第31話 評価される
適当に材料をとっていく。
メニューは野菜炒めにすることにした。
ちなみに作った料理の審査をするのは受験生ごとに違うようだが俺の場合はこのおっさんが審査するらしい。
でどういうわけかおっさんは俺に興味を持ったらしく俺の材料選びに付き合っていた。
「なんで俺に着いてくるんだ?」
「俺は長いことここの試験官をやっているがお前のように自分で食って毒味するやつは初めてだからな。その毒味がどれほどの効果なのか気になってな」
「だいたいの毒は分かる」
そう言うと目を細めるおっさん。
「ほう。面白いなお前。元騎士と言っていたが、どこの騎士だ?」
自分の出自を話す。
すると
「ほう。あそこの騎士か。あそこの団長は根性系で有名だったからな」
「知ってるんだ」
「あー。あいつのことで面白い話を聞かせてやろうか?一度この試験を受けに来たことがあるんだよ。落ちて近衛騎士になったらしいが」
(落ちとるんかい!)
「第一試験でそのまま落ちてもう来ることは無かったな」
ってことは俺はとりあえずあの団長より1歩先に進めたということか。
そんな団長の過去を聞きながら俺はおっさんに目を向けた。
「ちなみに嫌いな食べ物とかある?」
「俺はにんにくが嫌いだぞ」
なるほど。
一度選んだにんにくを元に戻すことにした。
その様子を見て俺を見てきたおっさん。
「あーっ。つい話しちまったよ。策士だなお前」
「ちなみに評価する審査員の変更とかはないよね?」
「ないぞ。しかしだな公平性の問題もある。俺はこれ以上お前には着いていかない。思わずペラペラ話してしまいそうだからな」
そう言っておっさんは他の受験生のとこに向かっていった。
(評価項目は毒があるかないか、それだけらしいが。味の好みもできるだけ考えた方がいいだろうな)
少しだけ評価が上がるかもしれないし。
内申点というのは大事なのだ。
そうして俺は適当に野菜炒めを作った。
ちなみにもちろん料理については全員分完食できるわけもないのでひと口ずつだ。
大事なポイントは毒の入った食材を使ってないかどうかがいちばん大事で。
味は二の次ってやつ。
「残念。微量な毒がある食材だなこれ。減点」
「そ、そんなぁぁぁぁ」
俺の前にいた男がそうやって減点を食らっていた。
それで採点が終わったらしく俺の番になった。
コトっ。
料理の載った皿を机に置くとおっさんは俺の差し出した食材表と見比べる。
「毒入りはなしだな。素晴らしい」
おっさんがそう言うと審査員が全員俺たちの方を見てきた。
「毒入りがなし?!」
「ほ、ほんとなんですか?!」
おっさんが頷いた。
「微量な毒もすべてなしだ。すべて毒なしの食材を使っている」
受験生達からも声が上がってきた。
「う、嘘だろ?!微量な毒もなし?!」
「【鑑定】スキルに反応しないような少量の毒もあるのに?!」
「ど、どうやったんだ?!あいつ!」
「普通は無理だろ?!毒無しの食材をすべて弾くなんて」
そんな声が聞こえるなかおっさんは野菜炒めに手を付け始めた。
「ふむ……」
こういう料理なんて初めてしたけど、どうなんだろうな?
一応香辛料とかドバドバにしておいた。
ひと口しか食べないと聞いたからそのひと口で満足出来るように濃いめの味付けにしてみたが。
「むむむっ?!」
おっさんがうなる。
ここまで無言で料理を食べていたおっさんが初めてうなった。
「おい、坊主。お前、名前はなんだったか?」
そう聞かれて俺は名乗る。
「イカロス」
「そうか。イカロスか」
おっさんはそう言って右手の親指を立ててきた。
サムズアップ。
つまり、?
「お前の料理はすばらしいぞ!この濃いめの味付けがすばらしい!」
ひと口しか食べなかったおっさんなのに、そう言って俺の野菜炒めだけはどんどん食べていく。
そして、食べ終わってこう言ってきた。
「満点だ。お前は合格確定だな。こんなうまいものは初めて食べたぞ。こんな試験に何の意味があるのかと思うかもしれないが、さりげなく俺の苦手なものを聞いてきたお前の協調性というものは高く評価されるべきだろう。なかなかできることではない。お前を仲間にするやつがうらやましいくらいだな。他人を思いやる心、それは何よりも大事なものだ」
(このお料理対決にそこまで深い意味があったのか)
ぜんぜん考えてもいなかったが、なんとか俺は合格したらしい。
◇
第二試験合格の話を聞いて俺は道を歩いて宿に帰ることにした。
その道中。
「なんか食べて帰るか」
フェルたちに話しかけてちょっと早めの夕飯にすることにした。
そうして酒場に向かったときだった。
ガチャガチャ。
目に入ったのは、鎧。
剣。
弓、槍。武器。
「なにこれ、入る場所間違えた?」
俺はそう思っていたがすぐに給仕がきた。
「お席に案内しますよ。こちらへどうぞ」
と、すぐに案内してくれることになった。
いつもなら最低限装備は外して酒場にはくることがマナーなのだが、全身鎧を包んで戦争にでも行くのか?みたいな人間がいっぱい詰め込まれていた。
(なにごと?)
そう思いながら席について観察しているとアーマー姿の奴らが会話を始めた。
「話は聞いたよな?」
「あぁ。なんか動いてる奴らがいるらしいしな」
そんな話が聞こえてきた。
動いてるヤツら?ってのが分からないけど。
「はぁ、ほんとイヤンなるよな」
そう言ってアーマー姿のやつらは酒場を出ていった。
なにか始まるんだろうか。
そう思っていたらフェルが口を開く。
「注意した方がいいぞイカロス」
「ん?」
俺がそう聞くとフェルはこう言ってきた。
「選抜試験でなにか起こるかもしれんのじゃ」
「なにか?ってなにが?」
「分からんが年寄りのカンみたいなものじゃなー」
そう言ってるフェル。
なにか勘づいているのだろう。
「今日お前を見つめてたフードのやつがいた。あいつなにかしてくるかもしれん。気をつけておくことじゃな」
「ほんとうに俺を見つめてたのか?」
「うむ」
フェルがうなずくとミーナも口を開いた。
「あれはイカロスさんを見つめてましたよ。ずーっとイカロスさんの方を見てましたし」
ふーん。
ふたりが同じものを見て同じことを言うのなら
(誰かに見られてた、か。それとも今も見られてる?)
そう思ってキョロキョロ周りを見てみるが。
「あの匂いのやつはここにはおらん。そこは安心していい」
フェルがそう言ってくれた。
「そうか」
その言葉を聞いて少し安心して俺は食事に手をつけていくことにした。
フードについては色々と考えることがあるけど。
それは置いといて。
今日も飯がうまい!
俺は食事の席では余計なことは考えない主義なのだ。
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