第28話 試験

グレンマルド帝国に着いた。


えーっとまずは


ピラッ。

サイクロプスにもらった紙を手に取って俺は紙面に目をやった。

そこにはこうあった。


「第四闘技場にお越しください、か」


どうやらそこで師匠選定試験というのが行われるらしい。


で、気付いた。


「試験、ってことはテストだよな?」


ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

頭を両手で抱えて悶絶した。


「どうしたのじゃ?発狂しおって」


フェルがそう聞いてくる。


「いや、その。テストというものに俺はいい思い出がなくてな」


そう思い出しながら前世のことを思い出した。


俺の小学校はテストの順位が張り出されてたんだよな。


別にビリじゃないけどほとんどの教科の出来が悪かった俺は常に嘲笑の対象だった。


『あいつよりはまし』

『また赤点回避したくらいか』

『根暗のくせになんであんな点数悪いんだアイツ』

『陽キャとかヤンキーなら分かるけどなwww』

『勉強もできないとかwww』


みたいな感じでずっと嘲笑されてた。


しかも友達だと思ってた陰キャ連中にまで。


もうそれで心折れたね俺は。

他人のこと信用しなくなったよ。


ってわけで。


「本気出すわ本気」

「本気?」

「あぁ」


30代のおっさんが年甲斐もなく本気出しちゃう。

小学生の頃に出せなかった本気をここで出しちゃうよな。


まぁ俺の本気なんて大したことないんだが。


「ってわけで、闘技場に行ってみようか」


そう言って俺は闘技場に向かう事にした。


「それにしても広い帝国だよなぁ、ここ」


第一闘技場、第二闘技場、第三闘技場ってなふうに番号が割り当てられるくらい闘技場の数があるもんなぁ。


ミーナがキョトンとした顔で俺を見てた。


「ん?顔になんかついてる?」

「あ、いや。その。イカロスさんってほんとになんにも知らないんですねって思って」

「そう。おっちゃんなんも知らないわけ!」


自慢じゃないけど。


「この帝国は剣聖の国と呼ばれてるんですよ」

「剣聖の国?」


へー。

そんな別名があるんだな、この国。


「でもなんで剣聖の国なんて言われてるわけ?」

「剣聖になられる方はこの国に修行にくるというのが流れになっていますから」


それからフェルが続けてくる。


「昔からの伝統じゃな。剣聖になりたかったり剣を上達したかったらこの国にくるというのはな。ワシが子供の頃からの伝統じゃよ」

「フェルはじゃじゃじゃって言ってるけどけっこう年いってるの?」


デリカシーない質問したと思うけど、こいつのことぜんぜん知らないしなぁ。


「500年くらいは生きてるんじゃないか?」

「ごっ!」


500年?!


「あ、すまん。数字間違えた。5000年くらいかのう?」


おぉ……すげぇ。

年配は敬わないとな。


なんて会話をしながら思ってた。


(子供のころからの伝統かぁ。フェルの子供時代が仮に1000年くらいを意味するとしても4000年くらいはこの伝統が続いてる訳なのか)


とにかく中国4000年の歴史と同じくらい長いらしい。


すげぇ、長い伝統だ。


そうして歩いていたら第四闘技場前の酒場で壁に背を預けて倒れてる男を見つけた。


かつての俺のようだった。


「イカロス?」


そう聞いてくるフェルには答えずに女に近寄ると俺は男の横に水を置いてやった。


俺を見てくる男に答えた。


「やるよ。まぁそういう(酔いつぶれたくなる)時もあるだろうさ」


そうとだけ言って俺は闘技場の方に向かった。

遅れないようにしないとな。


そうして闘技場に向かう。

その時どこからか視線を感じたような気がしたが、どこから見られてるのかは分からかった。


「気にしなくていいと思いますよ。この視線は。悪意を感じませんから。それよりは……これはいい反応だと思います」


ミーナもそう言ってたから、気にすることは無かった。




第四闘技場の中に入ると人がいっぱい居た。


(こいつら全員俺のライバルってかんじなのかな?)


200人くらい?いるだろうか。

数えたわけじゃないけど、闘技場の上の方にパネルがあってそこに数字が表示されてた。

その数字が197になってたから、それが人数の表示じゃないか?って思う。


それくらいの人数の男女がこの闘技場にいた。

それを見て思い出す。


(あーそういえばこれの応募条件実務経験あり、だけだっけ?)


冒険者としてだったり騎士としてだったり。


とにかく実務経験があれば応募はできるらしいし、それで応募が殺到していたのかもしれない。


俺もその口だし。


(推薦されたらほとんどのやつは応募するよな。そりゃ)


そう思いながら待っていると司会者が俺たち応募者の前に現れた。


若い女だったが


(剣か)


剣を帯刀していた。

ということはこいつも剣士というわけか。


その女が口を開き始めた。


「ただ今より師匠選定試験を開始します。よくお聞きください。説明は一度きりです。1度きりしか行えません」


(行えません?行いません、じゃなくて?)


そう言って俺たちを見てくる女。


さらに説明を続けてくる。


「最初の試験ですがとさせていただきます」


(トーナメント戦のことか?生き残り戦?)


俺の疑問もよそにどんどん話を進めていく司会の女。


「生き残り戦ですが、決闘の確認作業をお願いします。それで確認作業が終わりましたら、剣をお互いに抜いて宣誓を行います。それが決闘の勝負の合図です」


(なんだこれ?ん?)


トーナメント戦の説明か?


俺がそう思ってたら


司会が続ける。


「皆さん戦う準備はできていますか?」

「「「はい!」」」


(なんだこいつら?


こうなることを知っていたかのような返事をしている。


そこで思った。


(これ、ただの開会式じゃないな?!)


そう思い警戒しながら俺は話を聞いていく。

司会が次の指示を出した。


「では各自剣を抜き天に掲げてください」


スっ。

周りにいたやつらが剣の柄に手をかけた。

そしてスっ。


剣を引き抜いて。

それを見た司会が口を開いた。


「皆様の試験がいいものになることを願っています。これにて宣誓終了とさせていただきます」


司会がそう言った瞬間だった。


ブン!


俺の後ろに立っていたやつが剣を振り下ろしてくるのを感じた。


「なっ?!」


「ちぃっ!」


しかし、それは俺たちだけで起きたことではなかった。


「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


各地で闇討ちが始まっていた。


「お、おい!止めてくれ!あんた!」


誰かが叫んでいたが司会は止める様子は無い。


(なるほど。そういうことか)


俺たちは


それが開始の合図になったらしい。


ここにいるやつら全員もう敵になったんだ。


(なるほどな。これは生き残り戦、だな)


そう思いながら俺は最初に斬りかかってきた男に峰打ちを食らわせた。


「ごはっ……」


そのまま倒れていく男。


「安心しろ。峰打ちだ。死にはせん」


さて、


(生き残らないとな)

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