第29話
「終了です」
闘技場上のパネル表示が50になったところで司会が口を開いた。
(50人以下になるとそこで終了なんだろうか?)
俺は背後から奇襲しまくってひたすら人数を減らすことに貢献した。
そして無事に生き残り戦は終了という流れとなった。
どうにか最初の試験を突破することが出来たらしく安心する。
司会がそうして続けていく。
「前年からの参加者がほとんどですね。おや?」
そうして俺の顔を見た瞬間首をかしげる。
「あなたの顔を見るのは初めですね」
そのときザワザワし始める会場。
「初めてで今のを乗り越えたのか?」
「うそだろ?」
「俺なんて最初は何も分からず倒されたってのに」
そんな言葉が聞こえる中司会は続けた。
「まぁ、なにはともあれおめでとうございます。まぐれではないことを祈りましょう。ちなみにですが本来であれば1対1の勝負をこちらも想定していたのですが、いつからかあんなふうになってしまったのですね。第一試験は。まぁ、それは置いといて。次の説明をしましょうか」
そう言ってこれからのことを説明すると司会は降りていった。
これにて第一試験が終わったようだった。
次は第二試験。
今度からはちゃんとした試験が行われるようだ。
第二試験だが明日になるらしい。
(今のは当初の予定では乱戦にはならないものだったんだな)
そう思いながら俺は試験会場を出ることにした。
それで、試験会場を出てみると。
「こんにちは」
声をかけられた。そちらを見てみるとさっきの司会が立っていた。
「俺が出てくるの待ってた?」
「えぇ、はい」
そう言ってこう続けてくる司会。
「ここの試験を受ける前に倒れている人を助けてましたよね」
「ん?」
そう言われて酔いつぶれた奴に水を渡したのを思い出した。
あれのことを言ってるのだろうか。
「あなたのことはよく印象に残っていますよ。あれだけ他人に優しくできる人は珍しいですからね」
そう言って彼女は手を差し出してきた。
「私は師匠のシエルと言います。以後お見知り置きを」
「師匠?」
「えぇ、私は普段は師匠とか冒険者とかやってますが、そのかたわらにこうやって試験の司会を頼まれたりするのです。今日はそれでここにきています」
(ふーん。なるほどねー)
師匠になるといろんな仕事があるらしいな。
「これから師匠になるのでしたら師匠同士仲良くしたいと思いましてね」
そう言っている彼女に聞き返す。
「早くないか?俺まだなってないんだけど」
「あなたならなれますよ。勝ち上がる人間というのは勝ち上がる前から分かるものですから。ひと目見たら分かるんですよ」
(俺が勝ち上がるって信じてるってことか。よく分からないけど)
そう思っていたらシエルはこう続けた。
「では。第三試験で待っていますよ」
「第二は?」
「担当は私ではありません。次会うのは第三ですよ」
そう言って歩き去っていった。
どうやら俺の事を目にかけてくれているらしい。
既に師匠として活躍している人間に目をかけられるなんて嬉しいことだな。
(これじゃ簡単に退場はできないな)
そう思いながら俺は今日の宿屋を探すことにする。
「金にも余裕ができたしちょっといいところに行ってみるか?」
隣を歩くミーナに聞いてみた。
「私はどこでもいいんですが」
「がははは。金は使う時に使えるものだ」
そう言いながら俺は宿屋に向かっていった。
そして中に入ると俺はカウンターに向かってそのまま受付の人に話しかけた。
「一部屋、借りたいんだが」
「一部屋でいいのですか?」
そう言って俺の後ろを見てくる女の人。
俺の後ろにはフェルとミーナがいた。
フェルはソファだろうが床だろうがどこでも寝れるらしいからベッドなんていらないし、本人もそれでいいと言ってるけど。
(ベッドの気持ちよさを教えてやってもいいのだろうか?)
とかいろいろ思う。
「あーちょっと待って……」
俺は考えた。
うーん。部屋を増やすか。どうするか。
それとも部屋のグレードを上げて広い部屋にするか、だよな。
いろいろ考えていたときだった。
カランカラン。
新しい客が入ってきた。
(盗賊か?)
目の部分だけが開いた装備を身につけた男が俺たちの方に歩いてきた。
たぶん、部屋を借りたいんだろうか?とか思ってたけど。
ガッ!
俺を羽交い締めしてきた。
(この力……男か)
ギリギリと俺を締め上げる男。
「金を出せ。この男がどうなってもいいのか」
首筋にナイフを近付けてきた男。
そしてテンプレのような言葉が出てきた。
(盗賊じゃなくて強盗だったか)
不覚!
と思うじゃん?
(正直。またか、って感覚しかないんだよなぁ)
騎士団にいたときこの手の連中の相手は日常茶飯事だったからな。
そのため騎士に配られる私服なんかはナイフから身を守れるくらいの性能を持っていたりする。
ここでナイフを動かされてもエリが勝手に変形して身を守ってくれる便利アイテムだ。
「お前俺を人質に取ってどうするつもり?」
「しゃべるな!」
そう言ってくる男に続ける。
「俺に人質の価値なんてないぞ?人質に取るならもっと同情を誘えるような奴にしないと。そういうことも分からないのか?」
例えば、子供とか女とか。
思わず助けたくなるような人間を人質に取らないと。
「冷静に考えてみろよ?こんなヒゲすら処理しないようなオッサンを人質にとって、誰か助けたいと思うか?」
ミーナくらいの変わり者くらいだろうな俺を助けたくなるなんて。
まぁ、もっとも。
「人質に取った相手が悪かったな?」
「あん?」
そう聞いてくる男に答えた。
「今から見せてやるよ。俺を人質に取った時点でお前の負けだってこと」
【武装強化】
俺と男の体は密着してる。
魔力を俺から男を伝わせて流し込んでナイフへと。
そして、男が持つナイフを【武装強化】していく。
「お前、なにしてんの?俺のナイフを強化して何がしたいの?あほなの?」
ニヤニヤしながらそう聞いてくる男に答える。
「オーバードーズって知ってる?」
「オーバードーズ?」
そう会話したときだった。
ピキリ。
ミシッ。
「な、何の音だ?これ」
「お前が手に持ってるものを見れば分かるさ」
パリン。
ナイフの刀身が割れたその瞬間。
「うげっ?!なんだこれ!」
男が驚いた瞬間に俺は男の顎をヒジで思い切り叩きつけた。
男はそのまま後ろに倒れ込んでいく。
「魔力の過剰摂取でナイフが壊れたんだよ。【武装強化】もやりすぎれば武器が壊れる」
男は気絶して聞いていないだろうが、説明して俺はカウンターに目を戻した。
話の続きをしよう。
「あー。部屋はひとつでいいよ」
そう言って見ると受付の人がこう言ってきた。
「え?あ?え?」
俺と男を交互に見る。
「なに?」
「な、なんで普通に話してるんです?」
「なにかおかしい?それより部屋の話なんだが」
そう聞き返してみると女の人はこう言ってきた。
「お、お部屋は最上級のものをお貸ししますよ。りょ、料金は無料でかまいません」
(無料?!まじで?!)
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