇格クエストに設定されているのは主に夜戦に慣れてもらうため、ですから。しかしそんな依頼でもまれにあるんですよね」
「なにが?」
って聞き返すとミズサが答えてくれた。
「夜になるとたまに出るんだよなモンスターが。さいわいあたしは見たことがないが、【夜の王】っていう」
「夜の王?」
「夜って暗いだろ?そんな暗闇の中から襲ってくるって話だよ。まぁ出会わないと思うけどいちおう教えとくね。これが出た場合は夜のクエストはいっきに難易度があがるんだ。これと出会うことがあるから夜は難易度が高いって言われてる。出なかったら簡単だけどね?」
そう説明してくるミズサ。
なるほど、夜の王、ね。
(これさぁ、フラグ立てられたってやつだよな。出現フラグってやつ)
困っちまうよなぁ、ほんとに。
まぁいいや。
立てられたもんはしかたない。切り替える。
「夜の王が出たらウチのミーナちゃんが退治してくれるってよ」
「イカロス様がそう言うのでしたら最善は尽くします」
とのことらしい。
そんな会話をしていた時だった。
スン。
「なんかニオわないか?」
みんなに聞いてみた。
さっきからかすかにニオイはしてたけど、なんだろうこれ桃、みたいな?
なんか急にはっきりとニオウようになった気がする。
「荷物のにおいじゃないか?」
ミズサがそう答えた。
「くだものとか積んでるからな。それのにおいだと思うけど」
うーん?
そうなんだろうか?
でもなんか急ににおってきたんだよなぁ。
「私の髪の揺れを見てもらったら分かるけど、風向きが少し前に変わった。急ににおうようになったのはそういうことだろう」
なっとくのできる言葉を返してきた。
そうなのかなぁ?
それよりも先に夜の王についてもう少し聞いておくことにするか。
ミズサがていねいにフラグを立ててくれたわけだし。
「夜の王ってのはどんなことをしてくるんだ?」
「それがよく分からないんだ。目撃者がほとんどいなくて、一年に一度くらい大量に冒険者や商人が消えるっていう噂があるだけでそれ以外のことはわかってない」
ふーん。
なるほど。
その話を信じるならぶっちゃけ天災、とでも言った方がいいのかもしれないな。
しっかし。
そんな話を聞きながら思う。
「ヒマだな」
めっちゃ静かなんだよ。
虫の鳴き声すらしない。
ん?
「おい、なんかおかしくないか?」
3人に声をかけた。
「なにが?」
ミズサはそう聞いてきたが、ミーナはすでに気付いてるようだった。
「なんかおかしいですよね。あまりにも静かすぎますよ」
俺と同じことを思っていたらしいミーナ。
やっぱ優秀だなこの子。
そういうとこまで分かっちゃうんだもん。
「話を戻すが夜の王ってのはさ、どんなことをしてくるわけ?」
俺はミズサに聞いてみると。
「そ、そんな夜の王は遭遇確率めっちゃ低いんだぜ?まさかこのタイミングで出会うなんてことないはずだ。別になんにもいない、周りには平和な草原が広がってる」
あのさぁ。言っていいかな。
たぶんそのまさかが今起きてるんだよな。
ミーナに目をやる。
「敵は夜の王と仮定して動く」
「了解」
そう言いながら俺とミーナは立ち上がった。
不安定な足場だがしかたない。
少しでも遠くまで見えるように目をこらしてみたが、何も見えない。
まぁこのままなにも起きなければそれでいいんだが、そんなわけにもいかないだろうな。
だって、あきらかにおかしいから。
「ミズサとアンリは戦えるのか?」
「あたしは無理だぜ」
「私は自衛くらいです」
なるほど。
じゃあ戦えるのは実質俺とミーナだけか。
「ミーナ、なにか分かるか?」
「私の【気配察知】にはなにもかからないんです」
なるほど。
気配察知は気配のあるやつにだけ有効なもの。
それになにもかからないとなれば、初めからいないか、気配を感じさせないやつ、となる。
「アンデッドかもな。夜の王ってのは。アンデッドだけは気配がない」
現状はモンスターの名前しか分からないが、とりあえず推理していこう。
あとはさっきからにおっているものが気になる。
この少し甘い感じのニオイが少しずつ強くなってる。
(もしかしてニオイで幻覚を見せてる?)
そう考えてナイフを取り出した。
「な、なにを?」
俺の様子を見て聞いてくるミーナ。
「幻覚を見てる可能性がある」
ナイフを逆手に持って軽く左手を傷つけた。
(痛みを感じさせる。古典的だけど幻覚をいちばん手軽に解除できる方法だ。俺は魔法が使えないからしかたない)
突き刺すような痛みで俺の意識は現実に帰ってくる。
かかっていた幻覚が解けた。
(なるほどな。このにおいはそういうことだったか)
俺の視線の先には闇に溶けるようにその場に立っていたモンスターが見えた。
その口からニオイが流れ出てるようだ。
「ミズサ。今すぐ馬を止めろ。進行方向に巨大なモンスターがいる」
【手動モード】
ミズサはなにも言うことなくすぐにモードを切り替えて馬を止めた。
ひた。ひた。
向こうも俺たちに気付かれたと思ったのか距離を縮めようとしてきた。
その姿は
「やっぱりアンデッドだったか。このままだと自分から殺されにいってたな」
「な、なにが見えてるんですか?なにもいませんよ?」
そう聞いてくるミーナに答える。
「フラッシュを使え。幻覚で姿を見えなくされてる」
フラッシュは闇に隠れたものや幻覚に対処することができるもの。
「【フラッシュ】」
ミーナが魔法を使うとはっきりとモンスターが映るようになっていた。
名前:
種族:アンデッド(元フェンリル)
体長:5メートル
レベル:1378
補足:この世界に一匹しか存在しないユニークモンスター。口から吐くニオイで敵に幻覚を見せることができる。
「ふぇ、フェンリル?!」
武器を取りながら荷車からおりた。
「心配するな。ただのでかい犬だ。倒して先に進むぞ。騎士団が追ってきてないとも限らないからな」
ウルフ型のモンスターはすべて犬だ。
騎士団メモにもそう書かれてるからな。
『犬ごときに負ける軟弱な騎士など我が騎士団にはいらんぞ!』
かつて言われた言葉がよみがえる。
倒す。
一瞬で片を付ける。
強いモンスターには勝てないけど犬ごときに俺は負けんよ。
【騎士団メモ】
・四本足で歩くものはすべて犬と思え。負ける恥知らずはいらん。
・突進してくるものはすべて猪と思え。負ける恥知らずはいらん。
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