第32話 最終試験は

翌日。

同じように試験会場に向かったんだが。


「おっせぇな」


イライライライラ。


一時間待っても試験官が来ないのである。

人を呼び出しておいて、なんなんだこの扱いは。


それとも


「まさかもう試験は始まってて、時間がきたらお前ら全員不合格だ。とかそういうパターンじゃないよな?」


そんな手でこられたらもう終わりだよ。


そんなことでイライラしながら俺は周りを見てた。


同じようにここに集まった奴らがイライラしだした頃だった。


カツカツカツ。

昨日の試験を担当していたおっさんが、頭から血を流しながら現れた。


(おかしいな。第三の担当はシエルだって言ってたのに。ってかなんで血だらけ?)


そう思ってたら口を開くおっさん。


「試験を担当するはずだったシエルが何者かに誘拐された」


ザワザワ。


受験生たちが騒ぐ。


「よって、第三試験は中止だ」


俺の横にいた受験生たちが声を上げた。


「これが試験だったりしないよな?『動揺』したから失格だとか言わないよな?」

「そんな悪趣味な試験はせんぞ」


俺の心配は杞憂に終わったようだ。


「だが、これより最終試験を行う」


おっさんは口を開く。


「シエルの捜索を最終試験とする。見つかれば全員合格、見つからなければ不合格。参加するものはここに残れ。命の保証はしないがな」


ひとり手を挙げて発言する。


「誰にさらわれたんだ?」

「分からんが手練なのはたしかだ。だから、試験に参加して死んでも自己責任だ」


ザワザワ。


何人かは試験会場を後にしていった。


そして残ったのは俺を含め数人。

元々10人くらいしか来てなかったけど。


俺もひとつ質問することにした。


「昨日酒場に兵士が詰めていたがなにか関係があるのか?」

「この際だから話しておこう。何者かは分からんが怪しいヤツがこの国に紛れ込んでいる。兵士はその捜索に充てられたものだ」


そう言われて最終試験に参加する奴らは準備を始めた。

戦闘準備だ。


「はぁ、ほんま頼むわ。こんなん初めてやなぁ」


俺の横でおっさんがそう口にしていた。


どうやらこの試験を何度も受けているやつらしいが、こんなことは初めてらしい。

何かの演出でもないようだな。


(やっかいなことが起きているということか)


俺はそう認識して改めて気合を入れることにした。


「シエルが誘拐された時点で帝国の出入口は即座に封鎖した。よって国外には出ていないはずだ」


そう口にしたおっさん。


内心で俺はこう思った。


(やるじゃん)


誘拐されたのはマイナスだけど、その後の対処でプラマイゼロってところだろう。


おっさんと受験生たちが散り散りになった。

残された俺のところに近寄ってくるフェル。


俺はそんなフェルに聞いてみた。


「昨日言ってたフードは?」

「近くにはおらんな。まぁ、かすかにじゃがにおいは残っとるが」

「めっちゃ鼻いいな」

「フェンリルじゃからのぉ」

「で、どこにいるんだ?」


そう聞くとトントンとつま先で地面を蹴った。


「ここ?」

「地下」


そう言われましても。


「どうやっていくんだよ。地下なんて。この前団長に追われたときみたいに地面叩き割れとでも言うつもり?」

「やめてくださいね。街が壊れてしまいます」


そうやって止めて来るのはミーナだった。


あの時のことを思い出したらしい。


だが、この世界にマンホールがあるとか下水道があるとかって話はあんまり聞いたことないけど。


「そこで小娘の出番じゃろうて。便利枠の小娘がおるじゃろ」


フェルはそう言うとミーナを促した。


ミーナは目を瞑って集中すると


【共有】で俺に情報を渡してきた。


「なるほど。相変わらず優秀だなミーナちゃんは」


そう言って俺は歩き出した。

どうやら近くに地下への入口があるらしい。


とりあえず試験会場を出て俺は近くの民家を訊ねた。


ミーナに言われた通りだとこの民家の中に地下に続くルートがあるらしい。


コンコン。

ノック。


「無人ですよ。入りましょう」


ガチャっ。

ミーナが扉を開けてそのまま中に入っていった。


(さすが盗賊。人の家もズカズカ入っていくな)


俺も歩いてるとミーナが言ってきた。


「そこ罠です。踏まないように」


「え?」


カチッ。


床のスイッチを踏んだ。


ヒュン!

真横から弓が飛んできたが、それをキャッチ。


「あっぶねぇなぁ。人様に弓矢を放つなよな。当たったらどうするんだよ」


ポカーンと俺を見てくるミーナ。


「斬新な罠の対処方法ですね」


ポイッ。

弓矢を投げ捨てた。


カンっと、響くような音がした。


「なんだ今の音」


違和感があった。

近寄って床をノックしてみる。


カンカン。


違うとこをノックしてみる。

コンコン。


音の感じが違う。


【武装強化】


ブーツを強化して床に叩きつける。

バキャリ!


すると穴が出来た。

そこには下に続く階段が現れた。


俺を見てくるミーナ。


「どうした?」

「いや、こういうのって普通スイッチとか探すんじゃ?」

「スイッチを探す手間が省けたじゃないか」


はっはっは。


笑って俺はその中に入っていくことにした。


さて、俺を見ていたフードちゃんでも探しにいきましょうか。

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異世界に転生して30年が経過した底辺の近衛騎士ですが団長に「やる気ないならやめちまえ」と言われたのでやめて冒険者になって無自覚チートで無双します にこん @nicon

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