第25話 かつてないほどのハードル

「最初に出てきた家族以外全部幻だろ。他は邪魔だから消えろよ」


幻覚は幻覚であることを理解すれば解ける


そう言ってみると幻が消えていき人の数が減っていく。


(かわいそうにな。そもそも俺はこういう精神干渉系の魔法には意外と耐性もある。敵に操られないように、耐性をつけられているんだよな)


今も団長の言葉が聞こえてくるようだ。


『幻覚魔法ごときスキルを使わず無効化してみろ。殴れば死ぬような軟弱な魔法使いに負けることは許さんぞ。末代まで恥だな。あ、お前が末代か。すまんすまん』


目の前に残ったのは俺の母親と父親と兄貴だった。


「あーあ。殺したいと思ってたんだよなぁ、お前らのこと」


まず兄貴の首を両手で掴んだ。


「ぐぎ、ぐぎぎ」


宙吊りにするとそのまま両手に力を込めて指に力を込めていく。


「あはっ。あははは。化ける相手は選ばないとなぁ。俺の家族に変身したところで火に油を注ぐだけだって」


「あ、あぐっ」


口から泡を吹いて穴という穴から汚物を垂れ流して絶命した兄貴。

その死体を投げ捨てて俺は次に父親に向かって同じように殺した。


残ったのは


「な、なんなんだよお前」


ただ怯えるだけの母親。


「魔法がやっぱり効いてないのか?」

「なんの話だ?魔法なら効いてるよ?」

「じゃ、じゃあこれならどうだ!」


そう言って母親はミーナに変わった。


「な、なにをするつもりですか?!近寄らないでください!」


「奴隷のお前が主人の俺になにか言えると思ってんの?俺が近寄れば黙って受け入れるのが奴隷の仕事だろう?」


「こ、こいつ性根が腐りきってるせいで、魔法の意味がないぃ」


「それとな。ミーナはそんなこと言わないよニセモノが。ちゃんと本物の真似しろよ」


その時偽物のミーナの顔面がぐにゃぐにゃ揺れる。


そこで俺の意識は現実に帰ってきた。


完全に幻覚が解けた。


目の前にいたのはアシッドだった。


「イカロス様!助けに来ました!って、まさか自力で帰ってきたんですか?あ、ありえませんよ?」


ミーナが近寄ってきてた。


そして周りには魔法使いふたり分の死体。


「おぎゃああああああああ、ママああああやめてえ、、、はっ?!わ、私は何を?!」


そこで目が覚めたようにこっちに駆け寄ってくるアクア。あいつも幻覚が解けたらしい。


「なぜ精神干渉魔法が効いていない!」

「バッチリ効いてたよ?」

「な、なぜ立てるのだ。氷剣のように普通はその場で立てなくなるというのに」


それからアクアは俺を見てきた。


「あの暴言の中立てるなんてあなたはすごい人だ。私はすごい数の暴言が聞こえてきたのだが」

「あぁ、そのことならさ。


あれくらいの暴言の数々。慣れてる。


俺はどこにいっても嫌われ者で暴言吐かれてきた。


「あんなのなんだよ」


そう言うとアシッドは絶望したような顔をした。


「こいつ、まともな精神状態じゃないから普通の効果が出なかったのか?」

「そういうことじゃない?残念だったな。ここにいたのが俺じゃなければお前らの勝ちだっただろうな」


普通の人なら見知った人間にあれだけの暴言吐かれたら、傷つくだろうけど。


「耐性があるんだよね俺」


ネットでも現実でも息をするように暴言を吐かれてたからもう慣れてる。

暴言は挨拶。煽りは挨拶。


死ねって言われたらおはようって言われてると思えばいい。


他もそうだ。何を言われても挨拶されてると思えばいいんだよ。

そうすればやがてなにも思わなくなる。


「み、みごとなり、すいけん殿」


そう言ってアシッドは目を閉じた。


「殺してください。このアシッド、あなたのような人に殺されるのであれば本望だ。ぜひ、あなたの手で」


口だけをゆがめて笑った。


「な、なんですか?その顔は」


アクアに目をやった。


「俺は性格悪いんだよ。勝手に満足して自分の望んだ死に方ができると思うなよ?やってくれ」

「了解」


ザン!


剣を胸に突き立てるアクア。


「あなたは最低にして最高だ。だが、ごふっ。気をつけることです。この先【武術班】もいる。そちらにはあのお方がいる」


そう言ってアシッドはダラりと腕を垂れ下げた。


(あのお方?)


そう思ったが。


「死体は燃やしておいてくれ。【夜の王】みたいに蘇生されたら二度手間だからな。きっちり殺す。学んだよ俺は」


コクっとうなずくと火をつけて死体を燃やし始めるアクア。


馬に乗り直すと無言でアクアは前に進み始めた。



そのまま森の道を進んでいくとやがて洞窟の前にたどり着いた。


そしてその洞窟の入口前には足跡があった。


人間の。


「先客がいるわけか」

「武術班のものでしょう」


俺はアクアに目をやった。


「お、汚名を挽回するぞ!私は!」

「がんばってくれよ?」

「あ、あぁ!もちろん!」


そうしてアクアはそのとき洞窟に繋がる穴の横を見た。

そこは壁になっていたのだが、


「さっきから気になっていたが、これは?」


そう言って壁に手を着く。

そこには一本の線が刻まれていた。


「夜の王がマーキングでもしたんじゃないのか?」

「いえ」


そう言ってミーナは鑑定スキルを使ってた。

すると


「な、なぜ。この人がここに?」


そうつぶやいてた。


「なに?」

「この奥に進むのはやめたほうがいいかもしれません」


そう言ってくるミーナ。


「この傷をつけたのは【剣帝】です」



またなんか新しい単語が出てきたが、文字から察するにめっちゃ強そうなやつだな。


「それは本当か?」


アクアが聞いていた。


「は、はい。間違いありません。この傷は英雄と呼ばれた【剣帝】レーヴァテインがつけたものです」


俺たちの顔を見てくるアクア。


「すいけん殿、撤退しましょう」

「なんで?」

「【剣帝】はやばい。さっきのアシッドなんて比じゃないって」


そう言って馬に乗るアクアに声をかける。


「汚名を挽回するんじゃないのか?」


そう聞いた時だった。


「がっ!」


ブン!

鞘でぶん殴られてアクアが吹き飛んで行った。


吹き飛ばしたやつを見てみると男だ。

ちょうど穴の中から出てきたのだろう。


「【剣帝】レーヴァテイン。これが剣使いすべての頂点に立った人類最強の男……」


ミーナが呟いた。


身長2メートルはあろうかと思えるような男が


「グルル……」


夜の王の首を掴んで引っ張って洞窟から出てきていた。


顔面傷だらけの男。


(やっべぇの出てきたな!)


分かる!もう分かっちゃうよ!


こいつぜったい強いやつだわ!


てかさぁ。


氷剣殿弱くない……?

ここまで道案内以外のことなんもしてないんだけどあの人。


もう少し頑張れないのか?

俺ひとりでこいつの相手するの?


かつてないほどハードル高くないか?


(おいおい、【剣帝】VS【剣底】ですか?冗談きついよ)


お手柔らかにお願いしますぅぅぅぅ。






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