第30話 第二試験

翌日。

俺は試験を受けに再度闘技場に来ていた。


(今日はやっぱりいないんだな)


パーッと見た感じここにはシエルがいなかった。


(この前話を聞いた通りか)


今日は彼女の担当じゃないらしいし、別の人が試験を担当するとのことだったな。


(なにするんだろうなぁ、試験)


試験の内容が事前に知らされることは無い。

公平性の問題もあるしなにより。


(師匠ってのはいついかなる時もある程度の対処を求められるんだったよな)


弟子を鍛えている時になにが起きるか分からないということでなにが起きても対象できるというのが理想系だそうだ。


その対応力の測定なども兼ねて伝えられることがないらしい。


闘技場に入ると既に人がけっこうな数集まっていた。


そうして待っていると今回の担当の司会がやってきた。


ヒゲもじゃの男がエプロンをしてた。


(なんだよあれ。お料理番組の撮影でもするのか?)


そんなことを思ってたらおっさんが口を開いた。


「では第二試験を始める」


おっさんがそう言うとゾロゾロとおっさんの横に人が台車を押して入ってきた。


なんていうんだろうか?

分かんないけどホテルとか言った時に料理に被せられる銀色の蓋みたいなのがしてあった。


(まさか、な)


ほんとうにお料理しましょうってわけじゃないだろ。違うよな?


そう思ってたらおっさんが口を開いた。


「えー。第二試験は料理である」


ポロッ。

ガシャン。


手に持っていた剣が落ちた。


「え?」


周りからも似たような反応が出てきた。


「なんで料理?!!!!」

「ワケわかんねぇぞ!おっさん!」


おっさんに向かって物を投げ始める奴までいたが。

おっさんは投げられたものを一刀両断!


(冗談ではさそうだな)


そう思ってたら説明してくれるおっさん。


「人間に真に必要なのは強さなどではない。ならばなにが必要か。答えは食事だ」


それと師匠になるのになんの関係があるんだよと思うが。


「お前たちはいつ弟子と極限状態に立たされるか分からない。極限状態に立たされて食事を現地調達する必要がある時もあるだろう。そのとき必要なのは食べられるものかどうかを見極めるすべだ」


ダン!


目の前の机を叩くおっさん。


「お前たちは師匠として弟子を守らねばならない。師匠であるお前たちが毒が入ってるのかどうかすら見分けられないのは困る」


だから、第二は料理ということらしい。


(まじかよ。料理なんてしたことないぞ俺)


ママ!うどん食べたい!って言ったらうどんが出てくる家で育ってきたから料理なんてほぼしたことない。


「ここに食材を用意してある。その食材を使って好きに料理をしてみろ。それが第二試験の内容である」


ザワザワ。


「マジで料理すんのかよ」

「冗談だろ?あのおっさん」

「うげっ。俺料理したことないんだけど」


男連中はあまりいい反応をしていなかったが、女連中は満更でもなさそうだ、が。


「だがこの食材の中には毒性のものもある」


そこでさらにザワついた。


「毒だって?」

「まじかよ」


そんな言葉が聞こえる中おっさんは言った。


「安心しろ。そこまで強い毒じゃない。腹が痛くなる程度の毒でしかない。そういう毒性のものを見分ける能力なども測定したいだけだ」


ザワザワ。


そこで俺は手を挙げた。


「なんだ?そこの男」


そう聞かれて俺は聞き返す。


「毒の有無についてはどうやって確認してもいい?」

「かまわん。最終的に毒があるのかないのかが分かって調理するのならそれでかまわん。ただし毒入りの材料を使い料理した場合は減点対象だ」


その言葉を聞いて俺はホットした。


なにをしてもいいなら毒の有無は分かるはずだ。


「他に質問はないか?ないなら各自料理を始めてくれ」


そうして始まった第二試験。


ゾロゾロと受験者が散らばっていって材料に目を落として、そして。


【鑑定】

【鑑定】

【鑑定】


あちこちからスキルを発動させているのが見える。

こうして毒の有無を確認するのだが、俺は【鑑定】が使えない。


ではどうするか、となると。


とりあえず俺はリンゴを手に取ってみた。


【センネンリンゴ】


アイテムを獲得しただけはそれの名前とかレア度とかは分かるんだが、それ以上のことは残念ながら分からない。


クルクルと回したりしながらジロジロと見つめる。


「お前はスキルを使わないのか?」


おっさんが俺に近付いてきた。


「残念ながらスキルを使えなくてさ」

「スキルを使えない?冗談だろ?」


【鑑定】スキルは基本中の基本だが、俺はそれを使えないから驚かれたらしい。


しかし俺には特別な【鑑定】方法がある。


手に持ったリンゴを口に近づけて。


シャクリ。


食べた。


(じゃっかんの苦味。毒かこれ)


いつとなら苦味を感じれば吐き出すんだが。


ゴクッ。


人目が多すぎるので飲み込んだ。


「お、お前それ毒りんごだぞ?」


俺にだけ聞こえる声量でそう言ってきたおっさんに答える。


「どうやらそうみたいだな」


ガサッ。

近くにあったゴミ箱にリンゴを捨てた。

それから別の食材を手に取った。


次は


【センネンモヤシ】


モシャッ。


同じように口に近付けて食べた。


(うん。これはいけるな)


適当にモヤシを取ってそれを更に載せた。

野菜炒めでも作ろうと思う。


「お、お前。これから選ぶ材料全部毒味するつもりなのか?」


そう聞かれてうなずきながら話す。


「毒入りを食べる分には問題ないよな?料理をしてしまえばダメみたいだけど」


そう聞いてみるとうなずいたおっさん。


「か、かまわんがお前毒入り食べてなんともないのか?」

「まぁ、特には大丈夫かな」

「ひょ、ひょっとして毒無効スキル、とかなのか?」

「いや、ちがう」


そんなものはない。


「我慢して食べてるとかなのか?」

「それも違う」


俺は次にキノコを手に取ってみた。

それも食べてみると


「毒か」

「体張ってんなお前。明日には腹痛がとんでもないことになっても知らないぞ?」


そう言われて答える。


「大丈夫だよ」

「な、なにがだ?」


おっさんの目を見て答える。


「俺、毒が効かないんだよね」


そう言いながらキノコを捨てた。


「効かない?どういう意味だ?」

「耐性がある」


毎日少しずつ毒を体内にいれる。

そうすれば体の中で抗体ができて、それが毒を殺す。


結果、俺には毒が効かないというわけだ。


騎士団長仕込みの拷問対策がこんなところで役に立つなんてな。


おっさんが俺を見てきた。

その目はひとめ見て驚いていることが分かった。


「お前何もんだ?まさかアサシンの1家の生まれとか?」


そう聞かれて首を横に振った。


「ただの元騎士だよ俺は」


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